第六話「道中」
俺達は山岳地帯を目指して移動した。
森の中での基本の移動は朝から昼までになる。
一人寝ずの番を立て交代で眠った。
当然、夜は暗く野生動物の危険もあるが。
気温によっては昼から夕方に睡眠をとる事もある。
この辺りは気候が安定してる為、俺達は朝から動く事になった。
アルマとソルビスは回復魔法を使うからか思う所もあるらしく。
意気投合しているように見える、会話が穏やかだ。
問題は必然的にグラヴィスと俺の二人になる訳だが。
「世界の為、なんて大層なものを。
背負うつもりはなかったんだがな。
アルマが一人旅立つのを放置したくなかっただけだ」
聞いてもないのに語りだした。
「俺は子供の時に大きな熊を倒した事もある。
勇者が諦めざる得なかったモンスターもこの剣で。
一撃で仕留めた事もあるし何しろ村では一番俺が強かった」
仲間として歩み寄ろうとしてくれてるのか無理やり喋っている印象だ。
一頻り話し終えると、したり顔で。
「惚れたか?」
「それはない、かな」
とりあえず即答できる話で助かったが……。
「そうか」
「そう……」
俺が口下手だから会話が、はずまない。
よく見てみると茂みの陰に何か動くものが見える。
ゴブリン、数は少ないな3体だ。
「ゴブリンが3体、居るかも」
およその位置を伝える。
「後ろに下がっておけ、俺がやる」
グラヴィスが討伐に向かうが俺も戦えると教えておきたい。
ゴブリンの眉間に矢を順番に当てていく。
「私、一人でも倒せる」
これで、俺もグラヴィスも無傷だ。
「それは、心強いな」
木々の間に目を凝らすと、ゴブリン達が集まって何かを捕えているようだ。
小さい手足を必死に動かしている、子供。
ゴブリンの数が妙に少ないと思ったがこれが原因か。
ゲームにこんなイベントあったのか?
「子供……子供が居る」
「なんだと? 助けに行くぞ、どこだ」
グラヴィスが先頭で斬りかかると同時に他のゴブリンに矢を放つ。
強い敵は居ない、問題なく倒せたようだ。
「治療を頼む」
アルマに向かって頼むところをソルビスが割って入った。
「待ってください、グラヴィス様、回復なら私がやります」
打撲が多かったからか綺麗に治ったようだ。
子供をグラヴィスが担いで近くの村へと連れて行く。
どうやらこの村の子供だったようだ。
少し憔悴しているが生きている。
ゴブリンの巣穴に連れ帰られる前で本当に良かった。
「娘を助けて頂いてありがとうございました」
「人として当然のことをしたまでです」
グラヴィスが子供を送り届けた。
宿屋の娘さんだったようだ。
助けたお礼に一番良い部屋を貸して貰えた。
本当に心配だったのだろう、サービスの食事も少し豪華だ。
豆と野菜が多めのスープと薄味の干し肉。
身が詰まった固めのパンは焼き立てでスープと相性が良い。
飲み物は自家製だと思うが果実酒だ。
久々の甘味だからか、かなり甘く感じる。
この一杯が一番贅沢かも知れない。
夜になるとアルマが村で買った酒を飲んでいた。
グラヴィスと飲み始めていたようだ。
俺が二人に近づくとアルマが話しかけてきた。
「ルナビスか……、正直少しだけ不安なんだ。
仲間が消えて、昨日まで会話してた人がもう、居ない」
「居なくなったら嫌だと思うのは普通、だと思うけど」
俺だってソルビスだけは守りたい。
その為に失う事をコイツに強いたのは俺だ。
「そうだよね、ごめん、辛気臭い話しちゃったね」
俯いている為、顔は見えない。
弱気なアルマを見て少しだけ考える。
それも一瞬だけだった。
だめだ、ここで情を感じるな。
ゲームキャラに共感して何になるんだ。
俺の背中に誰かが抱き着いて来た。
この感触はソルビスだ。
「勇者様、心配し過ぎです、私達は弱くありません。
簡単に死んだりなんてしませんよ」
ソルビスの発言に笑顔を保っていたアルマの顔が。
一瞬だけ困り眉になったが、すぐ元に戻った。
「そうでなきゃ困るよ、戦うんだから」
「はい、私達が勝って笑える。
そんな世界になる事を誰よりも願っていますよ」
「僕はそろそろ寝るね、二人共良い夢を」
部屋に戻る背中を俺達二人は見送った。
私達が勝って笑える世界、その通りだ。
俺達も部屋に戻る、二人の時は共通の言語を使う事を心がけた。
その言葉なら何を言おうと誰にもバレずに済む。
「あはっ、早く皆居なくなっちゃえば良いんだよ」
「だよな」
「どうせなら攻撃魔法が欲しかったな」
「それは俺も欲しかった」
魔道具はあれど俺だけ魔法無しは少し寂しい。
「ねぇ、お姉ちゃん、私にはお姉ちゃんだけだよ。
だってルナビスはたった一人の仲間なんだから」
「ああ、一緒に生き延びよう」
決意し、手を重ね合う。
勇者を殺し損ねたなら、俺達はきっと死ぬ時も一緒だろう。
最後に勝つのは俺達だ。
「んー、ルナビス可愛い、ほっぺぷにぷに。
現実で少女、夢にまで見たこの弾力」
「……色々台無しだ」
「明日の英気の為だよ、お姉ちゃんを充電しないと!」
等身大の抱き枕と勘違いしているのか無遠慮に俺を抱え込んでくる。
さっきまでの空気も一瞬で消し飛んでしまった。
妹はシリアスが長続きできないのかもしれない。