遊園地に行こう!!
「うわぁあー!!!!すっごーーーい!!!!」
そうハイテンションで叫ぶように言うのは、ゆぅだ。
私たちが普段纏う輪のようなもの――通称リングル――は、今日はちゃんと隠している。
周りから見れば、私もゆぅも至って普通の少女に見えることだろう。
「ちょっと、あんまり走らないの。他の人にぶつかっちゃうよ。」
私ははしゃいで駆け回るゆぅをどうにか静止しようと声をかける。
「ふふ、元気だねぇ」
横でそう言って笑うのはレイだ。
結局あの後連絡をとり、何かあった時のために今日は一緒に回ることになったのだ。
「何してるのー!2人とも早くっ!」
そう言ってどんどん先に行くゆぅ。
全くこの子は……。
そう呆れつつも、こんなに楽しそうに笑うゆぅを見るのは、いつぶりだっただろうか。
表に出したりなどしないけれど、正直私もホッとしていた。
私はレイと見合わせ頷き、ゆぅを追いかけた。
「ねぇねぇむぅ!次あれに乗ろー!」
グイグイと私の袖を引っ張りながら、そう言ってはしゃぐゆぅ。
「わかった、わかったからちょっと待って……!」
私は必死について行く。
普段こんなにせっせと移動することがないから、あまり慣れないのだ。
そして慣れないことをするとどうしても疲れるもので、どんどんと疲労が蓄積されていっていた。
「あれなぁに?可愛い!!」
ゆぅは今度は急に立ち止まると、メリーゴーランドの前で目を輝かせる。
「それはメリーゴーランド、回る遊具だよ、乗る?」
「!、うん!!乗るっ!!!」
コクコクと頷くゆぅ。
可愛いなぁと思いつつ、チケットを翳してゲートをくぐる。
1人がけに乗ろうと歩きだしたのだが、ゆぅに袖をひかれて2人乗りへと強制連行された。
「ち、ちょっとゆぅ!?2人のでいいの?」
「うん!次レイねぇだからね!」
「えっ?」
そっと1人がけに乗っていたレイが目を丸くした。が、少し嬉しそうに笑うと分かったよと頷く。
注意事項のアナウンスが流れ、メリーゴーランドが動き始める。
キラキラと光を反射しながら、揺らいで回る遊具たち。
ゆぅは楽しそうにはしゃいでいた。
その純粋な可愛さに笑みを零しつつ、私も楽しむ。
少しして音楽が止まり、馬たちがそっと地に足をつけた時、まるで夢の時間が終わったかのようだった。
「楽しかったあ!」
ゆぅが溢れんばかりの笑みを見せる。
「そう?」
と私が言うと、すかさずと言ったようにレイが声をかけてきた。
「ふふ、むぅも楽しんでたように見えたけれど、気の所為?」
「……さあ?」
揶揄ってくるレイにそう返していると、ゆぅが今度はレイに抱きついて捕獲する。
「レイねぇ!次一緒に乗ろ!」
「わぁ!?わかったわかった、ちょ、引っ張らないで……!?」
一度乗って満足していた私は、2人に手を振りながらベンチで休む事にした。
そっと腰掛けて一息つくと、おもむろに手を広げて握って、能力のかかり具合を確認する。
うん、大丈夫。
頭のリングルもちゃんと消えているし、能力が解けてはいない。
出力も最小に抑えているから、気づかれることもないだろう。
私はため息をつきつつ、メリーゴーランドに乗って回る二人を見ていた。
ゆぅに振り回されているけれど、それだってよく良く考えればいつものことだ。
何も変わらない日常、その一節に過ぎない。
「大丈夫……」
私は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、回り始めたメリーゴーランドに目を向けた。
軽やかなメロディーと共に白馬が宙に浮く。
ゆぅの笑顔は輝いていて、レイも楽しそうだ。
私の役目は、この笑顔を守ること。
絶対に壊させやしない、それを許してはいけないのだ。例え、それが誰であろうとも。
時間があっという間にすぎ、2人が戻ってきた。
「ただいま!」
と笑うゆぅは可愛らしくて、待たれているおかえりをすぐに返す。
レイはふふ、と笑うと時計塔を指さした。
「2人とも、そろそろお昼にしない?」
レイの声掛けに私達も頷き、お昼を食べに行くことにした。
お昼はレストランに入ることにした。
席待ちをしていると、定員さんに呼ばれる。
「3名でお待ちの小鳥遊様〜」
小鳥遊というのは、レイの偽名だ。フルネームは、「小鳥遊 澪」である。
私が古上唯以と名乗るように、エクシストに所属する大半の異能者は偽名を使っている。
戸籍については、正直私もよく分かっていない。
最初にエクシストに加盟する段階でレイ達が用意してくれていたのだ。
ま、何はともあれそのお陰もありこうして昼食が食べられるのだから、それで十分であろう。
私たちは注文を終えると、軽く雑談をしていた。内容は主に今日のことだ。
「それでね!ぐぉーーーって!早くてビックリしたけど、ワクワクして楽しかった……!!!ねぇ、後でもう1回行こうよ!」
「そうしよっか!」
ゆぅが身を乗り出さんばかりに前のめりになりながら、向かいのレイにジェットコースターの楽しさを力説している。
レイはうんうんと笑顔で頷きながら、ゆぅの話を真剣に聞いてくれている。
「並ぶと思うから、ご飯食べたら早めに行こうか。」
頼んだコーヒーを軽く飲みながら、私は答える。
ブラックが好きと思われがちなのだが、苦いのはあまり好きではない。
砂糖はそれほどだがミルクは多めに入れる派である。
ちなみに、ゆぅはオレンジジュース、レイはアイスティーだった。
少しすれば、頼んだ料理が運ばれてきた。
私がサンドイッチ、レイがハンバーグ、ゆぅがオムライスである。
「美味しそ〜!!!」
運ばれてくるなり笑顔が輝くゆぅに、店員さんもニッコリである。
ゆぅの笑顔は私の自慢だ。この子ならきっと、どんな人でも笑顔にできる。
……だから、私がこの笑顔を守らなくては。
「……ぅ、むぅ、むぅ!!!」
「!」
ついぼーっとしてしまっていたらしい、ゆぅに呼ばれて意識を引き戻す。
「ごめんごめん、少しぼーっとしてた。」
2人ともスプーンにナイフにフォークを持って、食べる準備は万端というところ。私を待っていたようで申し訳ない。
「早く早く!」
ゆぅに急かされるままに手を合わせて、みんなでいただきますの挨拶をする。
レイとゆぅはそれぞれ目を輝かせており、美味しいと感嘆の声を漏らした。
私もひと口食べると、たしかに美味しい。
私の知る味付けとはまた違った、ジャンキーで後に残る味わい。これも参考になるなとメモをしながら、食べ進める。
結果、昼ごはんには3人大満足で店を出たのだった。
読んでくださりありがとうございました!!