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第三話「目標」


10歳くらいまで外見が成長すると。

口にするのも(おぞ)ましい吐き気がするような訓練が追加された。

この訓練の目的はわかりきっている。

躊躇(ためら)いなく弓で射殺出来なくては勇者と同行できないからだ。

そしてナイフと毒の使い方も学ぶことになった。

体格のせいか、もしかしたら弓より使いやすいかも知れない。

先生は勇者一行に混ざりこめと無茶を言ってくれる。


それでも行かない訳にはいかなかった。

勇者達が暮らす国は人間至上主義の王国レクスだ。

魔王様が討たれれば魔物に対しての。

迫害や家畜のような扱いを避ける事はできないだろう。

ハーフとつく種族、人の血が半分でも流れるなら。

奴隷程度には扱われるかもしれないが。


それ以外は家畜か素材、魔王城に暮らす魔物なら殲滅だってありえる。

人間側に人外軽視と魔物は滅ぶべきを主張した過激な派閥が存在しているのは。

この数年の暮らしでなんとなくわかった。

そして俺達も人間を殺すべきだと考えている集団の中に今、居る。


魔王討伐の為に集められ旅立った5人の勇者の内。

1人、農村生まれの勇者アルマ。

この勇者が一番、地位が低い。

仲間を王様経由とはいえ探しているのはここだけだ。

彼のパーティーは今。

戦士、勇者、魔法使いの3人だ。


後衛で弓使いの俺と回復の妹をねじ込む計画だった。

王が公的募集をかけ試験を行っていた場所に。

替え玉を送り込み無事合格したらしい。

俺達は王国公認の発行用紙を持って明日、勇者と合流する。


非合法の極みだ、全てがお膳立てされている。

それだけこの計画は重要度が高いからだ。


ゲームの主人公に会える、とかそんなテンションにはなれそうにない。

妹は相変わらず楽しそうだ。


「だって主人公に会えるんだよ、お姉ちゃん!」


「でもただの勇者だ、しかも5人もいる」


魔力量で王様が判断して後は人柄を見て決めるだけ。

伝説の勇者が女神様に選ばれたなんて話もない。

この選び方ならその気になれば。

規定次第で10人でも100人でも選出できるだろう。


「勇者の名前がアルマ! やっぱりあのゲームに違いないよ!」


魔法が使えない俺にはピンと来なかったが。

そう言われると少し楽しみかもしれない。


その日から俺達は。

ゲーム世界に迷い込んだのだと思って行動する事にした。

俺達が潜入する予定のチームに。

記憶と同じ名前を持つ勇者が現れたのだ。

可能性の話ではあるがここまで符号するなら。

試して見る価値はあるだろう。


「ゲーム世界は確定として。

具体的なハッピーエンドってなんだ?」


俺が知ってるのは魔王を討伐せず無意味に過ごすと。

第三勢力が発生して両陣営ゲームオーバー。

当然無茶してこっちが全滅してもだめ。

離脱したユニットは一生そのままだ。

この世界に蘇生魔法なんて存在しない。

回復魔法も体力の回復だ。

失血死は無いが失われた体の部位が元に戻る事は無い。


「魔王様と勇者コンコルディアの結婚エンド。

これが発生すれば和平条約が成立するはずだよ」


そんなエンディングあったか?

普通に勇者が魔王を倒して終わりだったはずだ。


「その話、知らないな」


「追加DLCの隠しエンドだから。

パッケージ版だけやってるならわからないのも無理ないよ」


追加コンテンツまでは購入してないな。

思ったよりやり込んでるのか。


「5番目の勇者コンコルディアはシナリオ後半に出てくるから。

もしかしたら、まだ子供かも」


「気の長い話になったな」


エルフになってから体感時間と成長度合いがかみ合わない。

ゲームの時間軸は不明慮だ、今わかるのは先の話になることだけ。


話し合っていると。

訓練の一環で暇なら狩りをして来いと言われてしまった。


今夜の晩飯を狩る為に森に居た鹿に対して。

ソルビスが鈍器で殴る、その隙に俺が弓を撃つ。

ゲーム風に言うならばスタンからの追撃。


戦闘に素人だったはずの俺達は体が動くという一点だけは。

連携と素晴らしいポテンシャルを獲得できた。


もうひとつ気になったのは。

この世界の才能は固定だ、精神論は一切通用しない。

俺は弓なら適当に構えても当たる、的を見ていなくてもだ。

ゲームで双子が使えたスキルも普通に使えた。


特に訓練もなく意識したら出たという感じだ。

これがスキルなのか確認しようと先生に聞いた時。

『スキル』の意味がまったく通じなくて。

ここが異世界な事を改めて思い知った。

先生の前で実際に発動してみせると。

わかって貰えたが特殊能力とか固有の力、魔力なんて呼ばれていて。

『スキル』という名称を知ってる人は誰一人居なかった。


恐らく経験を積んで後から獲得するものではなく。

生まれた時から使える才能のひとつとして。

魔法自体が超能力に近い扱いなのだと思われる。

そして大多数の人にとって魔法と俺達が思う『スキル』は。

区別がついておらず混同され名称が定まってないようだ。


そして妹は神など一切信じていないが。

回復魔法だけは誰よりも上手だ。


「神は居ない、神など死んだ!」


と叫んでも、問題なく発動していた。

本当になんでだ? 意味がわからん。

先生達も苦笑いだ。


基盤にして考えるとゲームとの違いも多かった。

ルナビスが1ターンに14歩動けるなら。

ソルビスは1歩しか動けない足が遅いキャラだった。


現実としては予想以上に俺と妹に火力があった、そして移動速度も同等だ。

これは恐らく勇者の前では遅く行動して近接攻撃は苦手だと言う事にして。

全力で足を引っ張っていたのだろう。

真相はわからないが裏切ることが前提なら何もおかしくはない。


そして俺達もこれから同じように勇者の足を引っ張るのだ。

全ては俺達が生き延びる為に。


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