#5小休止、カフェでゆるゆるり
やっぱり、どうしても一週間かかります。
後風邪気味でしてね、毎週土曜くらいには上げようと思ってます。
すみません。あ、パソコンなどの方は上、スマホなどの方は下にあるであろうサブタイはフェルマータ、と読んでください。
売店区画。
道中に二人から聞いた情報では、通常の学校の売店を巨大化したもの、商店街の近代化版といった印象らしい。
学園の敷地内に外の店があること自体、特殊なことだと思う。
それが商店街、デパートのような規模に拡大しているのだから、異質さが分かるだろう。
まあ、この学園が常軌を逸した扱いなのは今に越したことじゃない。
それに、慣れてくればいいものだ。学園に居つつも、休日には容易に友人と共にショッピングに行ける。
この学園は制服からしてセンスが良い。出ている店も似たようなセンスのものがあるだろうし、他の場所も同義だろう。
そう考えてワクワクしながら、私は売店区画の入り口を通った。
「どうです?近くから見てみると、中々広いですよね」
「ええ。ちょっと常識を疑うけど、慣れたら慣れたでいいものね」
「だよね。ワタシ、今もちょっと迷うもん」
「それは仕方ないです。えっと、確か年に一人はここで迷うらしいですよ」
「.......まさか、現代にそんなフィクションのような表現があるなんて」
ドラ様のミュージアムな映画とか、そういうのでしか見たことがない。
あの映画、色々道具の仕組みとか、二人の仲良し秘話とか、面白いところ多いわよね。
「フェリス。言っておくけど、ここはフィクションだと思った方がいいよ。いろいろ」
「わ、分かったわ。あの生徒会とか、先生とか、現実でまずないって否定される存在だものね」
「ラブコメとか、一部の恋愛ゲームとかでしか見ないですよね。キスと〇王とダー〇リンとか」
「貴女、なんで恋愛ADVに詳しいの?」
「フェリスも大概ですよ?」
「え、え。何の話ー?」
アレは名作だと思うのだ。
タイトルの魔王繋がりで言えば、G〇上の魔王なんかは諸に心に来るし。
あれ、ハルちゃんのルートでの拳銃絡みの所、泣くの止められないわよ。
チョコレート作って待ってるんだぞ、って聞いて、それでも彼女を守るために、自分を信じる彼女を否定して自分を悪者にしなければいけない。
あぁぁぁぁ、くぅ、姉さん、なんてものを勧めてきたのよ....!
「えと、なんで泣いてるんです?」
「泣いていない!」
「あぁ、そですか?......辛いことがあるなら相談、乗りますよ」
「わ、ワタシも乗るよ!悩みは吐き出そう、ね?」
「ありがとう?」
お、おかしい子のように見られた!?
仕方ない。本当に仕方にゃい。
挽回すべく、時間をかけていこう。
「あ、そんなこんなで着きました」
「カフェ?」
「カフェです。誰が何を言おうとここはカフェです。よろしくお願いします」
「あいOK」
「かふぇ.....?」
いあがカフェと呼んだ場所は、一見して図書館のように見えた。
コーヒーや喫茶所、などという文字は何処にも見えない。
うん、完全にカフェね。
辺りには、人がいるように思えない。
「やあやあたのもーう!起きてますかコルネリアー!」
「んぁ.....寝てるです....」
「起きてますね起きてるんですね、コーヒーひとつ!あいやみっつ!」
「......そこにポットありますよ....ご自由に」
「ふむぅ。はい、コーヒーです」
「「........」」
「え?」
いや、その反応はおかしい。
レティシアと口で言わずとも声が揃った。
図書館のように見えた『カフェ』は.....無人ではなかった。
カウンターの周りに無造作に積まれた本は、大事にされているのか適当に扱われているのか分からない。
その知識の山を築いた当の本人は、それらに紛れて眠っていた。
ちらと見えた髪は紺碧のもので、透き通るのような綺麗さはアクアマリンの如く、見紛うほどのものだった。
そのくせ、その素材を台無しにするようにぼさっとしていて、身に着けている衣装も制服のままだ。
確かにここの制服が可愛く、さらに言えば一般のものよりも伸縮性などを兼ね備え、丈夫である。
袖に通る時も特に不快感を感じることなく纏うことができるし、胸のあたりに感じる鬱屈さなどはない。
実に理想的で、実用性の高い品物で、少女が普段着にするのは行き過ぎな気もするが、分かる話だった。
ただし、分かるというだけであって、それを実行しようなどと考えたことはない。
「ま、いいか。......ずず、にが」
私達にジト目で見られて心地良くなかったのか、いあはコーヒーを口に含んだ。
しかし、彼女はまだおこちゃまなようで、飲むなり舌を少し出した。
「砂糖入れないからよ。....あら、足りないわね」
「足りない....?角砂糖、まだ九個もありますよ?」
レティシアは私が取ったポットを覗き見る。
そこには、甘い塊が九つ、スプーンと共に入れられていた。
んー。
「少なくともあと二粒欲しいわね。無いもの強請りはしないけど」
「え、ちょっと、ボクの無くなるじゃないですか。何全部入れようとしてんです」
いあが手を伸ばしたが、時すでに遅し。
私はぞんざいに角砂糖をぽとぽととコーヒーに入れると、くるくるとかき混ぜて飲み干した。
隣では心なしか距離を取る忍者と、項垂れるように肩を下げるいあがいた。
うん、やっぱりちょっと苦い。
「え、あれ今苦いって顔しなかった?ねえねえ」
「いえ、別に。インスタントにしては美味しかったわね」
入れる角砂糖の数にこだわりがある程度には、コーヒーは飲んでいる。
その経験からして、この味はどこかのインスタントコーヒーの味だった。
昔、姉が友人に貰ったとかで飲んだことがある。正直あまり美味しくはない。まあ、それも昔の話で、今のものは幾分か美味い。
それが世の中が進歩したのか、自分の舌が大人に近づいたのかは、定かではない。
「うぇ、ボクの苦いままなんですけど....って、別に砂糖は角砂糖だけじゃないか」
「そういえば、ケーキを食べるだなんて言っていたわね。料理本ならあるんじゃないかしら」
「いや、ちゃんと実物ありますから。えっと、どこにやったかな、コルネリアー?知りませんー?」
「.......ん、知らないです。貴女が.....ふぁ、勝手に置いてくんです....から」
「じゃあせめて能力使ってくださいよ。ほら、十分寝ましたでしょ、身長伸びたでしょ、成長したでしょ」
「えぇ.....じゃ。眠る前に.....『再現』」
再び、被っていた毛布を剝がされてしまったコルネリアという少女は、そう呟いた。
能力とは、ただ思考するだけで発動が可能だ。手足と同じ要領で。
こうして声に出すのは、今から自分が何を為すのか、という自己確認に過ぎない。
武道なんかでも、確か技名を言って放つ流派があったはずだ。
そう朧気に思い出していると、少女の目の前に一つの箱が現れた。
――正しくは、ケーキ入りの箱だ。
つい昨日に食した店のものと同じだったので気付いた。
コルネリアは能力を使った途端に何かに耐えられなくなったかのように倒れた。
慌てて見ると、彼女は毛布を掛けることもなく眠っていた。
何か代償だろうか。別に、そこまでしてケーキを用意しなくてもいいのだけど。
「さあケーキです!こいつはあれです、寝坊助ですから食べれなくてもいいですよね!いただきま――」
「駄目」
「ぁー....はいはい。分かりましたよぅ。お残しすればいいんでございましょう」
「もぐもぐ。うん、それでもぐ。もぐったならもぐもぐいいもぐ」
「それでもぐ?もぐった?」
「あぁダメダメ、ちゃんと食べてから喋らないと」
だって、美味しいんだから仕方ない。もぐ。
「まさか、フェリスがよく食べる人だったとは.....」
「でも食べてるの中々可愛いよ?」
「多分それ、小動物的な、というより肉を喰らう猛獣.....いや何でもないです」
「もぐもぐ」
二人が何かを話している。
しかし、ケーキのおいしさの前ではそれに対する興味も霞んでしまう。
これはモンブラン?ブッシュドノエルも?うーん、リンゴやレモンなんかの果実パイも美味しい....。
「ああもう駄目ですね。完全に五感が味覚に偏ってます」
「ふぇ?あ、んく、そうだね」
「あ、アナタもですかそうですか。......うしゃらぁ、ボクも食べますよぅ」
ん?
はわっ、わ、私のアップルパイ!?
れ、レモンパイもいつの間にかないっ!?
他...ので、...埋め合わせを...!
「もぐもぐ......もぐもぐもぐ......もぐもぐもぐもぐ」
「ぱく.....フェリス?水分取らないと死にますよ?バカですか?」
いあは言葉がキツイ気がする。
へーきよ。
食べ物程度で喉を詰まらせるなんてありえな....。
「へ、もぐ、だいじょ。だいじょう....こほっ!?へるぷぅ、こほっ、うぉーたー!」
「ハイコーヒー」
「んく、んく.....ぷふぅ。助かったわ....」
「言わんこっちゃないです」
あわよくば?しぬかと。
ん?よくはない?
「あーまぁ、あれです。フェリスと食べ物を合わせたら、馬鹿が生まれるんですね」
「いやそれは...その、間違いじゃないかも、知れないけれど。馬鹿は酷くないかしら」
「食べ物喉に詰まらせるなんて、馬鹿のすることですよ?」
はい、カチンと来ました。
やられたらやり返せと、文明の始祖が言っている。
「.......おりゃ」
「むぐ!?ごく、ちょっと、それは違くないですか、むぐぐぅ!?」
「あ、モンブランって美味しい!食べたことなかったなぁ」
「お前は何しとるんじゃぁ!助けなさいよぉ!あれですか、アナタが一番のバカなんですか!」
「くえ」
「むぐぇ、こく、ごく、こんなんじゃ美味しさも分かりませんよ!ばかぁ!」
ん、ふわふわするねぇ。
そーいえば、なんかにがいケーキ食べた?
「うぇにが、これ、サバランでは?」
※フランスの伝統的なケーキです
「あーね、たまーに弱い人が食べると酔うとか言うよね。子供だし」
「よりによって、この馬鹿がそれだとは.....むぐ」
「くえ。くえー!」
「鳥かっ!んく、ちょっと、これ食べてるからいいですけど、粗末にしてません!?」
「そま.....ん?んー?」
そまつ。粗末?
おいしいケーキ.....食べる?
たべれば、ばんじかいけーつ!おいしいから!
「......くえ!」
「どういう思考なんですかっ!えなに、食べればセーフ的な!そういうこと!?」
「はいはい、フェリスちゃん。コーヒー飲もう」
「うっく、ん、ずず、ぷは」
「うえっほ、もうしばらく、甘い物は無理かも.....あでも食べたいです」
「あはは!、んー、ん?うん?」
「うーわ、酔ってますよ。めんどくさいですけど......【起動】」
※フェリスちゃんの頭がふわふわしていてぽんこつなので、三人称視点になります。
起動、といあが呟き、カードのようなもの.....即ち、SCデバイスの起動キーをタップする。
カードの表面からホログラムのようにカードホルダー型のウィンドウが展開され、広がる。
「『逆位相』、セット七」
パスワードのように宣言を終えると、ホルダーに収められていた十の色の内、緑が抜かれる。
それは、意志を持っているかのように独りでにコーヒーへと近づき、吸い込まれるようにして消えた。
「【終了】これでよし。はいはいフェリス、これ飲んでください」
いあはフェリスに自分のコーヒーを渡した。
それは、彼女の能力が付与されたものだ。
「?ん、こく、こく、こく。........あれ?」
フェリスがそれを飲むと今までの振る舞いが嘘であるかのように正気に戻っていった。、
「おうおう、酔いは醒めたかいガール。こういうのにいちいちデバイス使うの面倒くさいんですけど?」
「いや、あの、何も覚えていないのだけど、何かあったの?」
「あははは!ふざけるなぁ、このばかぁ!」
え、なに、ほんとに。
ご、ごめんなさい?
☆ ☆ ☆
その後。
コルネリアが起きてガチギレしたり。
レティシアが(も?)酔っぱらったり。
酔ったレティシアが発動した能力で遊んで楽しんだり....。
筆舌に尽くしがたい、大変美味なお話があったのだが。
「まさか、いあがコーヒーで酔うとは」
「もういっぱーい!うぇははは!」
「『箱庭』!『箱庭』!あそぼー!」
「ねさせてください。ねむいです.....!」
「待って!今寝られたら収拾付かないのよ!コルネリア!起きてぇ!」
私自身、今とても楽しいので。
小休止として、少しここで休んでいくこととしよう。
コルネリアちゃんです。
再現、この能力を思いついた時、アトリエシリーズのあの子しか出てこなかった。
コルネリア推しでした。アイテム複製ありがとう、コルネリアちゃん。