第4話 窮地
夜、鷲尾は宿泊施設を抜け出し、森の奥に続く小道を一人で確認していた。
他に、警戒や注意をしておかなければならない事実を確かめるためだ。
外は静まり返り、月明かりに照らされた木々の影が揺れている。
足音を立てぬよう慎重に進む。
しかし突然、背後で物音がした。
振り向くと、宿泊施設に残ったはずの信者が、怒りとも疑念ともつかない目で立っていた。
「お前、何をしている!」
その声に、他の信者数名も集まり始める。
鷲尾は咄嗟に言葉を探すが、説明する余裕もなく、囲まれてしまった。
「新参者だからな、信用できるわけがない!」
一人が手を伸ばして鷲尾の腕を掴もうとした瞬間、冷静な声が割り込む。
「やめなさい」
低く落ち着いた声が空気を切り裂き、集まった信者たちの視線が一斉にその声の方に向いた。
細身の女性が静かに現れた。
「香坂さん⋯」
信者の一人がそう呼んだ。
女性の動作には無駄はなく、場の空気を一瞬で掌握する力があった。
「私も気分転換に静かな山道で散歩をしたくて外出しました。この方はこの村に来て日が浅いのです。事情を知らずに問い詰めるのはやめましょう」
その女性の一言で信者たちは黙り、絡もうとしていた手を引いた。
鷲尾は肩の力を抜き、思わず安堵する。
女性の落ち着きと目つきに、不自然さや計算の匂いを感じることはなかった。
「ありがとうございます……」
鷲尾は軽く頭を下げ、女性は小さく微笑むと、そのまま姿を消した。
その夜、鷲尾は宿泊施設の窓から、森を見下ろしながら思った。
表向きの日常は変わらない。
だが、この宗教団体は異様だ。元刑事の感が知らせる。改めて潜入調査の緊張感を身近に感じた。




