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第七話「傷跡」


次の日の朝、商人から買った食料を背負い旅支度を整えて。

俺達は雇った盗賊の案内で『聖女の祭壇』を目指す事になった。

盗賊の契約は山岳地帯かららしいが集合地点はこの村だったようだ。

雇われだからか交流は必要最低限。

会話も特になく、今も俺達を先導して進んでいる。

本来は道中に『賢者の塔』もあるはずだが、マグナが死んだから。

話を語る魔法使いが居なければそのイベントは発生しないので。

誰も思いつきもせず素通りして行く。


森を抜けた先には、岩場の多い山岳地帯が広がっている。

そこに生息するコボルトやスライムの襲撃を対処しながら。

ゲームなら聖騎士にクラスアップできる場所までやってきた。


今は山賊と化した戦士崩れのたまり場となっている。

荒れてしまった廃墟、別名『聖女の祭壇』だ。


巡礼で聖女が祈りを込めた場所で善行を行うと祝福を授かる。

逸話がある場所だ、当然逸話で終わらせる。


この人と人が殺し合う地獄みたいな場所で。

戦士が勇者を庇う事が聖騎士の発生条件らしいが。

勇者アルマの側にはソルビスが付き従っている。

戦士グラヴィスは必然的に後衛である俺の前に移動してくるわけで。

これなら俺が動けば勇者を庇うのは封じられるだろう。


聖騎士イベントどう回避するかだが。

指示を出す勇者は中心から動かせない。

心情的に勇者の護衛である以上。

戦士を物理的に勇者から引き剥がすのは不自然だ。

結局全員団子になって移動する。

俺も隣に居て、邪魔するほうがどう考えても早い。


そう思ってたんだが……。


「アルマ、危ない!」


山賊と化した男がアルマ目掛けて投げやりを放った。


グラヴィスが飛び出すその瞬間、体が勝手に動いていた。

アルマを庇うグラヴィスを妨害するつもりで。

後ろから突き飛ばすがそのまま勢いがとまらず。

俺の腹に投げ槍が突き刺さった。

グラヴィスは体勢を崩し、守られたアルマは呆然としている。

俺は不思議と冷静でお腹が熱を持つが、痛みを通り越して。

冷たかった、歯を食いしばり脂汗が溢れる中、妹の悲鳴が響く。


「おねえちゃん! おねえちゃんが、なんで!」


確かに痛いだけど、もっと欲しい、この痛みがもっと欲しい。

お腹の槍をどうにかしなくちゃ、なんでどうして。

別に抜かなくても良いんじゃないだろうか。

だってこんなにも熱くて、心臓が早鐘を打つ、気持ちいい?

心が落ち着かない楽しくてしょうがない、嬉しい、のかもしれない。


「熱い、アハッ、生きてるって感じだ、もっと」


……今俺は何を言った?

そんな事、今はどうでも良い。

なんだこれ、おかしい、痛いはずなのに。

敵を殺したい、そうだ、今さっき槍を投げたアイツ。

あの投げやりを投擲した山賊に弓を放ったらどんな気分だろう。

最高にすっきりするに決まってる。

だって、こんなにも良い気分なんだから。


「……ルナビス?」


俺の発言にアルマがこっちを見ている。

相変わらず子供みたい、呆けてると更に幼い。

西洋風の世界なのに一人だけ童顔とか本当に面白い奴だ。

違う、違う、今はアルマより山賊だ。


「命中、完璧」


ナイスショット、さすが俺。

眉間ど真ん中当ててやった。

嬉しい、ずっとこのままで、あれ、お腹真っ赤、なんで。


逸早く状況を理解したアルマが俺に近寄り回復魔法をかける。

勇者の回復魔法程度じゃ全快出来る程の威力は無い。

腹に槍は刺さったままだが痛みは多少マシになった。

それと同時に思考もまともになってきた気がする。

俺の息が安定したのを確認するとアルマは。

襲ってきた生き残り相手に斬りかかるようグラヴィスに指示を飛ばす。

その間に妹が回復魔法を俺にかけた。


槍を抜き取る時も少し痛かったが。

妹の過剰回復のお陰で傷跡は残ったが完全に治ったようだ。

気が付くとアルマ、グラヴィス、ソルビス、全員が俺を囲んでいた。


「ルナビス、だめだよ、君は女の子なんだから」


「突き飛ばされたのは驚いたが。

俺の為だったんだな、気づかなくて悪かった」


「そうですよ、お姉ちゃん、反省してください」


俺は何を考えた、腹に槍を貫いたまま、このままが良いなんて。

明らかに一瞬正気じゃなかった。

もしかして自覚が無かっただけでマゾヒストか何かだったのか。


不安になっているとソルビスが興奮気味にこっそりと答えを教えてくれた。


「この感覚、スキルの『アドレナリン増幅』だよ!

やっぱりゲーム通りなんだ、間違ってなかった」


「なんて迷惑なスキル、ソルビスもなのか?」


途中妙に大人しかったソルビスも頬が赤い、目も瞳孔が揺れて。

恍惚と嬉しそうな笑みだが異常にしか思えなかった。

よく見れば涙目な上に涎も垂れている。

俺もこんな顔をしていたのだろうか、痛みに悶えて喜ぶなんて。

思考を汚染されるドMスキルじゃないか最悪だ。

唐突にドM発言は恥ずかしすぎる。

姉妹揃ってこのスキル、まさか全エルフ種族単位で。

痛みによる恍惚から殺人衝動が引き起こされるのだろうか。


結局あの後、二度とこんな真似するなと再度全員から説教を受けた。

10歳の見た目と女の子なのが原因だったのか。

傷を無視して動いた事か、確実に後者だな。

お前は子供なんだからと全員過保護になった。


回復魔法がある世界なので。

軽い気持ちでやらかしたのは認める。

俺だってこんなパッシブスキルがあるなら。

今後、体を張るような事は頼まれてもしないが。

妹よりも俺に対して幼児扱いが進んだ気がする……。


俺が庇った事でグラヴィスの聖騎士イベントを。

結果的に阻止できたことが大収穫と言える所だろう。

ありもしない未来の話なんて。

この世界の誰にも理解はされない。

きっと褒められる事では無いが。

後で妹と二人こっそりお祝いしよう。

名目は快気祝いだな。


戦士が聖騎士になる未来を潰した。

聖女の祭壇探索は終了、戦利品の中の。

お金になりそうなものを街で換金したが。

これは普通の冒険者でも出来る範囲だろうけど。


勇者一行としてはこれで2連続何も得られず。

戦力を失った事になる。


誤算だったのは俺は聖騎士阻止の為に。

勇者くんを庇う戦士くんを庇ったのだが。

今現在俺はその戦士グラヴィスにうざ絡みされている。


「そんなに俺が好きだったとは……。

俺のせいで負傷したんだ責任はとる。

それすら出来ない程俺が不実な男に見えるのか?」


違うお前の為じゃないその方向に帰結するな。

やめろ俺がお前を好きとかその妄想を今すぐ捨てろ。


どうやらずっと前から好きだった年上の戦士の。

お兄さんの危機に憧れが暴走して庇ったと言う。

壮大なストーリーが戦士くんの中で出来上がってしまったようだ。


こんな惨事を招いているが。

俺がコイツを好きだった事は無い。

お互い勇者の添え物のような認識で。

まともに会話を交わした事すら無い。

誤解を解く為に、全力で否定もしている。

怪我も治ったから気にするなと言ったんだが。


「違うから気にしないで欲しいな、なんて……」


「今度から俺が必ず守ってやるからな。

 そう照れるな恥ずかしいのか?」


何を言っても照れ隠しだと思われまったく話が通じない。

どうしてこうなった……。


俺が妹と一緒にアルマに相談し。

見かねたアルマがグラヴィスに対して「幼児性愛者(ロリコン)なの?」

と聞いたのがトドメになったのかそれ以降、妹扱いで済んでいる。

この時だけはアルマがいつもの数倍光り輝いた救世主(メシア)に見えた。


短い間とはいえ野営も終わり。

俺達は立ち寄った小さな村の宿で男女に別れて宿泊した。


借りた部屋の一室。

高価なガラスは使われていない質素だが清潔な部屋だ。

月明かりが綺麗な夜だった。


「おねえちゃん、だいすきだよ」


俺の後ろから聞こえる。

抱っこして欲しい時のソルビスの甘え方だ。

この習慣は小さい頃から続いてしまってる。


「やっぱり、ここ傷になってる」


触られた部位は戦士くんを庇った時に出来た傷跡だ。


「悪かった、もうやらないよ」


俺が前側から抱き寄せるとソルビスの体が温かい。

生きている、なんだか眠くなってきたが……。


魔王様からの定時連絡用の蝙蝠が窓に来た。

手紙は魔力に反応し、ソルビスが触る事で開封される。

中身は配属した魔物の位置と周辺の地図だ。

詳細に記されており売られている物より質が良い。

送ったら魔王様しか開封できない為、入れ間違いは許されない。

誤字が無い事を確認してから俺達は返信を蝙蝠に持たせた。


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