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第五話「速成」


森の奥地に近づくと不自然な建設物が並ぶ集落に辿り着いた。

ゴブリン達の住処だろう。


ソルビスは移動速度が遅いその設定を、貫くつもりのようだ。


移動距離の遅さにマグナが戦い方を変えて欲しい言っている。

それを聞き入れてアルマとグラヴィスが別行動を提案してきた。

追従する形で俺達がゴブリンくらいで死ぬことも無いだろうと。

言えばあっという間に別々になった。

グラヴィス、ソルビス、単独で勇者アルマ。

孤立した魔法使いと共に近くの建物に移動する。


イベント進行には勇者だけ居れば良い。

邪魔なキャラには退場して貰おう。


チュートリアルに出てくるゴブリンの集落。

家のような建物のギミックは知っている。

ゲームでよくある進行方向を教える為の一方通行。

二人以上で入ると一人が奥に進むまで入り口が開かず出られない。

奥にはダメージ罠と宝箱、もっともゲームと同じように本当に。

宝箱があるわけじゃ無さそうだが。


「マグナさん、でいい? 建物があった、何かあるかもしれない」


「それで良いわ、罠かしら、調べない訳にもいかないわね」


二人で奥へと進む、入り口の扉が閉まった。

ゲーム通りなら開くとは思えないが確認の為に押してみる。

動く気配はなかった。


「だめだ閉じ込められた、どうする?」


「奥の部屋を調べてみるわ」


杖の先に炎を灯して魔法使いは一人進む。

薄暗い部屋も見渡せる光量。

先に入って行くマグナの背後。

俺は黙ってその背中を押した、罠を発動させる為だ。


「なっ、なに?」


突然の出来事に対応できなかったのか。

マグナはバランスを崩し転倒。

罠が感知するには十分な重さが加わったようだ。


発動した罠は大きな斧が振り子のように切り込んでくるタイプだ。

鈍い音と共に咽るような鉄と血の匂いが部屋に広がった。

どういう原理なのか踏んだ者だけをピンポイントにダメージを与える。

ゲームならこのままアイテムを回収する所だが今は用がない。

マグナが瀕死になった所を押し倒しナイフを振り上げる。


「裏切り者で悪いな」


首の側面に刺し込む、せめて痛みが長引かない事を祈りながら。

刃の横に当たる、骨の固い感触だけは慣れそうにない。


マグナの体には罠に引っかかったと思わせるには十分な傷跡が出来た。

部屋の入口は開いているが死んだ魔法使いと共に居たと思われるのはまずい。


ナイフから血を拭い取り。

俺は急いで勇者の援護に入る。

弓使いだ、俺が遠くから狙う事は何もおかしくない。


集落のゴブリン全てを狩り。

勇者くんが気が付く頃には俺達は4人揃っている。

1人この場に居ない魔法使いを除いて。

当然、帰って来ないマグナを探しに行く話になった。


倒れたマグナを発見するのは早かった。

全員が手前の部屋に入ると入り口が閉まる。

魔法使いが倒れた罠の部屋まで妹が駆け寄るが。


「だめです、回復できません、マグナさんはもう……」


俺の犯行がばれないかと不安だったが。

即死するような罠が仕掛けられていたという話になった。

実際罠は使い切りだ、発動した残骸が痛々しい。


妹が奥に行ったおかげで出入り口の扉が開く。

孤立しないように皆一か所にまとまるように勇者様から指示が入った。

今後殺すチャンスは少なそうだが、戦士が聖騎士になるのを妨害するだけでも。

戦力ダウンに違いない、最悪、他の勇者と合流して人数が増えてからでも良い。


「マグナ……仕方ない覚悟の上だ」


俺からはアルマの表情は見えない。


「仕方なかったでお前は済ますのか」


「僕は済ますよ、勝算の低い旅なんだ」


会話をしながらマグナを埋葬した。

思ったよりも冷静に見える。

知り合いでもない俺達の前だからかもしれないが。


ゲームでは勇者は例え一人でも魔王討伐に向かう。

采配ミスで死人が出れば仲間割れが起きるかと思ったが。

そんな事は無さそうだ。


倒したゴブリンの数と状況を村に行き、村長に報告を終え。

井戸の水で戦闘で浴びた返り血を洗い流すと。

2人は俺達に先に宿屋に行くように伝えてきた。


「僕達は酒場に行ってくるよ山岳地帯の道案内に盗賊も雇いたいからね」


「治安がいいとも言えない、お前達は出来れば宿から出ないで欲しい」


居残るよう言い含めて勇者くんと戦士の二人は酒場に行くことになった。

強制加入イベントだろう、これを俺が妨害するのは不自然だ。

街道の道案内が終れば離脱する、盗賊に関しては特に気にしなくていいだろう。


「少しだけ、目の前の通りの露店だけ見に行ったら宿屋に行きますね」


ソルビスが二人に外出する事を伝えると俺に向かう。


「お姉ちゃん、今は忘れて遊ぼう?」


花が咲いたような笑顔だ。

今はこの狂った明るさが恋しい。


「そうだな、出かけるか」


ずっと城内の一角で隔離されて育っていた。

街並みを見るのは初めてだ。


見た事のない果実、食べた事のない串焼きの肉。

全部食べたいが屋台の食品は相場より4割増しで高い気がする。


「この髪飾り可愛い、買おうよ」


美味しそうな食べ物を我慢して道具のほうを見る。

食品とは逆に日用品や人を選ぶ衣服は派手な値引きが当たり前に並んでいる。

原価はわからないが店の10分の1の価格で売られていた。

見るだけで俺は何も買わないのだが露店は気分転換にはなる。


「良いな、ソルビスに似合ってる」


「お姉ちゃん、いいこ、撫でてあげる」


「ありがとう、でいいのか?

普通逆だと思うけど」


「今日だけだから、だって順調だよ」


「そう、だな」


妹だけがこの世界で唯一、画面の外側の存在、人間なんだ。

他はゲームのキャラ、NPCだから殺したって問題はない。

何をなんて言わないけれど、全肯定してくれる妹は可愛いかった。

勇者一行って魔王討伐掲げてるけど。

考えてみれば俺の家に行く為の準備してるんだ。

落ち着いて考えると急に力が抜けてきた。


「んふ、ルナビスが、直接、殺すなんて……!

2次創作でも無ければこんなイベント発生しないよ」


前言撤回、妙に嬉しそうだがソルビスは相変わらず言動が残念な奴だ。


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