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第十九話「誘拐」


「なんで全滅しかけてるのよ、アタシに任せなさい!」


周辺の草木を叩き切りながら少女が近づいて来る。


この赤毛の少女は、あの村の少女か。

確か名前はカロル、だったか、斧で切りつけた一撃は重い。

確かにこの森が本来加入するタイミングだったはずだ。

グラヴィスが抜けた今、戦況を引っ繰り返すには十分な火力だった。


「君は……」


「カロルよ、まさか忘れたなんて言わないわよね?」


派手に暴れたせいか植物達は矛先をカロルに向けたが。

冷静になったアルマもアルラウネに斬りかかる。


「まさか、ちゃんと覚えてるよ」


弱ったからか回復を図ろうとしたアルラウネの触手に。

槍使いの二人はあっさりと吸い上げられてしまった。


俺も急いで弓を放つが相性が悪く。

植物の体には貫通はするが効いている様子はない。

最終的にはアルマとカロルが二人で斬り倒してしまった。


「せめて、ここに埋めて行こう」


グラヴィスの剣を墓標にして簡易な墓を皆で作る。


宿屋に戻るとカロルも当然のように同行してきた。

アルマはグラヴィスを失った事が堪えたのか。


凪いだ笑顔だった、初めて見る表情に困惑の方が勝る。

こんな顔を俺は知らない。

アルマの人間らしい姿に動揺してしまうのは何故なのか。


「二人は、一緒だよね?」


「当り前ですよ、アルマ様」


アルマは片手でソルビスを抱き寄せた。

その一瞬だけ、年の離れた家族のようにも見え。

俺は即答できなかった。


「ルナビスは怖い?」


俺の頬に手が添えられた。

一枚絵のような光景と展開に嫌な予感が止まらない。


「怖くはない、でも、アルマが。

アルマ様が辛そうに見えるから、どうすればいいか、わからない」


「いつも通りでいいよ、いつも通りで」


もっともらしい言い訳で誤魔化したがそれどころじゃなかった。

俺の悩み何て、小さな葛藤なんて些細なもので。

でも、こいつは勇者だ、この展開は危険だ、このままだと俺がヒロインにされる!

可哀想だと哀れんでしまった、同情してしまった、メス堕ちなんて冗談じゃない。


カロルは仲良くしましょうと食事を注文して。

宿屋の店主に一人増える事を告げていたが。

これ今後は俺達の部屋にカロルも増えるって事か?


「お姉ちゃん、やっと決別イベントだね」


「決別イベント……」


「さっきのがゲーム中で一枚絵が入るアルマと双子の最後のイベント」


「恋愛フラグじゃないんだな、違うんだな?」


決別イベントはあったのかもしれないが。

最後のイベントって事はアレのはずだ。

賢者のマグナ、聖騎士のグラヴィス、弓使いのルナビス、僧侶のソルビス。

中心の勇者アルマがここからの戦いを決意するシーンになっていたはずだ。

こんな双子を抱きしめるような展開じゃなかったはずだが。


「そんなの無いよ、生き残ったメンバーで一枚絵が変わる。

そう、プレイヤー目線で期待させておきながら。

この後、魔王様が登場して本来なら。

ルナビスとソルビスの二人はアルマと離れるんだ」


「さっきのアルマの言動、本当に何も無いんだな?」


「期待させておいて、ゲームだとなんもないんだ!

恋愛ルートになってもいい空気だったのに。

……なんで、どうして?」


「ソルビス、そんなルートは無かった、諦めろ」


あってたまるか、絶対無かったことにしよう。

何か憤りを感じたが、所謂ガチ勢という奴か。

普段はソルビスのキャラ崩壊を防ぎたいようだが。

特大の猫を被っている素の性格はかなり愉快な事になってそうだ。

深く気にしたら負けだろう、多分。

何で特殊イラストの条件知ってるんだ……?

ソルビス、アルマのソロ攻略でもした事あるのか。


「……アルマとは決別しない予定だろう?」


「ゲームなら、だから、うん、そうなるね」


結婚エンドが本当に成り立つかわからないが。

このままアルマとコンコルディアが合流するまでは俺達は。

アルマから離れる訳にはいかなかった。


俺達が王国へ戻ると。

『勇者の指輪』が闇オークションに並ぶという話が出てきたが。


「勇者の指輪、ね。

僕には必要性を感じないけど」


「村の言い伝えには無いってだけで本物かも知れないじゃない。

アタシは見に行くべきだと思うわ、一緒に行きましょうよ!」


『勇者の指輪』完全に俺が知らない話が始まっている。

ゲームなら本来、兜が手に入ったタイミングで。

決別イベントが発生して俺達は離脱している。

ルナビスとソルビスがアルマの旅に同行する展開はない。

この先の未来は不確定だ。


カロルが誘うが仲間が死んだ事もあったせいか。

アルマは行くのを戸惑っているようだ。


「もういいわ、アタシ一人で行くから」


「わかったよ、一緒に行く、だけど絶対僕から離れないでね」


カロルが同行を望み仕方なくオークションに立ち寄る事になった。


「初代勇者が姫に送ったとされる。

勇者の指輪、1万からスタートです」


オークショニアの声が響く。

紹介された品はどうみても古いだけの指輪だ。

大きな宝石は今も美しいが魔王討伐には関係なさそうだ。

確実に意図が違う指輪だった。


「指輪は違うっぽいね、お姉ちゃん」


「ゲーム内で出た奴だけが本物なのかもな」


オークションの様子がわかるのは良いが別の問題が発生している。

珍しい双子として今、商品扱いで俺達が搬送されていることだ。


「二人共、何処よー!」


遠くで俺達を探すアルマとカロルの声が聞こえた。

見えていないので確信はできないがちょっとした騒ぎになっている。

聞こえてくる言葉で判断するならば俺達を探して回っているようだ。

恐らく待っていれば助かるだろうが。


この国、人身売買もあったようだ、予想以上に腐敗している。

本来は俺達も売られる予定は無かった。

人攫いに捕まってしまったがこの会場の管理人は。

擬態したサキュバスだったからだ。

俺達に付けている腕輪を確認すると状況を察したのか。

即座に開放するように指示していたが。

人間達はその指示を無視して売る準備を強行したのだ。


王都に忍び込んでる奴らに限るが。

魔王側だって人を騙す事を生きがいにする存在がいるせいで。

人間側が一概に悪いとは言えないが侵食された王都は思ったより魔境だった。

俺達が人攫いに狙われた理由はわかる。

意図せずハーレムパーティとなったアルマのせいだ。

少女3人に囲まれている少年のような男、誘拐犯からは狙い易かったのだろう。

グラヴィスが居なくなってからこんな事になるとは。

思ったより子供というのは不便だ。


ナイフで反撃しようか考えたが街中で殺傷事件は起こせない。

証拠も残る為、仕方なく俺達は無抵抗で捕まった。

王都の中心を管理する魔物は多くいる為。

裏稼業ならこちら側の可能性を考えたからだ。

なんだかんだ魔王様から貰った腕輪は役に立つ。

今は無意味だが。


「やっと見つけた、ルナビス、ソルビス」


「「アルマ様!」」


思わず俺達は同時にアルマの名前を呼んだ。


「ふふっ、やっぱり双子なんだね」


檻から見たアルマはやっぱり笑顔だ。

状況のせいか鍵を持っているアルマに少し恐怖を感じたが。

無事俺達は檻から解放された、鍵を探す為に少し暴れたらしい。

場違いながらも非合法な相手なら剣を向ける事も。

気にしない所が怖いと俺は思っていた。


全員で宿屋に戻ると埃塗れになった事と化粧が崩れた事を気にして。

一足先にソルビスが着替えたいと言って部屋に戻って行った。


食堂で残った俺はカロルの雑談の相手をさせられている。

その時アルマが後ろから声をかけてきた。


「やっぱり僕は君を連れていけない。

僕は元々君を連れて行く予定ではなかったんだ。

お願い、言う事を聞いて」


アルマはカロルに帰る様に促す。


「どうして? アタシは戦えるわ」


「以前テストしたから君の実力は知ってるけど。

正直言えば君が居なくても僕はあの魔物を倒せたし。

魔王城周辺の魔物も強くなっている。

もし君が襲われたら僕は迷わず庇ってしまうだろう。

そんな事が起きれば良い方に物事が転ぶとは思えないんだ。

君はまだ若いから、もう少し大人になって実力がついた頃なら。

僕の方から誘いに行くよ、約束する。

だから今は諦めて帰ってくれないだろうか」


「……わかったわ、アタシ村に帰るわ」


その言葉に反論の意思を失ったのか。

カロルは少し寂しそうにしながらも荷物を取りに部屋に向かったようだ。


その後、今度は俺に対してのアルマの説教が始まった。


「ルナビス、離れちゃだめって僕、言ったよね?」


反論できない俺には耳が痛い話だった。


「不可抗力で……」


「それでもせめて叫ぶなりして? 僕、心配したんだよ?」


グラヴィスが居た時と違いかなり長々とアルマの説教は続いた。


「話はこれでおしまい。

今後は二人でも宿屋以外は離れちゃだめだよ、わかった?」


「束縛されるのはちょっと……なんでもナイデス」


アルマが笑顔だった、とても怖い。


会話が繰り返されても嫌だったので俺も部屋に戻る。

中ではソルビスが嬉しそうに笑っていた。


「お帰り、どうしよう、お姉ちゃん、殺しちゃった」


発言と表情が合っていない。

足元には見事に肉塊になったカロルが転がって居た。


「待て、どうしてこうなった」


「だって、邪魔だったんだもん」


凶器と化した血濡れの鈍器は問題だ。

見られれば言い逃れ出来ない。


「とりあえず血を拭って、ぬるま湯が良いか?」


何があったかわからないが今もソルビスは興奮気味だ。

これはスキル『アドレナリン増幅』が発動した可能性がある。

痛みを無視して動けるのは強いが、あの殺人衝動は危険すぎる。

ソルビスは深い傷を負った事が無いから知らなかった可能性が高い。


「ソルビスは怪我とかない、のか?」


「お姉ちゃんがデレた、だいじょうぶ、どこも怪我してないよ」


単純にナチュラルサイコな事が判明しただけだった。

いや、回復して無かったことにされた可能性があるのか?

判断がつかない、とにかく今は証拠を隠滅しなくては。

幸いアルマに帰るよう諭されていた、カロルが今、消えても問題はないはずだ。


「……アルマがカロルに村に帰るよう言ってたから帰った事にしよう」


「そうだったんだ、早まったな、そうだね、それがいいよね」


興奮がおさまりきらないのか、ソルビスが服を脱ぎ捨て血を拭い始める。

血の匂いのせいか気だるそうな顔に一瞬ドキリとしたが。

恐らく状況のせいだろう。

妙に理知的に見えた……いつもこれなら、困るな、死人が出ている。

これは明るいハイテンションの方が演技か。


窓から外に出て土に埋める。

手間だが忘れてアンデットになっても問題だからだ。

血で濡れた服は水で軽く洗う。

魔法がかかっているからかただの布に見える。

服も染みにはならなかった処理が楽でいい。


「落ち着いたか?」


「うん、大丈夫だよお姉ちゃん」


さっきよりも意識がはっきりしている。

身支度も整え終えた、アルマに報告をしておこう。

一人部屋になったアルマの部屋に行くことにした。


「アルマ様、カロル、(かえ)ったみたい」


土にな。


「そっか、(かえ)ったんだね、よかった、無事に村に戻れると良いけど」


その瞬間、入口の扉を叩く音がした。

こんな時間に誰だろうか。


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