第八話「野営」
『勇者の剣』
魔王を倒すのに使われたと言われる伝説の剣を。
アルマは探したいようだ保管場所すらはっきりしない。
存在すら伝説になりかかってる剣だが。
アルマは、立ち寄った村で必ず聞いていた。
魔王討伐には必須の剣だ。
探し求めている事を水運びのついでに聞けば。
村人は快く教えてくれた、その場所に洞窟はあった……。
勇者の剣の洞窟ではなかったが。
オークの巣穴だ。
巨体で筋力があり棍棒でも振り回されると強い。
好戦的であり凶暴、とても力のあるモンスター。
ゲーム知識を使うなら、この先に勇者の剣は無いと断言できるが。
アルマにはそんな事わからないので戦う事になった。
「皆、行くよ」
「援護します、精霊様、どうかお助け下さい」
俺達の側でソルビスが身体能力向上の魔法をかけた。
その直後、アルマの雷魔法が洞窟の中で発動する。
オークは痺れたのか動きが鈍い。
弓の威力を加減して俺も援護する。
その間、他のオークが俺達に向かわないように。
グラヴィスが先頭でオークの攻撃を受け止める。
その隙にアルマはオークの首を飛ばした。
多少グラヴィスが打撲を負ったが。
ソルビスが治療できる事を考えると問題はない。
騒ぎに集まって来るオークを何体か倒すと。
奥から今までより大きな個体が居た。
恐らく宝を守っている見張りだろう。
俺が矢を当てて目つぶしを仕掛ける。
グラヴィスは手足を切り落とし。
最後はアルマが心臓を貫く。
思ったよりは安定して倒すことに成功した。
おそらくオークの戦利品が集まっている場所に。
魔力を感じるものならあったが、魔法使い用の腕輪だ。
マグナが居ない為ただの換金アイテムになった。
魔法使いのマグナが死んでからわかったことなのだが。
勇者一行は魔法で生活用水を賄っていたようだ。
水の確保が難しくなったらしく道中、村に寄る頻度が高く。
思ったよりも日数がかかりゲーム的な考えで見ると進行が遅い気がする。
野営が何度も続いた。
カリッっと音がするからカリコリと呼ばれてる木の実。
正式名称は誰も知らない、通説だけある食べ物が並ぶ。
王都の図書館に図鑑はあるかもしれないが、入館料が必須、知識は高価だ。
塩漬け肉、酢漬けの葉物野菜、干した甘いベリーのような果実。
全部煮込まれた、出汁も旨味も無い塩気の効いたスープ。
誰が作っても大体同じ味になる、このスープが主な主食だ。
鳥、うさぎ、魚が確保できれば火を起こすだけで。
焼き物は楽しめるがどれも微妙に苦みがある。
解体してる時は血の臭いで魔物を呼ぶ可能性もあった。
結局火を使うのは短時間でできるだけ栄養を考えた結果。
このスープだけで済ますのが野営の基本らしい。
魔法使いがいればもう少し潤沢に水を使えた。
ソルビスも身体の能力を向上させる魔法はあるようだが。
水を出す事だけはできない。
今の俺達に水を得る方法はなかった、殺したのは早まったか?
5番目の勇者コンコルディアの年齢を考えると。
時間がかかるのは賛成なのだが。
大きな街についてからは盗賊も居なくなり。
俺達は移動が大変になった。
山道を通るたび勇者アルマに引き寄せられて。
高確率でゴブリンやコボルトの群れが追いかけてくる。
想定通りの展開になったようだ。
コボルトの隊列が俺達をずっと追いかけていた。
見渡す限り20匹、もっと居るかもしれないが最低限でそのくらいだ。
臆病な性格の奴らも魔王様直々の命令となれば。
手柄を立てるのに必死だ、我先にと勇者を襲う。
鼻が利く猟犬と化した奴らに追われ続ける。
最初はなんとかなったが昼夜問わずだ。
何が厄介って寝る時間が無い。
こっちの疲労を狙っている。
コボルトが嫌いになりそうだった。
「うーん、僕より強くはないけど数が多いと辛いね」
「俺達はコボルトの恨みを買った覚えはないんだがな」
まさか勇者って存在だけで狙われているとは思わないよな。
「勇者様、戦士様、やるしかないです」
逃げ続ける訳にもいかないが数が多い。
「勇者様のお酒に火をつけて、投擲、でもする?」
獣は火に弱いはずだ、案外追い払えて良いかもしれない。
「僕のお酒! それはだめだよ、山火事になっちゃうからね?」
「俺も一瞬、賛成しかけたがそれはやめておけ」
「お姉ちゃんは火傷しそうな事しちゃだめです!」
俺も眠くて思考が鈍っていたようだ。
なんとなく予想がついていたが全員に押さえつけられた。
「でも、これは困るね、戦って全滅させようか」
「勇者様、私は賛成です!」
「戦士様は戦える? 私は問題、ない」
「俺を誰だと思ってる、余裕だ」
そう言うとグラヴィスはコボルトを一撃で切り伏せた。
勇者と近接攻撃力が同等なステータスだけあって。
力だけは一級品だ。
前衛にアルマ、グラヴィス。
後衛に俺とソルビスが並ぶ。
寝不足なせいか微妙に気が立っているようだ。
ソルビス以外、俺を含め全員が一撃で仕留めている。
20体居たコボルトはあっというまに殲滅できた。
「最初からこうすればよかったかな?」
少し照れくさそうにアルマが言うが。
返り血とコボルト特有の獣臭さがひどい。
俺達は浴びてないだけまだマシだが。
アルマとグラヴィス、二人の臭いは深刻だ。
旅の最中、身を清めるのは中々贅沢な話になる。
一刻も早く宿屋か、川か、何でも良いから探して。
この異臭を消したかった。
行く先々の村では有名になったのか。
歓迎の言葉と共に事件解決を頼まれる事が多い。
食料の補給や道を聞く為にも無碍にはできない。
頼まれついでに宿屋でお湯をお借りして身支度を整えた。
俺達は『勇者の剣』を求めて別の洞窟に来ていた。
前回行った場所とは別方向だからオークは出てこないはずだが。
洞窟の入り口にはどうみても人間。
山賊の拠点と化していた。
観察してみると人を入れられそうな檻を搬入している。
趣味が悪いが、山賊は生き物の密輸も行っているのだろう。
「剣を探すには彼らはとっても邪魔だね、倒そう」
「ああ、俺達がやるしかないな」
突如乱入した俺達に驚いたのか逃げる者が半数。
戦う気で攻撃してくる者が半数居た。
山賊達はそんなに強くは無いが。
洞窟の壁に積み上げられた檻が問題だ。
人間に魔物と言われた様々な種類の亜人が捕まっていた。
その中には手足を痛めつけられた裸のエルフも存在する。
王国レクスではエルフは商品だ、痛ましい姿に思わず目を逸らした。
「ルナビス、ソルビス無理しなくても良いからね」
アルマは俺達に配慮してくれるつもりのようだ。
グラヴィスも俺達から背中で見えないように隠そうとしてくれているが。
見えてしまったので手遅れだ。
「少し、驚いただけです、大丈夫です」
青ざめた顔は恐らく演技ではない。
思わず最悪を想像して硬直したソルビスを抱きしめた。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
「本当にあるんだな、こんなこと」
「私達エルフはこの人外軽視の王国だと。
拷問から自白強要されて最悪処刑かも?
時代設定を考えると魔王配下として。
街に吊るされて最後は投石が濃厚かな。
良くて塔に一生幽閉?」
ゲーム設定が重い。
……魔王様には頑張って貰おう。
「本当はしたくないけど、仕方ないね」
檻の中身は人間に恨みをもって危険なので。
生かしてはおけないとアルマは言った。
当然だと思うがエルフは無理だ。
俺達がハーフエルフだと思っているから。
アルマとグラヴィスだけがその作業を行った。
エルフというだけで、種族だけで判別されるこの王国が嫌いだ。
勇者さえ居なくなれば、檻の中に入る立場は人間の方なのに。
結局この洞窟は商品の在庫管理用の洞窟だったのか。
目当ての剣どころか何一つ、目ぼしいものが無かった。
次に立ち寄った村の村長さんから聞いた話では『勇者の剣』は。
ずっと東の山の洞窟にあり。
先代の魔王を討伐した言われる勇者が使っていた物で。
勇者以外の者が持つと剣が重くなり。
常人には持ち上げられないと言われている。
村では真偽はわからないが、行く価値があるかもしれないと言われたが。
アルマは『勇者の剣』を求めて。
今までも噂を頼りに移動するが、立ち寄った農村では聞くたびに。
微妙に違う話になっていて、無駄足に終わるばかりで。
今度の情報も正直不確かだとアルマは思ってしまったようだ。
もう何度目かもわからない。
村人からのお願いと言う困りごとを。
安請け合いした時だった。
「お前は相変わらず胡散臭い笑みだな」
グラヴィスが苦言を入れた。
「ひどいよー僕は笑顔も大事なんだよ? そう思うよね?」
アルマが俺達に聞いてきたが。
笑顔は威嚇行動とも言う……。
一緒に過ごして気がついたが。
アルマの顔は驚くか困るか笑顔だ。
一日の7割笑顔と言っても過言じゃない程だ。
表情が無い訳じゃないが日夜、可愛いを心がけ。
にっこりスマイルを意識してるそうだが。
ゴブリンの首が目の前に飛んで来た時も。
コボルトを雷魔法で焼き尽くした時も。
酒場で酔っ払いに絡まれた時すらも。
いつでも笑顔だ。
そのままの感想を言ってやるか……。
「うーん、いつも笑顔はちょっと怖いかな」
「そうですね……少しだけ怖いと思います」
「嘘だよね? 皆、僕の事そんな風に思ってたの?
ショック……! まあ僕は泣かないけどさ」
行き詰まりを感じた俺達は。
王都の酒場のほうがまだ、整合性がとれた話がきけると考え。
一旦王国レクスに戻る事にした。