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第二話「確信」


ファーストコンタクトは最悪過ぎた。

人を見てロリータエルフ……ロリフはないだろう。

俺の双子の妹、ソルビスに色々聞いてみると。

前世の事は母国は同じだが住んでる地域が違う上に。

顔見知りでも知人でもない縁も所縁もない他人。

同じなのは特に死んだ記憶はない事と前世の言語だけだった。


そして何故か俺の事をお姉ちゃん呼びする。

女になった気分が増長するのが嫌だから。

姉と呼び慕う必要はないと説明したが。

逆に妹というのは新鮮で楽しいと押し切られてしまった。


今日もソルビスは俺を見つけると抱きつく。

話がしたいとこうやって、近づいて来るのだ。

無下に出来ないくらい姿だけは愛らしい。


「お姉ちゃん、ここは創作の世界だと思う」


「何を根拠に?」


「どうみたってファンタジー世界の住人だよ。

知ってるゲームと似てる所もある気がするけど。

問題はどんな異世界かわからない」


「種族から考えてファンタジーは確定かもな」


確かに周囲の人間は魔界の住民。

ここが魔国テンペスタス、敬われている女王様も。

魔王様と呼ばれていたのは確認した。


初めて魔王カルディア様を見た時女性だった事に驚いた。

緩やかにウェーブがかかった黒い髪、猫のような紫の瞳。

細い瞳孔と尖った耳、牙、爪が人でない事を主張しているが。

暗く刺すような、見ただけで身動きが出来ない。

氷を連想させるような冷たく透明感のある美しさを持っている。

城内でも別格の容姿と存在感は正しく全てを統べる女王様だ。

レースが揺れる黒いイブニングドレスには。

真珠が飾られていた、それと同じくらい艶がある白い肌。

本人を見てしまえば城に飾られたどの肖像画も見劣りするとわかった。


こんなに美人なのに何もできないなんて。

なんで俺は女に生まれてしまったんだ。


「これ異世界転生じゃないかな、お姉ちゃん!

テンションが低い! 俺TUEEEかPT追放か。

悪役令嬢か婚約破棄かもしれないよ!」


「すまん、何を言っているかさっぱりわからないんだが」


今世の妹であるソルビスは。

恐らく、何かのジャンルを並べている。

正直何を言っているのか意味がよくわからなかった。


嬉しそうなのは良いがテンションが無駄に高い。

仮に創作された異世界でいずれ勝利が約束されていても。

苦境に置かれるなら俺は素直に喜べないけど。

今は夢を見させておくべきかもしれない。


現状、専属の世話係が付いている。

俺達の今の服装は簡素な白い上下が一体化した。

オーバーオールの短パンだ。

俺達がどの程度の地位なのか、わからないが。

日当たりの良い見るからに上等な二人部屋を与えられている。

備え付けられた家具も傷ひとつない高級そうなもので統一されていた。

育ててくれる世話係の女性の中に。

城内とはいえ魔王様が混ざっていたのは本気で驚いた。

目的は不明だが期待され大切に育てられている気はする。


「……変な世界だから現実逃避しないとやってられないよ。

魔法の訓練も思い通りいかなくて」


魔法、ソルビスには回復魔法の適性があった。

瞑想、音読の時間が一日の半分を占めている。

本人も使えると聞いてやる気をだしていたせいで。

訓練時間は自業自得だが。

思ったよりも習得に時間がかかるのが嫌なのだと。

ここ最近は躍起になり無理をしてまで訓練をしたがっている。

今日も無理やり休めと部屋に追い返されて来たのだろう。

魔道具で調べたが俺に魔力は一切なかった。

手助けはできそうにない。


休憩時間や与えられた部屋で。

妹と母国語で堂々と喋っても。


「双子だから通じ合う何かがあるのね」


「きっとオリジナル言語を作ってるんだわ」


周囲の人達は特別仲が良い双子の姉妹として。

微笑ましいものをみる目で注意はされなかった。

妹は俺にとって話が出来る唯一の相手だ。


最初は不安だったが今は打ち解けられたと思う。

気を許したのか昔のヒット曲やアニソンを。

自室で熱唱するのだけはやめて欲しかった。

歌詞の内容もだが俺しかわからないネタのせいで。

周囲の双子だから通じるものがあるのねオーラがヤバイ。

俺を同類にしないで欲しい。


外見年齢が8歳を超えた頃、先生は俺達二人を揃って呼んだ。

最低限の教育が終った事を告げ。


「お前達にはこれから王国で選ばれる勇者を暗殺して貰う」


続けられた言葉は聞き逃せなかった。

勇者居るのか、とか無茶言うなよとかいろいろ思ったが。

黙って聞いていると先生は言葉を続けた。


「ルナビス、効果を知りたがっていたな。

エルフの耳を隠す為の腕輪だ。

同じ腕輪を付けている相手にはその効果はない」


ソルビスの耳が普通に尖って見えるのは俺もつけているからか。

暗殺と聞いて妹と一緒に逃げる事を一瞬だけ考えたが。


「認識阻害は便利だが、昔は奴隷の逃亡防止用に使われた。

密輸入の為の魔道具だ、無いとは思うが、もし逃げるならば腕が千切れる。

腕が無くなった姿は見たくない、賢明なお前達ならわかるな?」


冗談なのか本気なのか。

先生の独特な脅すような言い回しだ、正直、顔が怖いからやめて欲しい。


「冗談、ですよね?」


「冗談だ、だが人間はエルフに対して寛容ではない。

戦況が安定するまでは付けておきなさい。

もっとも魔王様の血が無くては外せないがな」


ソルビスは声を震わせながら俺にだけわかる言葉で言った。


「お姉ちゃん、ここやっぱりゲームの世界だよ」


非現実な言葉と共に。

その後、前世で有名なRPGゲームのタイトルが告げられた。


「ハピスタプレイングスの国産RPGキュムラス。

『救国の黒き乙女と選択の勇者達』シリーズ5作目作品だよ。

有名声優を起用したイラストとグラフィックが充実してた奴。

実はゲーム性は改悪って言われてファンの間では炎上してたけど」


俺は最新作の前評判だけ聞いてこのゲームをやってみたことがあるが。

一回だけエンディングまでクリアした事があるだけで。

ストーリー自体はあまり覚えてはいない、炎上してたのか……。

俺一人ならパラノイアに陥るしかないが。

同じ境遇のソルビスが言うなら考えてみるべきだろう。


知ってるゲームならば勇者達の名前の通り、勇者が5人いる世界だったはずだ。

多過ぎるのが特徴だ、戦力は何人いても良いのかもしれないけれど。

性格は非常に個性的、主人公である勇者アルマを軸にして動く。


確かに、そこに出て来た、特段強くもない。

後半まで進めると勇者アルマを裏切り魔王様に忠誠を誓いなおす。

俺達と同じ名前の弓使いと回復使いのハーフエルフの双子キャラが存在した。


「気のせいじゃないか」


年齢が合わない、5人の選ばれた勇者の話だってまだ聞かない。

流石にゲームキャラの服装何て完璧に覚えていなかった。

ただ、月と太陽が個別に描かれた腕輪が同じデザインなだけだ。

……逃亡防止用の腕輪が。


「気のせいだよね」


そう言いつつもお互いに腕輪を凝視してしまった。


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