第5話 異変
主任研究員の三雲は、宗教団体「生命の郷」の幹部である冬木から呼び出されていた。
「あまり、研究が進んでいないみたいね。」
冷たい言葉に、三雲は背筋が凍る思いをした。
「今月中に、それなりの結果を出すことよ。でなければ、契約の解除になるわ。まぁ、次の人事の算段はついているけど。」
研究経験も、忠誠も、何もかもが一瞬で否定された瞬間だった。
「……冗談じゃない!」
三雲は声を荒げた。だが冬木は微笑みすら浮かべず、書類に目を落とした。
普通に解雇されて、それで終わりな訳では無いだろう。口封じの為に消される。
胸に冷たい恐怖が走る。
暗い車庫に戻った三雲は、重い呼吸を繰り返す。
頭の中で、正気と狂気が交錯した。
「……やられる前に、やるしかない。」
三雲は身の危険を直感し、理性を超えた決意に突き動かされた。
怒りと恐怖が交錯し、彼は計画を冷静に組み立て始めた。
自分を裏切った組織への復讐、そして生き延びるための行動を。
山奥の生命の郷では、鷲尾の潜入生活が続いていた。
潜入生活も一週間が過ぎ、鷲尾は信者たちの日常にほぼ溶け込み、親しく会話できる信者も増えていた。
鷲尾は施設内の倉庫や建物を、作業の合間にこっそり観察した。
普段立ち入らない奥まった部屋や地下への通路、施錠された扉がいくつもある。
表向きは農具や食料の保管場所のように見えるが、どこか不自然さを感じる。
「何とか、あの大きな建物の内部に入る方法を探さなければ…」
畑仕事や家畜の世話、食事の準備は単調だが、彼にとっては情報収集の絶好の機会でもある。そして、道具を用意する為にも。
夜、親しくなった信者に散歩だと伝えて宿泊施設から外出した。
昼間の作業の間に手に入れていた工具を使い、有刺鉄線の柵を抜けて敷地の中に入る。
監視カメラと警備員の監視を潜り抜けて、建物の出入り口に辿り着く。
しかし、扉は固く閉ざされており、カードキーで開錠する電子ロックは施錠を伝えるように赤色に点灯していた。




