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真実の決闘  作者: 六福亭
第2章 勉強の始まり
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2

 校舎を出て、金色の夕陽の中をジャネットとマッキーとでぶらぶら歩いた。とりとめのない話をする2人の髪の毛や頰を、春風というには少し冷た過ぎる風が叩く。空を悠々と飛ぶ鳥の群れを眺め、ジャネットはぐんと体を伸ばした。椅子に座りっぱなしで固まった体がほぐれていく。


 学園の生徒たちがもう何人か、ジャネットたちのように散歩を楽しんでいた。ボールを投げ合っている男子生徒もいる。そのほとんどは新入生だ。ジャネットのように、立派な服を着ているから分かる。

「あ、キャロラインだ!」

 知り合いを見つけたマッキーが、嬉しそうに叫んだ。声をかけられた少女は、農道を1人で歩いていたけれど、すぐに気がついてジャネットたちの元へ駆けてきた。

「マクシィーン様、ジャネット姫様」

 キャロラインは深々とお辞儀をした。リリーのように。思わずジャネットはこう言った。

「よして、キャロライン。私たちはここでは対等なのだから」

「そうだよ、キャロライン! 私なんか、ジャネットに朝たたき起こしてもらったんだよ」

「マッキーは少し反省して!」

「あはは、ごめん」

 キャロラインは小さく笑みを浮かべた。

「どうもありがとうございます。ですが、私のような下々の者にとっては、姫様たちは雲の上の存在です。友達のように気安く話しかけることなど、とてもできません。いつ誰がそれを見ていて、不敬罪だと言うか分かりませんから」

「不敬罪だなんて! 私、そんなの気にしないのに」

 口をとがらせるジャネットの肩を叩き、マッキーがそっと言った。

「ジャネットが気にしなくても、周りが気にするんだよ」

 マッキーはキャロラインに笑いかけた。

「だけどね、キャロライン。この学園で君を責める奴がいたら、私が叩き斬ってやるから安心しなよ」

「そ、そんな」

 キャロラインは目を白黒させた。

「マッキーが言いたいのはね、私たち、それぐらいあなたと友達になりたいってこと!」

 ジャネットはキャロラインの手を握った。

「よろしくね、キャロライン」

「こ、こちらこそ……」

 キャロラインは小さくうなずいた。よく見れば、口元に可愛らしいえくぼができている。

「あの、お姫様」

「ええ」

 キャロラインはおずおずと言った。

「もしよかったら、最初のお休みの日に勉強会をしませんか」

「勉強会?」

「試験のために勉強をするのですが、その……誰かと一緒なら、もっと楽しいかもしれないと思って」

「いいわね! キャロラインと一緒にお勉強をしたら、私も頭良くなれそうだわ」

「私もあやかりたいな」

「マクシィーン様も、ぜひ……」

「ねえ、ジュリエルも誘っていい?」

「ジュリエルも頭良いもんね。キャロラインとどっちが成績良いのかな?」

「そんな、ジュリエル様と私なんかを比べていただけるなんて……畏れ多いことです」

 キャロラインは謙遜するが、推薦組の2人は羨望の眼差しで彼女を見つめた。

「じゃあ、決まりね。どこで開催するか、また相談しましょ」

「はい!」

 手を振ってキャロラインと別れる時、彼女の本当に嬉しそうな顔を初めて見た気がした。


 夕食を摂った後、自室で教科書をぺらぺらめくっていると、扉を叩く者がいた。

「どなた?」

「私。モード」

 モードは足音もたてずに入ってきて、ジャネットのベッドに腰掛けた。

「ご機嫌よう、ジャネット。学園生活初日はどうだった?」

「とても楽しかったわ。……教科書の分厚さと、科目の多さにはげんなりしたけれど」

「同感だわ。その中の半分は、学ぶ意味も興味もない科目だった」

 ばっさりと切り捨てるモードに、ジャネットは笑みをもらす。昔から彼女は、毒舌家だったのだ。

「それにしても、さすがはジャネットね。もう新しいお友達に囲まれて」

「あなたもね、モーディ」

 モードとジャネットは声を合わせて笑った。

「ねえ、ジャネット。今夜はあなたを誘いに来たの。次のお休みの日、私たちのお茶会に来ていただけないかしら?」

「私たちって?」

「私、ウィニフレッド、クリスティーン、バルバラ。皆名家の令嬢たちよ。そこにあなたが来てくださったら、いっそう楽しい会になると思うの」

「あ、でも……」

 その日は先約があるのだ。そう断ろうとした時、モードはさっと立ち上がった。

「待ってるわ、ジャネット。明日また招待状をお渡しするわね」

「モード、ちょっと待って……」

「ねえ、ジャネット。私たち、また昔みたいに良い親友同士に戻れるでしょう?」

 そう言い残し、モードは部屋を出て行った。

 

 ジャネットは天井を仰いだ。同じ日に、2つの誘いを受けるとは。時間が重なっていないといいのだけれど……。


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