#2アイアムじゃぱーにず、ニンジャ!
「それじゃ、皆と仲良くね、フェリスちゃん!」
「ええ、はい。頑張ります。それでは、失礼しました」
教員室のドアをガラガラと閉めて、打って変って静かになる。
先程、先生がおかしくなったがそれを治すのに苦労した。
最終的に、おかしとジュースを少し持ち物から分けると回復した。子供か大人か分からない人だった。
校舎から出ると、入る前よりも人が少ないように感じる。
どうやらそれは間違いではないらしく、現在の時刻はここに来た時よりも一時間ほど経過していた。
たぶん、他の生徒は自分の所属する寮に帰っていったのだろう。
私も早いところルナマリア......いや銀の魔女寮に向かうとしよう。
この名前、なんか嫌だわ.....。
先生に貰った寮への地図を確かめつつ、寮へと辿り着いた。
正直、先生の描いた地図は子供が描いたようで、理解が難しかった。
それをうんうん唸りながら歩いていたので、時間の感覚があやふやである。
さて、少々時間を使ってしまったが、早速これから住む家を拝むとしよう。
「これは.....どうなの....?」
いや、もしかしたら普通よりもアレかも?
言うなればその寮は木造で、言ってしまえば古いアパートを無理矢理一軒家にしたシェアハウスというか。
さらに身も蓋もなく言えば、田舎にあるような、古臭い建物だった。
ここに住む.....?
いや、見た目がアレなだけで、雰囲気としては人が住んでいそうな感じがする。
えっと、ほら、そこにちょうどダンボールも出ているし......。
ガサゴソ。
「ん?」
気のせいだろうか、今ゴミ捨て場と思しき場所にあるダンボールが動いたような....?
いや、うん、気のせいだろう。
大体、ダンボールが動くなんてどこかの特殊部隊員じゃああるまいし。
ガサガサ、ガサゴソォッ!
「いやいやいや、それはおかしい」
どうすればそんな効果音が出るのか、教えて貰いたいほどだ。
その音を出した例のダンボールは、器用にもバレたかッ!と反応を示すと。
「とうっ!」
と勢いよくダンボールから飛び出し―――
「いたぁい!?」
―――そしてもの見事に足元の缶を踏みつけ転倒した。
「何してるの?」
「うぅ....クールに、シノビっぽくチャクチしたかっただけなのに....」
「シノビ?....忍び?忍者?.....その格好で?」
ダンボールの彼は、忍者の少女だった。
いや、私が疑問符を頭上に浮かべているように、忍者かどうか疑わしい。
..........。
少女は、確かに一目見て『これは忍者だ』と分かる服装をしていた。
その端にひらひらなレースやら、いかにも音が出そうな鈴が腰に下がっていなければ。
それに、彼女は黒髪でもなかった。艶やかではあるが、それは金色に染まっている。
闇夜に隠れるには不向きだし、そもそも動くたびにレースが靡き、鈴が音色を奏でるだろう。
「.....は!や、あの、ワタシは、シノビじゃない!です!.....ヨ?」
「遅いわよ?私まだ何も言ってないし。あなたが忍びだって」
転倒した姿勢から起き上がりつつ土埃を払っていた少女は、慌てて否定に入る。
十四歳であり、身長も僅か139㎝しかない私なので、当然上目遣いなどされた記憶はない。
なので、少し腰を低くして下から見上げられると、少々早い母性が湧きあがりそうになった。
......って、何を考えてるのよ!?
「こほん!あー、こほん!お、お前はシノビだなぁ!?」
「え、あ、ふっ!バレたなら仕方ない!アイアムじゃぱーにず、ニンジャ!」
「大人しく観念せいっ!えと、ローグランド家が黙って、ないぞぉっ!」
「い、家柄を使うか、この、えっと、あ、あんぽんたん!」
「あんぽんたん!?」
「そぉぉ......ぅうだ!そーだ!あんぽーんたん!やーいやーい!」
「この似非忍者!可愛くしたせいで忍者じゃない奴!やーいやーい!」
果たしてこれはちゃんとした悪口なのか。
いやこれは悪口だ。
だとしたらこれは私も悪者では?
いやいや忍者は悪者だろうそうだろう。
.....そもそも、忍者ってなに?
「およ?何してるんです、似非忍者ちゃん」
「だーかーらー、ワタシはニンジャ!じゃぱーにず、ニンジャー!!」
「うるさいうるさい!なんか術の一つでも見せてみろぉい!」
「..........房中術、とか?」
「.....それ、なに?」
「あははは!似非忍者ちゃん、その慎ましい胸で!? ああごめんなさい、冗談にならないですね」
「このぉ、ばかぁ!ばかばかばかばかぁっ!そーゆーいあだって背、低いもんね!」
「ぐ、だ、だがぁ?君の隣に居る奴はどうかなぁぁ?ボクよりも背が低いじゃないか!145㎝のボクよりも!」
いきなりの闖入者に勝手にガッツポーズされ、『勝った.....!』と言われた。
これが剣道の試合なら今すぐにでも失格にして追い出すところだ。
「そこの闖入者。私はまだ成長期が来ていないだけ。大器晩成なんだ、悪いね」
「このぉ....うん?その理論だと、ボクにもまだ可能性が.....?」
「え、じゃあワタシにも、まだ房中術に可能性が.....?」
「「「..........」」」
私達は先程までの罵詈雑言っぷりがまるで嘘かのように身を寄せ、固く手を結んだ。
それは今世紀最大の尊い友情であり、また美しい行いだったと言えるだろう。
ああ、ビバ友情、ビバ同志。
数分後。
素晴らしき友情のパワーにより見事な仲直りを見せた私達は、改めて顔を向き合わせた。
ニンジャを名乗る少女は興奮した後で落ち着き、急によそよそしさが出てきている。
対して、ボクという一人称を使う私よりもほんのすこーし身長の高いだけの奴は余裕綽々に立っていた。
「改めて、自己紹介をば。私はローグランド家が長女、フェリス・L・ローグランド。
お気軽にフェリスと呼び捨てにしてもらえれば幸いです」
「あ、ハイ。ワタシはトーマ・レティシア。レティシア、って呼んでください。ニンジャです、ニンジャ.....」
「ボクはいあ。天魔いあ。や、名字なんて無いですけど、あった方が便利でしょう?」
私は優雅に、淑女として最低限度の振る舞いで。
レティシアは一つ一つ言葉の発音を確かめるような、舌足らずな声で。フランス人かしら。
いあは少々独特な自己紹介で、けれど自信満々で。名前だけなんて、変なの。
「で、早速なんだけどここって銀の魔女寮なのよね?」
「うん。まあ、寮って言っても女子寮、それも問題児が集まるだけど.....」
「ここは数ある分寮の内、ひだまり荘って名前の半シェアハウス、半学園寮みたいな所です」
「ひだまり荘.....」
口に出してみると、どこか安心する感じだ。
外から見ても古い建造物だが、木造ということもあってか優しい雰囲気を受ける。
それに、丘の上という立地のお陰で太陽の光がまぶしく見え、ひだまり、というのも頷ける。
「ほんとはね、ワタシといあと、あと二人いるんだけど、一人は休学、一人は行方不明―――」
「ああ、一人は分かるわね。先輩でしょ。どうせ」
「せんぱい。うん。そうだよ、先輩は―――」
「あーあー、それ以上はいけないわ。ここ数ヵ月、手紙だけでも嫌気が差してるのに」
「手紙?フェリスちゃんは先輩と文通してるんですか?」
意外や意外、といあが私に訊いてくる。
文通だってぇ.....っ?
とんでもない!
「とんでもない!」
「ひゃぁ!」
「レティシア、それで忍者が務まりますかね」
「ごめんなさい、つい心の声が漏れ出てしまったみたい」
私は素直にレティシアに謝った。
それにしても、いや、私は悪くないと思う。
レティシアを驚かせたことではなく、先輩に対しての嫌気だ。
普通、文通だけでここまで嫌に思うことはないかもしれないが。
それを可能にする文面と、その内容。
過去に、犯罪者集団を一網打尽にしただとか、爆弾に変えただとか、同士討ちさせただとか、信じられない相手以上の悪行の限り。
一度だけ顔を合わせたことはあるが、変に常識がある癖にまた変なところで非常識な行動をする、頭の痛くなる人だった。
ほんとにもう........。
「ちょっと、ちょっと。大丈夫ですか、気配がヤバいですよ。ぶわぁ....なオーラが!」
「オーラっ!それは、ニンジャに必要不可欠なパワーッ!おしえて、おしえてよフェリスー!」
「はっ。思わず先輩を思い出すと殺意が、淑女としていけないわね」
「淑女、ですか。ふーん。チビが?」
「ぶち殺すわよ♪」
私といあがきゃあきゃあ盛り上がる中、ぽつん、と。
一人取り残されるものが居た。
「あれ、無視なの?こんなところでニンジャパワー発揮したくない!」
殺意に燃える私。
それを嗜めながらもけらけらと笑い転げるいあ。
発揮したくない場所で発揮された影の薄さに嘆くレティシア。
私達はしばしの間、各々個性的にふざけまくるのだった。
「では、失礼して」
「どぞどぞっ」
「古いところではありますがっ」
二人の歓迎(?)を受けながら、フェリス選手、今軽やかに新たな生活への第一歩を果たしました。
実際はただひだまり荘の中に入っただけなのだが。
「どうですか、外から見ると中々に古い建物ではありますが、内装は綺麗でしょう」
「日本っぽいよね。なんか、お城とかホテルってよりも皆のお家って感じ」
成程、確かにこれは半シェアハウスという表現も頷ける。
いあの言葉通り、外側は古いが内装はピカピカだ。
この国の大工が建築したであろう、古い様式の組み立て方だが、それ故に堅牢なイメージを受ける。
木々同士ががっちりと組み合い、それらを崩すのは中々に難しいと感じた。
そんな風に私が建物に驚いていると。
「さあさあ早く。ボクら四年生の部屋は二階にあるんですよ、とっとと行ってしまいましょう」
「四年生...?へ、もしかしてフェリスって同い年なの?」
「そうだけれど.....なに、分からなかった?」
レティシアがふと、不思議そうな顔をしてこちらに尋ねてくる。
私も同じような顔をして聞き返すと、彼女はさも当たり前かのように答えた。
「だって、フェリスっていあと同じくらい背が低いんだもん」
「.......」
「ワタシ、こんなに背が低いの、いあくらいだと思ってた」
「.......」
「だから、二年生かそこらだと思って―――ふぇっ?」
「「う る さ い」」
彼女は口に出してはいけない言葉を二度も口にした。
隣で同じように優しく声を掛けている同士も似たようなことを思っているに違いない。
私達はレティシアに向かってやさーしく目を向けた。
彼女はなにやら、安心しすぎたのか腰が抜けてしまった。
ふふふ、遠慮しなくてもいいのに、だって友達じゃない。
「ノォ!ノォォォ!?」
「ノー。ノー?何が?許されないのは君の方だ。そうだな、良いことを教えてあげよう。それはな―――」
「良いこと?一つ日本でのルールを教えてあげるわ。それはね―――」
「ごくりっ」
「「―――っ『人の個性を笑っちゃいけません』!」」
「は、はぃぃ!分かった!ベリーあんだすたんした!笑わない!」
「「よろしい」」
ぶんぶんと首を縦に振り彼女は、理解してくれたらしい。
それでいいのだ。別に、まだ成長するし。牛乳だって.....。
「そ、それで。早く二階に行こう?ね?」
「いいですけど、前にも言った気がしますが、そういうのに安易に触れないことです」
「純粋さは可愛いと思うけれど、純粋な気持ちだけで円滑には人と付き合えないわよ」
「うん。わかった」
今度はしっかりと、確かめるように頷いた。
これで本当に理解したことだろう。
「さーて、私の部屋はどんな感じかなぁ」
次は多分明後日か明々後日になることでしょう。