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冷たい日々

仕事に向かった古上唯以は、パソコンの動作に違和感を覚える。あるはずのファイルが消えており、その痕跡を辿ることにした…。

会社へ着くと、自動ドアをくぐった。

そして出勤のカードを通し、自身の仕事の席までたどり着くとキョロキョロとそっと私は周りを見回した。

クスクスとどこからか声が聞こえてくる。

その声の対象は私だ。


「なにあの変な髪型、恥ずかしくないのかしら」


「ほんとにね、馬鹿みたい」


「仕事だってまともに出来てないわよね。」


どこからが聞こえてくる声、それはわざと私に聞こえるくらいで話しているのだ。


ギュウと鞄を強く握りしめる。

新参であり奇抜な私は、会社に入ってすぐにいじめの対象になった。

靴を隠されたり、机が汚されていたり、出勤カードが盗まれたなんてこともあった。

馬鹿らしいと最初の頃こそ思っていたけれど、積み重なるにつれ疲労は重なっていった。

あぁ面倒くさい、あの人たちを消せてしまったら一体どれだけ楽なのだろう。

でも立場の弱い私は、そんなこと出来ない。

ただ聞かなかったふりをして、真剣に仕事をすることしか、できないのだ。

「おはようございます」

威圧を込めつつ私は敢えて挨拶をすると、そのまま机に向かった。

仕事を始めてすぐ、おかしなことに気がつく。

パソコンが思う通りに動かない。

少し焦りつつ原因を探ると、どうやら設定がいじられていた。


……いや、それだけじゃない、これはまさか……データが消されてる?

さあ、とありもしない血の気が引いていくのがわかった。

焦りとともに、キリキリとした胸の痛みにかられる。

それを見計らったかのように、アイツらは声をかけてきた。


「あらぁ?ユイさんどうかされました?」


ニヤニヤと嫌味な顔を隠しもせず、嘲るかのように私に問いかけてくる。

私は1度目をそらす。どうしようか、これは今日の会議で使うデータだ。

消えていることがバレればどうしようも出来ないだろう。


「……いえ、なんでも」


私は小さくそう答える。するとそいつは小さく舌打ちをした後、私のパソコンをわざとらしく覗き込むと叫んだ。


「あれぇ、今日の日付で会議データってかいてあるこのデータ真っ白だぁ!ユイさんどうしたの〜?」


チッ、やられたか。私は心の中で舌打ちをしながら、答える。


「いえ、朝来たらなくなっていて、誰かに消されちゃったのかな、あはは」


誤魔化すようにそう笑うと、そいつはわざとらしく大声で言い続ける。


「えー、人のせいにするの?さいてー!」


「は、はぁ……」


どうせやったのは貴方たちだろうになぁ、と思いつつ、私はパソコンを無理やり閉じた。


その時、

「ユイくん、ちょっといいかな。」


そう私に声をかけてきたのは私の部署をまとめる部長だった。


「……何でしょうか」


そう問い返すと、部長はちょっと来てくれと手で合図をする。

私はそのまま呼ばれた方へ行くと、部長に問われる。


「データが消えているというのは本当かね?」


「……えぇ、まぁ」


珍しく声をかけてくれたから、少しは心配してくれてるのかな、……なんて思った私が馬鹿だった。


「ダメじゃないか!そんな大事なもの消しちゃ……!」


「え……」


言葉が出なかった。部長は困ったように、そして少し怒った調子で私に言う。


「まったく、仕事慣れしていないのはわかるが、それくらいはきちんとしてくれ。」


「い、いやあの……」


「なんだね?」


「バックアップがあったはずなんですが、そのファイルも消えています。どう考えても故意です。」


私はそう訴えかける。

だってそうだ、おかしいじゃないか。

自分で作ったファイルをバックアップごと丸々消すバカなどそうはいない。

しかし

「言い訳は結構!」


そう言うと部長はより怒ったように私を叱った。


あぁ、そうか、味方なんていないんだ。

私はそう悟り、あとはただただ話を聞いた。

いや、もう途中から聞いていなかったと思う。

ゆぅどうしてるかな、とか週末どうしよとか考え始めて自分でも馬鹿らしくなる。


一頻り怒られてから、席に戻った。

クスクスと色んなところから笑い声が聞こえてくる。まったく、何がそんなに面白いんだか。

私は呆れながら席に着くと、ため息をついて改めてパソコンを開く。

白紙のファイル、これでは会議をまともに行うことは出来ないだろうな。


せっかく紹介してもらった所だけれど、なかなかに苦しいものだ。

まともに何か考えられない。

どうしていいかも分からないが、ひとまずファイルの修復は厳しいだろう。



その日はもちろん、会議は失敗し、上司には散々という程に怒られた。当然だ。

セキュリティのなってなかった私が悪いのだと、そう言われた時は辛かったが、諦めて無に徹する事にした。



無駄に疲れた私は、帰路についていた。

とはいえ今日は金曜日、明日はゆぅとの遊園地だ。

気分転換くらいにはなるだろうと私も楽しみにしている。

……それでだ、


「何でこうなるのかなぁ…」


私は何となく疲れつつ、無意識的に連絡先を開く。

そのまま適当にスマホを開くと、ちょうどその時LINEが来た。


その趣旨は今から会って少し話したいというもので、私はそれに了解とスタンプを送り付ける。

偶然だけれど、相談くらいはできるだろう。


私は少しホッとしつつ帰り道を歩いていた。

最後の乗り換えを終え、家までの最後の道。


次の瞬間、――破裂音が耳を劈いた。

それと同時に訪れる左肩の痛み。

後ろから撃たれたのだろう、前に倒れかけたのをどうにか持ち直して私は警戒態勢をとる。

形態を変えることはまだせず、ひとまず相手の位置を探るが、反応がない。


一体どこにいる……?


辺りを見回すが撃ってきたと思わしき対象が見つからない、想異の反応がないのだ。

しかし、また破裂音とともに、今度は右足を撃ち抜かれた。


……このままじゃジリ貧だ。

肉体的損傷自体は大した問題では無いのだが、どうにもこの弾丸が特殊らしく、想異を相殺して奪われてしまうのだ。

それは困ったもので、私たちも能力が使えなければただの人間とほぼ大差ない。

非常に不味い事態と言えた。

その時


「ごめん、お待たせ!」


どこからか、見知った声が聞こえてきた。

そしてドサリと右斜め後方から、何かが崩れ落ちるような音が聞こえて、その方向からレイがひょこっと顔を出す。


「お土産選んでたら遅くなっちゃった。」


そう言いながらレイは紙袋を軽く持ち上げる。


暗いローブを纏っていて、切れ長の目に美しい銀髪、片方の瞳にバツ印のような傷のある少女。


彼女こそが私たちの協力者にして、もう1人の異能者だった。

ここまで読んでくださってありがとうございました!

最後に登場した子は一体誰なのか!次の話は今日中に出します!お楽しみに!!

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