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第2話 潜入
近眼ではないが、伊達メガネをかけた。刑事だった頃の鋭い目つきを少しでも誤魔化す為だ。
石田に指示された街の路地を歩いていると、声をかける勧誘者が現れた。
「自然と心の調和を取り戻す場所があります。少し見学してみませんか?」
落ち着いた声に誘われ、少し演技をして軽く頷いた。
失踪事件の調査という石田からの指示を意識しつつ、鷲尾は自然な理由で宗教団体の施設に足を運んだ。
翌日、他の信者たちとバスに乗り、山奥の施設へ連れられた。
深い森や川の間を抜け、外界から隔絶された環境が目の前に広がる。
乗客たちは静かに座り、時折微笑みながら会話をする。
鷲尾も自然に振る舞い、周囲の観察を欠かさない。
施設に到着すると、作務衣に着替え、信者たちと共に畑仕事や家事を手伝う。
生活は規則正しく、静かで単調。
外界とは隔絶された空間に、穏やかな時間が流れている。
夜、宿泊施設に戻ると、鷲尾は部屋の窓から森を眺め、明日からの生活に思いを巡らせた。
外の静けさは変わらず、表向きの日常は何も問題がないかのように見える。
潜入生活の初日を無事に終え、明日への覚悟を静かに決めるのだった。




