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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君の命の価値を私は知らないよ

作者: モモイム

恋愛ものではないと信じてる。


 公園の花壇に腰かけて少女が泣いている。私は彼女が悲しんでいることに実を言うとガッカリしていた。彼女なら許してくれると思ったのに。

 


 お金持ちの子供で容姿もよく、運動も勉強も得意な私に期待するなというのは無理があったのかもしれない。けれど、投資するように先を見据えてすり寄ってくるのがどうも恐ろしかった。

 将来私を利用したいから、みんな笑顔を向けて話しかけてくるんでしょ?

 普通の会話をしているように聞かせてさりげなく私をほめたり、ちらちらと投げかけられる視線が嫌だった。

 どうして生きているだけで、そこにいるだけで期待されなきゃいけないのだろうか。私は絶対に応えられないのに。

 私は寿命は人より短く、絶対に大人にはなれない。みんなが期待する未来には絶対たどり着けないのに。そうは言えない。

 外ではどこにいても期待がのしかかり、家では両親から半ば見放されていた。

 どうにかみんなの期待や、両親の失望から、許されたかった。私に未来がないことを責められるみたいで、私はこの命の価値を逃げ出したかった。

 どこかに楽な場所は無いものかとただ日常の中から遠くを見つめて、見つけたのが一人の少女の隣だった。

 その少女はずっと一人で本を読んだりぼーっとしたり、周りなんかどうでもいいみたいにのんびり過ごしていた。彼女の周りにはいつも涼しい風が吹いていて穏やかな呼吸がこだまする。

 彼女ならもうすぐ死ぬ私のことを許してくれると思った。彼女が私の未来になんて一ミリも興味がないことはよくわかるから。

 私は彼女の側にいることにした。

 突然現れた私を追い払うことはなく、ただ一人でいるみたいに彼女は過ごした。私に少しも期待しない彼女の隣が心地よくなった私は、家以外ほとんど彼女の側にいた。そうするとみんなが私に話しかけてくることは次第になくなり、私と彼女だけの静かな場所ができていた。

 私がいくら話しかけても彼女は文句を言わないが、返事をくれることもあまりなかった。まれに会話が成立したとしても、すぐに終わって何もなかったみたいに静寂が満ちる。

 なぜかそれで私の心も満たされていた。

 ずっとそれからも私たちは隣にいるだけだった。変な気持ちもなく、ただこの静寂を共有していた。

 こんな日々で終われるのなら悪くないと思った。みんなが落胆しても、両親が清々しても、彼女が許してくれるならそれだけで私は救われる気がした。



 私の死を聞いたみんなの反応は想定通り、悲しみよりも落胆だった。両親がどこかスッキリした顔をするのも朝見届けた。彼女の一日だけが何事も無かったみたいに過ぎていく。私はいなくなったけど、彼女は変わらずに過ごしている。

 これでよかった。私は安心した。彼女は私になんとも思っていない。期待しないで、許してくれたのだと思った。

 でも、ある日公園で彼女は泣いていた。

 私は彼女の泣き顔はおろか笑顔さえ見た事がなかったものだから思わず息を飲む。こんなことは思いたくないが、彼女が悲しんでいる様子にガッカリしていないと言えばそれは嘘になる。

「君も許してくれないんだ。そんな私の命の価値が大事だったの?」

 いつも通り茶化すようにでも少しだけ拗ね気味に話しかければ、彼女はグチャグチャな顔を私に向けずただ前を見て口を開いた。

「君の命の価値を私は知らないよ。君が生きてたって死んでたってどうでもいい」

「じゃあなんで泣いてるの?」

「君がどうなろうと勝手だけど、側にいてくれないと寂しいよ。もう、私、戻れないね」

 命がないと側にいれないんだよ。私は言いたくなったけど彼女にとって命があるという事にはあまり意味が無いのはよくわかった。

 戻れないねと言ったときのわずかな笑みに私が揺れるのを感じた。戻らないでほしいと意味も分からないまま願ってしまった。

「よく話してくるなって気付いた時には私の中に君がいたの。……明日は来ないかもしれない、それでも構わない。君がいてもいなくてもってずっと考えてた。いいんだよ。別に。君が生きてても死んでても来ても来なくてもどうでもいい。

 でも、君が側にいないとなぜだか寂しいだけ」

 彼女は別に私の死に対して泣いたのではなかった。私が来なくなったことが悲しかったって呟いて、しばらくしたら泣き止んでいつも通りになってしまった。

 別に私もどうでもよかったのかもしれない。今さら彼女がどうとか気付いても、側から離れることなんてできそうもなかった。彼女が生きていようが死んでいようが、私を許そうが許さまいかそんなことどうだっていい。ただ彼女だという理由だけで私は側に居たい。この静寂を共有し続けたい。

「もうずっと一緒だね」

 私が笑いかけても彼女からの返事はなかった。でも聞こえているとは思う。

 私達、本当に二人きりになってしまった。これからは学校も家族もなく、ただひたすらにそこにいるのだ。

 きっと、永遠に。

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