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弁財天とクロガネ遣い  作者: 坂本光陽


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B:〈クロガネ遣い〉


この世界は最低で最悪だ。


〈クロガネ遣い〉は子供の頃から、うすうす感づいていた。世の中は不完全で不公平である。大人の唱える〈努力と忍耐の尊さ〉は嘘っぱちだし、〈悪徳と欲望の愚かさ〉も間違っている。いつだって真実というものは、巧みに隠蔽いんぺいされているのだ。


 隠蔽というものは、重要なファクターである。なかったことにされた犯罪は数えきれない。わかりやすいのは、権力によって握りつぶされたものだ。まるめこまれた捜査当局はスルーだし、うるさいマスコミから追及される心配もない。万が一、藪をつついてきたら、さっさと処分するだけだ。


 こうして考えていると、権力とはカネだ、と言い換えることができそうだ。

「世の中、カネだ」おっさんが飲み屋で口走るセリフは、ある意味、真理をついている。「地獄の沙汰もカネ次第」というわけだ。


 カネを嫌う者はいない。一人もいないと言い切っていい。社会の底辺を這いずる者から、国の舵を取っている者まで、全人類の大好物なのだから。皆、貪欲にカネを漁っている。カネの魔力にとりつかれているとはいえ、何とも浅ましいことだ。


〈クロガネ遣い〉は知っている。カネが全てを支配している。より正確を期すなら、〈カネの流れ〉が世界を支配している。


 どんな人間も、〈カネの流れ〉から逃れることはできない。目には見えなくとも、人間は皆、〈カネの流れ〉にがんじがらめにされている。かつて、世界大恐慌やブラックマンデー、リーマンショックという大規模な金融パニックが発生した。


 今後も間違いなく起こるだろう。例えば、トランプ関税を引き金にして、全世界を巻き込んだ貿易戦争が勃発するかもしれない。もし、何も起こらなかったら、〈クロガネ遣い〉は自分で仕掛けるつもりだ。


〈クロガネ遣い〉は、大いなる存在から、力を授かっていた。人智を超えた能力であり、ある種の権力といってもいい。


 手始めに、国内の大手証券会社を攻撃してみることにした。ターゲットとして選んだのは、極秘裏にアジア某国に設置されたデータベースである。〈クロガネ遣い〉は、現地のならず者たちを雇って、破壊工作を行った。


 プラスティック爆弾を仕掛けてハードの中枢を爆破したのだ。ハッキングという上品な手段を選択しなかったのは、単に〈クロガネ遣い〉の趣味にすぎない。もっとも、荒っぽいミッションにも関わらず、奇跡的に死傷者はゼロだったのだが。


 証券会社のデータベースが破壊されて、莫大な情報は失われたのに、そのニュースは日本には伝わってこなかった。なぜなら、そのデータベースは表向き存在しないことになっているからだ。


 海外メディアが小さく報道したが、なぜか、反政府ゲリラの掃討作戦と、真相は捻じ曲げられていた。もしかしたら、〈クロガネ遣い〉の意図せぬところで、〈神の見えざる手〉が働いたのかもしれない。


 大手証券会社は当初、データの被害は軽微だと考えていた。爆破される寸前に、データの大部分が本社に転送されていたからだ。


 証券会社は、最重要ランクの顧客のために便宜べんぎを図っていた。その便宜とは、非課税の秘密口座である。禁じられている損失補てんも適時対応しているという、特殊な口座だった。こちらも表向き存在しない口座であり、カネだった。


 そんなものは最初からなかったとされている。だから、決して公にできないし、捜査当局だって関知しない。責任者が数人行方不明になり、関係者に自殺者も出たという噂もあったが、誰一人、公には認めない。そもそも、信頼に足る裏付けは皆無なのだから。


 口座の消滅によって、いくつかの〈カネの流れ〉は途切れた。だが、消え失せたわけではない。それを勝手に引き継いだ者が存在した。


 言うまでもない。〈クロガネ遣い〉その人である。



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