第6話 暴走
深夜、山奥の生命の郷。
一台の高級車が峠道から現れて、停車した。
「これは、三雲博士。こんな時刻にどうされましたか?」
施設の正面ゲートを警備していた警備兵が尋ねる。
「ラボから、いつもとは違う監視データが送信されてきてね。念の為に確認
をしに来たんだよ。」
「そうでしたか。お疲れ様です。」
警備兵は会釈をして、ゲートを開いて三雲を正面玄関へと通した。
施設の奥深く、施錠された扉の向こうに三雲は静かに足を踏み入れた。
冬木に不当に契約を解除されるかもしれない。身の危険を感じた彼は、冷徹な計画を実行する時が来たと悟っていた。
研究室の奥には、密閉された培養室が並んでいる。
中には蜂の形と蜘蛛の形をしたの生物が、幼体から成長した個体まで保管されていた。
三雲が操作パネルに手をかけると、容器のロックが解除され、扉が開く。
闇の中で動き出した体長2メートルを超える生物は、ただの昆虫ではなかった。
その動きには、人間としての知能の片鱗を感じさせるような、計算された冷静さがあった。
視線は周囲を鋭く観察し、攻撃対象を瞬時に判断するような挙動を見せる。
三雲が培養室の扉を開き、蜂型・蜘蛛型の生物兵器を解放したのだ。
異形の生物は、冷徹に空間を把握して動き始める。
その頃、施設内の信者たちは何も知らず、夜の作業や点検をしていた。
突然、振動と低く響く羽音が広がり、闇の中から蜘蛛型の巨大な個体が現れた。
信者たちは恐怖に声を上げ、逃げ惑う。
蜂型の群れも加わり、規則正しく狙いを定め、信者たちを次々と襲う。
叫び声と混乱の中、森や建物は悲鳴で満たされる。
単なる昆虫ではなく、人体実験で得た人間の知能を駆使して生きる生物が逃げ場を塞ぐ。
信者たちはほとんど抵抗できず、群れに追い詰められ、恐怖に凍りつく間もなく命を奪われていった。
悲鳴は夜の闇に吸い込まれ、生命の郷の静けさは一瞬にして凶暴な緊張に包まれた。
警報の音に反応して鷲尾は出入り口の扉を見た。電子ロックの灯りは赤色から緑色に変わったいた。
「今なら中に入ることができる?」
躊躇する事もなく、鷲尾は慎重に扉を開けて内部の様子を窺う。
目の前に広がっていた光景は地獄そのものだった。
大きな蜂が鋭い口先で信者の首を嚙みちぎり、太い針が背中を突き刺す。
大きな蜘蛛は、口から粘液を吹き出して信者を拘束し、鋭い爪で刺しながら体液を吸う。
空気の変化、振動、低く響く羽音が。そして信者たちの消えた叫び。
「……何が起きている……!」
逃げ惑う人々の姿はなく、代わりに巨大な影と、冷徹な動きが彼の前に迫る。
蜘蛛型と蜂型の群れが規則正しく、鷲尾を包囲しようとしていた。
警報が鳴り響く中、香坂は走っていた。
「胚だけは確保する……」
冷静に、夜闇に紛れて施設の別棟へと侵入する。
鷲尾は背筋に冷たい恐怖を感じながらも、冷静に見知らぬ生物の動きを観察し、脱出の方法を模索する。
振動、羽音、壁際を這う蜘蛛の脚。
生命の郷に潜んでいた恐怖からは逃れられない。




