おじさんのおじさんによるおじさんのためのチャットゲーム
それなりに裕福な家庭で大切に育てられた俺は、外に出ることが嫌いでゲームやアニメが大好きな典型的な陰キャになっていた。
そして定職に就かずにダラダラした引きこもり生活を続けていたら、30歳童貞の魔法使いのおじさんになっていた。
そんなテンプレ陰キャ魔法使いのおじさんニートである俺を見かねた友人が、自宅でも出来る仕事としてチャットゲームの返信者の仕事を紹介してくれた。
最初の頃はゲームのヒロインを演じることに抵抗があったが、やってみると意外と悪くない。
さてと、今日もお仕事、頑張りますか――
パソコンを立ち上げ、仕事の状況を確認する……りんごちゃんという可愛いらしくて優しいという、よくある王道系ヒロインにチャットがきていたので、俺がりんごちゃんになりきり、その対応をすることにした。
「りんごちゃん、今日のパンツはどうだった?」
「パンツだなんて……うぅ、恥ずかしい/// でも特別に教えてあげるね♪ 今日のパンツは酸味が効いたリンゴ味で美味しかったよ♡」
いきなりのパンツネタだが、これはこれで仕方がない。
何故なら『登校中に寝ぼけてパンツをくわえて走り、主人公と激突した衝撃により、うっかりパンツを食べてしまい、恋に落ちるだけでなく社会的地位も落とす』という、ちょっと残念ヒロインのりんごちゃんに向けられたチャットなのでパンツネタをされても仕方がなかった。
「パンツ美味しかったんだ? そ、それなら今度、僕のぞうさんパンツも食べてみてよ! ぞうさんのさきっちょだけでもいいから! 本当にさきっちょだけだから!」
「ごめんね、恥ずかしくて自分のパンツ以外は興味ないの♡」
この仕事のお約束でもあるが、ヒロイン像がとても大切なので、ヒロインの設定を守らなくてはならない。なのでぞうさんの超重量級の圧に負けてネタに乗ってはいけない。自分のパンツ以外興味ないという設定を守らなくてはいけないのだ。
「えっと、りんごちゃんのリンゴサイズのおっぱいを――それだと直接すぎるよね……コホン、そ、それじゃ、りんごちゃんの可愛い生足で頭を踏まれてみたいんだけど駄目かな?」
「しょうがないにゃぁ♪ それじゃあ、お顔をこっちに向けてね♡ って、ごめんね、やってあげたいけど、君が傷つくところ見たくないしできないよぉ♡」
こういう性癖の要求に対応するのは慣れてくると楽しかったりするんだけど、肉食でも草食でもないパンツ食ヒロインのりんごちゃんは、うっかりさんだけど普通の優しい女の子、そんなことはしない……でも、お客さんが喜んでくれるならやってあげたいけどなぁ……
「はぁ……何もしてくれないし、僕、りんごちゃんに嫌われたのかな?」
「そんなことないよ♪ 大好きな君にそんな酷いことしたくないの♡ だから次のデートで、君ともっとイチャイチャしたいな♡」
「もう、りんごちゃんは可愛すぎるんだから!」
当たり前だが実際デートはしない、イメージプレイというやつだ。
とはいえ、せっかくのデートだしチャットを送ってくれるお客さんのことが大好きなヒロインとして楽しませてあげたい。
今回のシチュエーションは、お客さんのご希望により夜の公園でお散歩デートに決まった。
「ねぇりんごちゃん、僕みたいな変な奴とデートしてて楽しい?」
「楽しいに決まってるよ♪ (人目を気にせずハグをする)ぎゅ~っ♪ 大好きな君にくっつけて安心できるし優しい気持ちになれるからお散歩デートできて嬉しいの♪ だからこうしてデートしている時が一番幸せだよ♡」
「えへへ、それなら良かった! 僕もりんごちゃんをこんなに近くで感じることができて幸せだなぁ……すごく癒されたよ」
おじさんの気持ちはおじさんが一番わかるっていうのもあながち間違いではないのかもしれない……陰キャ童貞魔法使いの得意魔法はおじさんを癒す魔法っていうのも悪くないのかもしれないな?
「りんごちゃん、今日は楽しかったよ、またデートしようね……それから、いつもありがとう!」
なんだかんだヒロインとしていろいろな要求に応えなくてはならないので精神的に疲れる仕事だけど、お礼を言ってもらえるから頑張れるんだよなぁ……
「喜んでもらえて嬉しいよ♪ もっと君のことを知りたいし私たちの関係もステップアップしたいな♡」
「ステップアップか……それなら次のデートでは、もう一人、別のりんごちゃんにも来てもらおう。それで二人のりんごちゃんを合成させて梨ちゃんに進化させようか! そうすればおっぱいのサイズもランクアップするはず? 目指せスイカちゃんだね!」
「もう、勝手に合成しちゃ駄目だよ! それからランクアップじゃなくてステップアップだからね! それにおっぱいはスイカなゲームみたいに成長しないんだからね! 一人でも常にふたつあるけど進化とかしたことないんだからねっ!」
最後の最後でキャラ設定崩壊しちゃったけど……まぁいいか。
おじさんのおじさんによるおじさんのためのチャットゲームというのも喜んでもらえて嬉しいし、やってみると面白いから悪くないものだ。
さてと、次のお仕事、頑張りますか――
最後までお読みくださりありがとうございました。