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レイという少女

協力者、もとい協録者である不思議な少女、レイ。

彼女もまた逃避の記録を綴る1人である。


彼女は一体何者なのだろう?

椅子に座ってから、ゆぅとお土産の話なんてしながら笑い合う時間が続く。


「これね、有名な老舗のお菓子らしくて!こないだイブンが旅行いった時に2人に〜ってくれたんだ。私のは別で貰ってるから、二人で食べて」


レイはそう言ってゆぅにお菓子を渡す。

どうやらお饅頭のようなものらしい。

ゆぅは好き嫌いがあまり無いから、嬉しそうにそれを受け取った。


「やったぁ!美味しそ〜!!!」


ご満悦のゆぅ。

楽しそうでなにより、と眺めていると、レイはさてと、と言葉を改めた。

それと同時に、空気が変わる。

要件に入るのだな、と察した私は、レイに問いかける。


「それで、話って何?」


するとレイは、困ったように眉をゆがめた。


「……それがね、少し困ったことになったの。2人には言っておこうと思って、言いに来たんだ。」


「困ったこと?」


レイの言葉にゆぅがこてんと首を傾げる。その可愛らしい仕草に心打たれそうになるが、その前に話を聞かねばならない。


「うん、むぅはさっき体感してると思うんだけれど、どうやら最近研究所の方の動きが活発なの。さっきのやつもそうだけれど、どうにも特殊な研究員の派遣が増えていて、私たちの居場所もバレていたりするのよ。」


「……たしかに、今日のやつはなんだかおかしかった。」


ゆぅは分からない様子だが、私はなんとなくの納得を得ていた。


今日の研究員、気配が見つからなかった。

あれは異能なのかそうでないのか、そこまでの区別はつかなかったが、どうやら何かおかしい動きがあるということは理解出来た。


「うん、それでこっちでも対策は考えているんだけど、まずは注意喚起して回っているの。2人も気をつけてね。」


「なるほど……。」


今日の相手はまだ良かったが、レイがいなければ確実にもっと消耗していた。

たしかに、油断するのは危険だろうと確信できる。


「?、むぅ、何かあったの?」


「……ん、いや、何でもないよ。」


不安そうに問うてくるゆぅに、私は笑顔で答える。

いつものことだ、心配するようなことでもない。

そう、思っていたのだが……。


「何でもなくないよね、だってむぅ、怪我してる……。」


ゆぅは、そう言うと私の左腕に手のひらを添えるようにして触った。


……痛くは無いけれど、たしかに傷を負った肩。それを正確に見抜かれて、思わずたじろぐ。


「た、大したことないよ。少し掠った程度だし。」


慌てて答えた私に、ゆぅが改めて首を振った。


「ううん、これ掠ってできる怪我じゃない。むぅ、隠し事しないでよ……」


心底悲しそうに、ゆぅが目を細めた。その瞳はゆらゆらと不規則に揺れていて。

今にもそこから涙が溢れそうなほどだった。


「……言っても無駄かと思ったから黙っていたけれど、変な怪我だよね、それ。治ってないでしょ?」


最初は様子を見ていたレイまで、そんなことを言い出した。

あぁ、そこまで分かるか。


……正直な話、痛くないというのも、大したことないというのも嘘だった。

未だに痛むし、中々傷が癒えない。

特殊な想異で作られたのか知らないが、中に影響がとどまったままだったのだ。


「……ごめん、隠し事するつもりじゃなかったんだよ。ただちょっと、見栄を張っちゃっただけ。」


私は手で傷を抑える。それをゆぅとレイが、悲しげに見つめ、レイが言った。


「むぅ、少し見せて貰ってもいい?」


私が頷くと、レイは席を立って私の側までやってくる。そして、傷のところに手を当てて想異を使った。

フワッと光が腕を包み、そして弾丸に残っていた想異が消えた。

と同時に痛みもなくなり、流れるように残っていた弾丸が落ちてきた。


レイの能力、簡単に言うとエネルギーの消失だ。

私の能力とは違い、エネルギーを消失させることに特化したレイの能力。


私の場合、規模の問題で自身の中にある弾丸だけを消失させることのリスクがあった。

それに比べてレイの能力コントロールはすごいといつも思う。

弾丸の纏う異能のみを消失させることができているのだから。


「ありがとう、レイ」


「ううん、私には、これくらいしかできないから。」


レイはそう言って笑うと、足の方も同じようにしてから椅子に戻った。


残っていた想異の影響が消えると、傷も直ぐに治り痛みも消えた。

それにホッとしつつ軽く肩を上下させて具合を確かめてから、頷く。


「よし、今度こそ本当に大丈夫。心配かけてごめんね」


私はそうして2人に笑いかける。

その後は3人でお菓子などを食べながら、軽く近況報告をした。


「それで、今度遊園地に行くんだ!」


「そっかぁ、楽しんで来てね」


ゆぅとレイが話しているのを見守りつつ、私はお茶の用意をしていた。

だけれど……その話題が出た時の、レイの一瞬の表情の曇りを、私は見逃さなかった。

しばらくして、


「さて、夜も遅いし、ゆぅはそろそろ寝なよ」


話していたのだが、ゆぅが眠くなってきたのかうとうとし始めた。それを見兼ねたレイがゆぅに告げる。


「んー、まだ話したい……」


「ゆぅ、わがまま言わないの」


珍しくわがままを言うゆぅに私が言うと、レイが笑った。


「ふふ、言っといてなんだけれど、まぁたまにはいいんじゃない?」


「もう、レイまで……。」


とはいえ、いつもちゃんと寝ているし、たまにはいいかもしれない。

私は迷いつつ、ゆぅに問うた。


「それじゃあもう少し話す?」


「!、うん!」


私とレイは顔を見合せて笑い合い、もう少し話すことにしたのだった。

もうしばらくして


「……まぁ、そうなるよね」


私は頭を抱えていた。

目の前には困ったように笑うレイと、机に突っ伏して眠るゆぅ。

あまりのいい眠りっぷりに私は苦笑するしかなかった。


「ゆーぅー、布団で寝なよ、ほら起きて」


私はそう声をかけながら軽くゆぅを揺するも、ゆぅは起きる気配を見せない。この子は存外眠りが深いのだ。


「……私、ゆぅ布団に運んでくるね」


私はレイにそう告げると、ゆぅの足と脇のらへんに腕を添えて持ち上げる。

軽いな、と思いながら部屋に運んで、そっと下ろして布団をかけた。


すぅすぅと寝息を立てて眠るゆぅに少し癒されてから、1つ深呼吸をするとレイの元へ戻った。


そして私は直球で問いかける。


「レイ、気になることがあるんだよね?」


「……言う前にバレてたか」


私の問いに、レイが苦笑した。そして表情を改めると、真っ直ぐ私に向かって告げる。


「さっきも言ったけど、最近研究所がどうも動きを見せてる。遊園地って言ってたよね。大丈夫だとは思うけれど、すごく嫌な予感がするの。」


「……レイも?」


私は驚き半分苦々しさ半分で問い返す。先日から、どうも嫌な感じが抜けない。

だからと言って遊園地に行こうが行かなかろうが変わらないとは思うが。


気のせいだと信じようとしていたけれど、レイもそう感じるならきっとそれは本当なのだろう。


勘というのは、当たっていて欲しくないものほど当たってしまうものだ。


「まぁ、警戒することしかできないけれど、頑張るね。」


「うん、何かあったらすぐ連絡してね」


私たちはそうコンタクトを取り合うと、頷いてため息をついた。


「まったく、なーんでこんな思いしなきゃならないんだろうね……」


レイがそう呟いた。本当に、その通りだと思う。私が俯いていると、レイが口を開いた。


「ま、明日は楽しんできて!」


レイはそう言って笑うと、立ち上がった。


「夜も遅いし私はもう帰るよ、お疲れ様!」


「うん、気をつけて」


私はそう言いながらレイを見送ろうと立ち上がる。すると、今度はレイが座り込んでしまった。


「……?」


しゃがみこんでいて様子が分からないので、机を回って見に行くと、レイの様子がおかしい。


「はっ……はっ……」


顔を押え蹲っており、息も上がっていて震えている。


「レ、レイ……?」


「あっ……ぅ……ぐぅ……」


苦しそうに呻くレイ。見たのは初めてだったが、私は直感で『前に聞いたアレ』だと気がつく。

すぐにレイに駆け寄り、背中をさすって声をかけた。


「レイ、大丈夫だよ、落ち着いて……!」


「あぁぁぁあっ、い”……っ、う”、、ひゅー、ひゅー……」


声をかけるが、聞こえているのかいないのか、苦しそうに悶え続けるレイ。

声を抑えようと唇を噛んでいるのか端から血が伝っている。


これはレイの発作のようなものらしい。話は前から聞いていた。

レイは左目に定期的に激痛がおきるようで、止める手段は今のところないのだと。

私もただ寄り添うことしかできず、横で声をかけ続ける。

すると、


「んー、どうかしたの……?」


そう言って目を擦りながら、隣の部屋からゆぅが起きてきてしまった。


「あ、ゆぅ……」


私が声をかけると、事情に気がついたのだろう、ゆぅがハッと目を見開いて、レイに駆け寄った。

そして……

静かにハグをすると、そのまま声をかける。


「――――。」


声が小さくて、なんて言っているのかは分からなかったけれど、何かを呟いたことはわかった。

でも、その効果はあったようで、途端にレイが落ち着きを見せたのだ。


「はっ……はっ……はぁ……はぁ…………」


先程まで上手くできていないようだった呼吸も落ち着き、段々と呼吸がゆっくりになる。


「レイ……?大丈夫?」


「え……えぇ、ごめんなさい、心配、かけたよね……」


まだ少し苦しそうにそう呟くと、レイは立ち上がろうとする。

しかしよろけてしまい倒れそうになったのをゆぅが支えていた。


「無理しないで、少し休んで行った方がいいと思うよ。」


どう見ても、このまま帰れるような状態ではなかった。私はそう声をかけたが、レイはそれに首を振った。


「……ありがとう、でも大丈夫。あの人も待っているから……。」


あの人……、あぁ、前にあったあの人か……。


「……無理しないでね」


レイは留まる様子は無い、止めても無駄だろうとそれだけ声をかけると、レイも頷いて家を出る。

私とゆぅは手を振りながら、レイを見送ったのだった。


レイの立てた組織、その名もエクシスト。

日本語で『存在』を意味する言葉だ。


その組織の現リーダーであるのが、レイの言っていたあの人――イブンさんである。


イブンさんはレイの協力者であり、レイの信頼している私たち以外の唯一の人物だと聞いている。


私たちは2、3回ほどしか会ったことは無いのだが、その理由というのがどうにもゆぅが警戒するからだった。

比較的誰にでも友好的なゆぅがまるで威嚇するネコのようにイブンさんを睨みつけるものだから、みんな困ってしまったのだ。


なので私とゆぅはあの人にあまり会う機会が無い。

代わりにレイとはよく会うのだが……。

……まぁ、レイはちゃんと自分の限界は分かるだろう。大丈夫だと信じる他ない。


私は諦め、ゆぅに声をかけた。


「レイは心配だけれど、きっと大丈夫だよ。ゆぅももう寝よう」


ゆぅは不安そうに扉を再び見つめると、コクンと頷いて部屋に戻っていった。


1人になった部屋で私は、ため息をつきながら考える。

もう、これ以上ゆぅに辛い思いをさせる訳にはいかないのだ。遊園地で仕掛けてくる。そんな気がした。


「……対策、考えとくか……。」


私はそう呟いて、ひとまずパソコンを開いたのだった。

ここまで読んでくださりありがとうございました!

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