第九話「王国」
突然だが俺は今ピンチだ。
妹が化粧品を持って朝から迫ってきている。
化粧に無駄な熱意を燃やしていた。
「ダメだよお姉ちゃん、お化粧くらいしなくちゃ。
もう少し女らしくしようよ! ね?」
「俺は無理! ソルビスだけでやれよ!」
「双子なのにお揃いじゃなくなったら。
熱狂的なルナビスファンからクレーム来ちゃうよ!
ほらゲームのルナビス完全再現できる。
顔染め用の赤い染料買って来たから使おう?」
そう言うソルビスの目元には青いラインがひかれていた。
王都が近いせいか商人が扱っていたようだ。
「熱狂的なファンってソルビスが見たいだけだろ?
アイブラシが目に付き刺さって染みるからヤダ」
「お姉ちゃんが不器用なだけでしょ!
呪いよけなんだから文句言わないの!」
「それ迷信!」
無駄な抵抗の末。
結局俺の身支度を、今まで通り妹がする事で落ち着いた。
綺麗に梳かされ結い上げた髪。
赤いラインのひかれた目元が水色の瞳を強調させ。
艶やかに輝く薄紅が唇に塗られ鏡に映る俺は確かにとても可愛いが。
唇が油でベトベトして違和感がひどかった涙目になると。
目元の染料がドロリと垂れる。
悲惨な顔の俺を見た妹に再び部屋に連行された。
途中その姿を偶然目撃したグラヴィスには爆笑された化粧は嫌いだ。
落ち着かないので出来るだけ薄くしてもらい、口紅は拭い取る。
朝から慌ただしくなったがなんとか出発の準備が整った。
城壁に囲まれ広大な敷地である城下町は活気づいている。
今まで立ち寄った村と違い、魔道具の一種かも知れないが。
装飾品を使って自身を飾り立てている人が多い、裕福な証拠だろう。
立ち並ぶ家も頑丈そうで立派な作りだ。
大通りは商店が並び、生活雑貨や食料品店の嗜好品よりも。
ドレスや絵画等の貴金属などの贅沢品を扱うお店の方が多い。
街の中心にそびえ建つ白亜の城は。
絢爛豪華で欠けた部位がひとつもない。
正に王が住むに相応しい完璧な城だった、外見だけは。
城に向かうとバルコニーから。
王国レクスの王ゲネシスが俺達を見下ろしていた。
「勇者アルマよ、よく参られた、順調か?」
俺達は王様に呼ばれ、謁見の間にやって来ている。
「答えなくてもよい、勇者の活躍によって
防がれる、何人居てもよい、そうだろう?」
2番目の勇者が追加されるのは知ってたが国王の風当たりがキツい。
何も出来ない勇者がよく城に戻って来れたなという雰囲気だ。
この空気で新たな勇者と顔を合わせる事になった。
王様の前から半ば追い出されるような形で。
謁見の間から出てきた俺達を待っていたのは。
赤い髪と金色の目が特徴的な2番目の勇者イグニスと。
その後ろに控える8人の護衛だった。
どうも勇者としてのプライドが高いのか。
しかめっ面がデフォルトの2番目の勇者と。
笑顔キープのアルマは水と油だ。
アルマが握手しようと伸ばした手を跳ね除け。
この発言だ。
「お前達が勇者一行だと?
どんな奴が来るかと思えば子供じゃないか。
人数もたったの4人しかも2人は混ざりモノじゃないか」
アルマが童顔なのは認めるが俺達を見て。
即そんな発言が出る奴はコイツが始めてだ。
人外軽視が露骨だ、本来の性格最悪だな。
ゲームでもこんな奴だったのだろうか。
「本来ならば俺だけで十分だ。
勇者の剣の場所も目星はついている。
魔王討伐が出来るまでの間、仕方なく。
同行してやるんだ俺に感謝しろよ」
彼の後に続いて後ろの人達が。
形ばかりの挨拶をする。
「主様の護衛として同行させて頂きます。
余計な気遣いは無用です」
黒髪と茶色い目のショートボブの軽鎧の女性が。
一人、代表して挨拶するが他は静かに黙している。
この女性が側近なのだろう。
ゲームではキャラの役職名が表示されていたから違和感無かった。
それでも実際の会話では本当に誰も名乗らない。
呪いを避けてというより俺達と関わりたくないといったところか。
同行者が増える事になったので。
勇者一行として何があったか情報共有をする事なった。
賢者の塔は話題にもならず、聖地は山賊だらけで何もなく。
『勇者の剣』の情報で行き詰っている事を伝えると。
俺には伝手があるから余裕だと上から目線だが。
とても頼もしい返事が帰ってきた。
ただ会話の度に、「俺は勇者だからな」という。
発言が口癖のように入るので。
勇者の基準が何なのか、俺がアルマに尋ねてみると。
そんな事も知らないのかと。
聞かれもしないのにイグニスは。
勇者である事が如何に凄い事なのか語り始めた。
特殊な魔力を持った異能者が最低条件であり。
生まれつき豊富な魔力と丈夫な身体が好ましいとされる。
基本は10歳までの子供が選定の儀で集められ選ばれる。
ただ魔力が多すぎるとコントロールが利かず感情に大きく左右され。
魔力が暴発する事もあるそうだ。
幼い子供の内は特にその傾向が強く。
気がついたら森に空き地が出来ていた、なんて事もあるそうだ。
勇者は集められた者の中でも。
特に素質に秀でた者が選ばれ一人で一騎当千の力を持つらしい。
魔王討伐に勇者だけ行って来いって。
変だと思ったが個人の力が強すぎて他の人と足並みが揃わない。
だから勇者は団体行動が出来ないのが普通になると。
一騎当千と言えば確かに聞こえは良い。
イグニスが自身満々で言ってる所、悪いが。
絶対それ褒め言葉じゃないな。
この国、勇者に魔王討伐をさせるように仕向けているのは。
実際は勇者の力が強すぎて扱いを間違うと諸刃の剣のようになってしまう。
だから国にとって扱いにくい危険な存在を定期的に。
厄介払いしてるかのように思えた。
その後、俺達は。
城を出て行くときに今後、会うであろう勇者のリストを大臣から貰った。
人相が描かれた簡易プロフィールのようなものだが今後の役に立ちそうだ。