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ナトリウム・ランプ2

作者: キリュン

 日雇いが正面ゲートから入場することは許されていなかった。日勤と夜勤の作業員が交じり合う午後6時、ヨウたちは呆れるほどに広い正面ゲートの左隅に設けられた、人一人が四つん這いになりやっと通れる狭さの非常扉をくぐり中に入った。錠前の暗証番号は4729。あえて、入場後の施錠はしない。それでも、夜勤が終わり外へ出るときは再び鍵が掛けられてあった。ゲートをくぐると広い舗装路が一直線に続いている。大型トラックやトレーラーが何度も脇を通過し、夜になりかけの空気が質量をまとって身体を撫ぜる。舗装路には鈍く明滅する街灯が等間隔にあって、それが申し訳程度に足元を照らした。


 モルタルで雑に固めたレンガブロックみたいな待合室で、時間が来るのを待った。既に5、6人が机に伏していた。その中の一人に米田がいた。杉並は入退場の顔認証を済ませるとヨウの分の名札を取って投げてよこした。

 杉並は名札を無造作に胸ポケットに押し込んでパイプ椅子に音を立てて座る。一瞬静寂が失われ、その後でどこからともつかず舌打ちが聞こえた。

 22640875 裁田洋介 サイダヨウスケ

 名札をつけたところで、名前など呼ばれるはずがなかった。倉庫側と派遣会社間のやり取りはすべて作業員コードで交わされ、つまり22640875がここで日銭を貰えた。この8桁の文字列を暗記しさえすれば名札は紙クズ同然だった。杉並の下手な気遣いは、いつも何の用もなさない。


 覚醒剤で捕まった元プロ野球の清原みたいな顔をしたフロア長が、待合室に入りしな潰れた声で今日集まった日雇いをエリア別に分別していく。日雇いの中でも勤続日数がそれなりにある連中は一階で折り畳み式コンテナ(オリコン)の仕分けに回されることが多い。杉並とヨウは最近ここに回された。新規の日雇いは5階で簡単な仕分けと梱包作業、その他は8階でその日の雑務をあてがわれた。階ごとにフロア長と呼ばれるものがいる。

「ヨネ」杉並が声を掛ける。米田はああ、いたんだと言う代わりに軽く眉毛を上下させた。見違えるほど、老け込んでいた。米田が工場に顔を見せなくなって、だいたい二週間だった。

「ヨネ、何階」

「5階」

「逆戻りじゃん」

「一生、5階でいいわ」

 一生、という言葉が喉仏のあたりで絡まっている。


 4時間動いて、20分の休憩があてがわれる。煙草を吸って、そこから6時間動く。かご台車を並べる。荷物を仕分ける。かご台車に積み上げる。続々とトレーラーが押し寄せる。そこにかご台車を押し込む。朝まで繰り返す。無心に身体を使っている。それがヨウにとっての救いなのだった。

 清原みたいな顔をしたフロア長がフォークリフトをぐにゃぐにゃと身体の一部みたいに動かして、荷が積まれたパレットを粗雑に置いていく。荷は5階の新規就労組が積み、ラッピングして階下に降ろす。不慣れのために少しの振動でパレットから荷が崩れ落ちることがある。崩れると、清原は真顔でフォークリフトに乗ったまま、貨物EVで5階へ消える。

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