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弁財天とクロガネ遣い  作者: 坂本光陽


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C:神々の黄昏


 弁財天カノンは苛立っていた。

 こんなはずではなかった。計画を立てて実行すれば、すぐに結果が出るだろう。それが彼女の思惑だったのだが、どうやら考えが甘かったようだ。


 もちろん、〈クロガネ遣い〉捜索についてである。

 啓杏大学のキャンパスで、怪しげな気配を感じたことは、これまでに五度あった。正確に言えば、どす黒いカネの流れ〈暗黒潮流〉の臭いである。かすかな手がかりではあるが、毎日キャンパスに通い詰めていれば、そのうち〈クロガネ遣い〉の動きを察知できるだろう。そう見込んでいた。


 しかし、敵は尻尾を掴ませない。すでに二週間以上、気配を絶っている。手がかりは皆無だった。カノンの動きに気付いて、逃げをうった可能性もある。このまま、ここでの捜索を継続すべきか、捜索の場を他所よそに移すか、悩ましいところだった。


 そういえば、空っぽ頭の狗藤が「黒之原が〈クロガネ遣い〉なのではばいか」と口にしていた。その可能性は限りなく低いのだが、ゼロではない。〈クロガネ遣い〉予備軍であることは確かだ。ただ、決め手がない以上、疑惑は疑惑にすぎず、依然としてグレー状態である。


 カノンは考える。黒之原のようにカネに汚い人間は多い。おそらく、国民の一割はそれに該当するだろう。1億2380万人の一割だから、1238万人の容疑者か。気の遠くなるような話である。


 やはり、キャンパスでの捜索を継続しよう。不本意ではあるが、長期戦を覚悟するしかなさそうだ。じっと待ち続けることはカノンの最も苦手とするところだが、ここは忍の一字で我慢することにする。


 振り返れば、カノンはいつも短気で損をしてきた。せっかく敵を見つけたのに焦って攻撃をしたために取り逃がしたり、周囲の制止を無視して強引に攻め立てて大きな街を一つ破壊したり。


「おまえは、いつも我慢が足りない。いいかげん、辛抱というものを覚えろ」

 耳にタコができるほど、直属の上司から、繰り返し叱責を受けてきた。苦みばしった老神ろうじんの顔を思い出しただけで、カノンは苛立ってしまう。


 苛立つといえば、狗藤の情けなさには本当にイライラさせられる。人間界では、二十歳になると一人前と見なされるらしいが、贔屓目に見ても半人前だ。主体性がないし、責任感に欠ける。自分の頭で考え決断し行動する、ということができない。


 神々の世界には、「頼りない人間こそ、神のしもべに適している」という言い伝えがある。


 バカバカしい。一体どこの誰が、そんないいかげんなことを言ったのか? おそらく、脳ミソの干からびた老神だろう。何の根拠もないのに、もったいぶった言い回しで、えらそうな口調に説いたにきまっている。


 神々の世界といっても、その実情を表現するのに、荘厳や厳粛といった言葉はあたらない。いいかげんで怠惰、口先ばかりの無責任。なのに、プライドだけは高く、とかく見栄を張りたがる。そう、人間界とほとんど変わらないのだ。


 老神は遠い目をして過去の成功体験を誇らしげに語るが、粉飾されて真実から遠ざかった記憶から得るものはほとんどない。それでなくても、時代は移ろいやすく、変化しつづけている。百年前、千年前の教訓が現代に役立つとは思えない。


 いや、現代に役立つはずがない、とカノンは思う。現代には現代の状況に合わせた手段、発想、取り組み方があるはずではないか。


 なのに、老神は頑なに、自説を曲げない。彼らの説いた教えを疑うことは、老神の存在自体を否定することにつながる。神々の世界では、決して許されないことだ。言ってみれば、究極の年功序列世界なのだから。


 もしかしたら老神の意固地は、長寿から来ているのかもしれない。数百年、千年という長寿がもたらした筋金入りの頑固さに、カノンごときが太刀打ちできるはずもない。不平不満を押し殺して、しぶしぶ老神の教えに従うしかなかった。


 愚かな老神は反面教師にしよう。自分は絶対に意固地にならない。頑固にもならない。そう、カノンは心に誓った。


 その代り、平常心と柔軟な思考は常にキープしておく。融通の利かないガチガチ頭では、視野が極端に制限されてしまう。目の前に問題のヒントが転がっていても、うっかり見過ごしてしまうかもしれない。


 焦らず腐らず、肩の力を抜いて、周囲への目配りを怠らない。それが今なすべきことである。弁財天の職務、組織人として生きる術。基本的には、人間の宮仕えと何ら変わらない。神々の世界も意外と世知辛せちがらいのだ。


 大きな声では言えないが、カノンは神々が堕落したと思う。老神の実情を見れば、誰の目にも明らかだ。神話や伝説に登場するような威風堂々とした神々は、きれいさっぱり、どこかへ行ってしまった。


 まさに、〈神々の黄昏〉である。



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