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逃避の事由とその記憶

2人の過去編になります。

そして今回は多少の残酷描写、グロ描写が含まれます。具体的には書いていませんが、血などが苦手な方はお気をつけください。

「それじゃ、また後で」


「……うん」


数年前研究所にて、私たちは平和な生活を送っていた。

観察などの平和な研究が多い中、ゆぅと別々に研究を行うこともあった。

そしてそれが今日であり、私はゆぅと離れ手を振っていたのだ。


「i、早く行くぞ」


私はi、ゆぅはxと呼ばれていて、研究によく協力していた。

ゆぅもそれは同様だが、どうにも私と離れることが嫌なようで、離れる時はいつも不安そうな表情をしていた。

私は振り向いて、ゆぅに声をかける。


「すぐ戻ってくるから、少し待っていて」


私がそう告げると、ゆぅは頷く。


「……わかった、早くね」


それに頷き返して、私は職員の人について行った。

ついて行った先で、またも能力の実験や観察を行う。

これまでもこれは何度か繰り返しているが、この実験の意味は未だにわかっていない。


私は不思議に思いつつも、平和な生活と引替えにすることでそれを続けていた。


私とゆぅは元々、ここでは無い地域にいたのだが、満足のいく生活を交換条件に研究に協力していた。

今日も特に何も無く、私はゆぅの元へと急ぐ。

少し早足になりつつ戻り、部屋の扉を開けて、


「……え」


短く、細く、声が漏れた。

入った瞬間、鼻をつくむせ返るような鉄の匂い。

そして目に飛び込んだ鮮明な赤色は、きっとこの先忘れることは無いと思う。


転がる肉塊、既に染っていたが、それは所々白の残る大きな服を着ていた。

……まさか、研究員…………?


私は考えないようにしようとする頭に抗って、必死に思考を続ける。


そしてゆぅは、その赤の中に佇んでいた。


キョトンとしていたゆぅはゆっくりこちらを振り向くと、ようやく私を認識したのだろう。

ニコッといつものように微笑んで……そしていつものように言った。


「あっ、おかえり、むぅ!!」


私は、声が出なかった。……いや、それどころか、何も考えることが出来なかった。

ただただその絶望の景色を眺めて、立ち尽くすだけ。


ようやく動けたのは、廊下から声が聞こえてからだった。


「〜だよな!」

「あぁ、ほんとに!」


そう声が聞こえてきて初めて、私は我に返る。

と同時に、ゆぅを抱えて能力を使った。


まずい、まずいまずいまずい!


ゆぅは、ゆぅは研究員を殺した。

それがバレたら、協力と交換に得ていた自由が、奪われてしまう。


私は慌てた、……そして、最悪の事態が訪れる。

窓からか部屋を見たのだろう、不審に思った職員が部屋に入ってきた。


不幸中の幸いか、私の能力は存在を消すもの。

私たちの存在には気が付かなかったようだが、事態はすぐに広まってしまった。


私は必死に落ち着こうと努力する。そして、訳が分からないという様子で私を見るゆぅに気がついた。


……この子は、自分が何をしたかわかっていないのか?


「……ねぇ、ゆぅ?自分が何したかわかっているの?」


私は震える声を必死に落ち着けて問いかける。するとゆぅは、言った。


「……ご、ごめんなさい……。」


「……っ」


その様子を見て、理解する。

ゆぅはやってしまったことに、この惨状に謝っているのではない。


私が怒っているから、謝ったのだと。

当の本人は訳が分からない様子。

……私は、怒りを抑えきれなかった。


パン!と乾いた音が部屋に響く。

困惑した様子で頬を押さえるゆぅに、私は言った。


「謝ればいいと思わないで!なんで……なんでこんなこと……っ」


「……あ……」


ゆぅは、目に涙を溜めながら、必死になにか言おうとしているのかこちらを見る。


そして、ポロッと零すように、短く言葉を紡いだ。


「……あり、がと……」


「え……?」


今度はかえって私が困惑する。

なんで……ありがとうなんて……。

訳が分からずゆぅを見つめ返す私に、ゆぅは笑った。


「……だ、って……むぅが酷いことなんて、する訳ないもん…………、きっと、必要なこと……なん、でしょ?」


「〜〜〜っ!!!」


その瞬間、嫌という程理解した、してしまった。この子は、何も悪くなんてない。

私が離れたせいだ。こんなことになるなら……っ!


私は拳をにぎりしめる。そして、深呼吸をした。


「……ごめん、ごめんねゆぅ、……行こう。誰もいない、平和な所へ。」


私は、ゆぅの手を取った。

幸か不幸か、何かあった時のために、私は脱走のルートを考えていた。

私とゆぅは一緒に手を繋ながら、そのルートを予定通りに辿っていった。




{????}


「……へぇ、逃げたか」


数十台ものモニターが広がる薄暗い部屋で、幼げな少女は呟いた。

その表情に焦りはなく、むしろ薄らと笑みを浮かべている。


その少女の瞳はぐるぐると渦を巻いていて、その可愛らしい見た目よりも何故か吸い込まれるような不気味さが勝っていた。


少女はマグカップを机に置くと、専用に作られた座高の高い椅子から飛び降りる。


「あっは、面白くなってきたじゃん」


少女はそう呟くと、あはははは!と笑い出す。モニターには、逃げる研究体たち……。


「あぁ、ようやくか。楽しいゲームの始まりだ。」


少女は笑うと、そのどこか冷たい瞳に逃げる2人を見据えた。

ここまで読んでくださりありがとうございました!!!!

2人の過去編いかがでしたでしょうか?

抱えてる秘密の、逃げる理由はここが原点でございます。次の話はもう少し平和になると思うので、今回だけ許してください!!

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