黒い視線
(リリッ、リリッ、リリリリリリッー)
……朝だった。
目覚ましが、鳴っていた。
意識が冴えることなく二度寝をした。
そして──
望みもしない不吉な出会いに導かれてしまったのだった。
「しゅう、起きなくて大丈夫なのー?」
1階のキッチンから母の声が聞こえた。
その言葉に気づいたときには、もう遅刻の時間だった。
慌てて制服を着て、荷物を投げ込んだ鞄をつかんで家を飛び出す。
外の空気は妙に冷たく、
まるで朝がまだ夢の続きのようだった。
(いつもと違う……)
走りながら、ふとそんな違和感を覚えた。
通学路を走り抜ける。
その途中で、後ろから誰かが呼んだ。
「おーい、しゅう!」
振り返ると、同じクラスのゆうきが息を切らして追いついてきた。
「さっきさ、道の向こうで黒猫が助けを求めてたんだ。
泣いてるみたいに、変な声出しててさ」
(黒猫? 助けを求めてる……?)
友人の言葉を聞いた瞬間、なぜか胸の奥がざわついた。
気づけば、僕は立ち止まっていた。
「……俺、ちょっと行ってみる」
友人が何か言いかけたけど、聞かずに走り出した。
持っていた鞄を道路脇に投げ飛ばして、風を切って走る。
朝日が眩しくて、足音だけが響いていた。
黒猫は、すぐに見つかった。
だけど──
元気そうに歩いていた。
鳴いてもいない。
誰かに助けを求める様子もない。
(……あれ? 無事、なのか?)
拍子抜けしたように、
その場に立ち尽くす。
そのとき、
置いてきた鞄のことが頭をよぎった。
財布、携帯……。
(やばい入れっぱなしだ、戻らなきゃ)
黒猫が普通に歩いているのを確認し、
僕は踵を返した。
走って戻った。
鞄は、そこにあった。
何も盗られていない。
安堵の息が漏れた瞬間、
背後から音がした。
──「チッ」。
舌打ち。
振り返ると、黒猫がいた。
いつの間にか、僕の後ろに立っていた。
その瞳は、
まるで人間のように、感情を含んでいた。
⸻
(なぜついてきたのだろう……)
遅刻していることに気づいた俺は全力で通学路を走り出した。




