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第十八話「再現」


次は兜を探す予定を立てた所で、王国レクスの王様に招集された。


謁見の間に通されて王から4人目の勇者が紹介され。

俺達と行動を共にするように促された。


「合流しろって王様しつこく言うじゃん?

ま、いいや、よろしく、俺フォンスね」


「うん、よろしくね、僕はアルマだよ」


本来なら単独を好むフォンスが国王の指示の下、合流してきたが。

人の言う事なんて素直に聞くような奴だっただろうか?

理由はすぐにわかるはめになった。


「俺、ちょっと出かけて来るわ」


俺達にフォンスはそう言ったが何故か。

男性陣で宿泊する予定の部屋に入って行った。

金でも取りに戻ったのかと思ったがまったく出てこない。

しばらくするとアルマが出てきたが……。


「なんか剣が無いんだよね」


「まさか失くしたのか?」


「部屋に入ったはずのフォンス様は」


「部屋には僕達だけだけど」


宿屋に戻り昼間にアルマが体を休ませる為に寝て起きたら。

3番目の勇者フォンスが宿屋から消えた。


アルマから話を聞いて発覚したが。

……ついでにアルマが装備していた『勇者の剣』も無いらしい。

あの野郎、『勇者の剣』を盗んで行きやがった。


ソルビスの記憶ではフォンスは作中で唯一。

かなりの縛りプレイになるが単独で魔王討伐を成功させる奴らしい。


出掛けると言って部屋に入ったから変だと思ったが。

白昼堂々アルマから『勇者の剣』を奪って行くとは思わなかった。

2階の窓からパルクールで散歩とか忍者かよ、頼むから大人しくしてくれ。

次見かけたら殺そう、アイツは勇者じゃ無い、絶対強盗か何かだ。


すぐに探しに行くべきだとアルマに言ったが。


「フォンス様、持ってちゃったかも、アルマ様、探さない、の?」


「魔王を討伐するのは誰でも良いよね。

まさか剣だけで行くとは思わなかったけど」


この行動をまったく問題にしていなかった。

今この辺りに、魔王様は居ないが、一人にすると何をするか判ったものじゃない。

あの勇者の行動は正直予測できない。


「お姉ちゃん、ゲーム通りなら博打で作った借金だらけで。

かなりのトラブルメーカーだったはず。

勇者の評判が妙に低いのも多分フォンスのせいなんだよ」


下手すると賭けに使われるかも知れないし質に入れるかもしれなかった。

フォンスの向かう先なんてわからないが。

念のために酒場をソルビスと一緒に覗くと。


想像通り、酒場でカードゲームの賭けの対象にされた。

『勇者の剣』がテーブルの上に置かれていた。

当然勇者しか持てない剣だ、仮に誰かが勝っても所有はできないだろう。


丁度勝負が終ったのか。

勝者である男が重すぎて持てないと叫んでいた。

間違いない、本物の『勇者の剣』だ。


「金の代わりにって貰ったけど誰も持ちあげられねぇじゃねぇか。

痺れる上に動かせねぇ、勇者の剣ってチクショー騙された」


「俺が勇者だ持たせてくれ」


酒場で酔っ払いがそう言っているが誰も持ててはいない。


急いでアルマを呼びに行く。

魔王を誰が倒しても良いと思ったのか。

フォンスを追いかける気力の無いアルマも。

賭けの商品にされてるとは思わなかったようだ。


なんでも掛け金替わりにフォンスは『勇者の剣』を置いて行ったらしい。

結局アルマが『勇者の剣』をその倍額で買い取る事で解決したが。

そのままフォンスは行方不明になった。


「勇者にも居るんだな、こんな奴、アルマ、もう手放すなよ?」


「そうするよ、こういう事もあるんだね」


酒場の話を聞いたグラヴィスも勇者が剣を手放すと思ってなかったようだ。


数日後、また王都に呼び出された。

こんな話ゲームでは無かったはずだ。

なんなんだと思いつつ王都に向かうと。

盛大な葬式が開かれていた。

柩の中には3番目の勇者フォンスが眠っている。

フォンスは武器が無いのにソロ攻略に走ったようだ。


国で大々的に見送る事になったらしい。

葬式なんてどんな顔で参列すればいいのか。


フォンスは『勇者の靴』を手に入れていた為、アルマは王に譲渡され。


「勇者よ、フォンスの事は残念であったが。

魔王討伐に必要であろうこの防具はそなたが使うとよいだろう」


「頂戴致します、必ずやご期待に沿えるよう尽力させて頂きます」


勇者の死に泣き崩れる人々を前にアルマはその靴を(うやうや)しく受け取った。


蝙蝠を使った伝言で魔王カルディア様に。

勇者の毒耐性を報告しておいて本当に良かった。

フォンスが死んだという事は俺達が送っていた情報が役立ったのだろう。


アルマの装備が『勇者の兜』以外全て揃った。

予想以上に進展が早い、入手の順番もめちゃくちゃだ。


途中立ち寄った情報屋も見慣れない人間に入れ替わっていた。

ノヴァと呼ばれていた情報屋は見当たらない。


「よお、勇者様、良いもんがあるんだ買ってかねぇか。

前の奴なら引退したよ、今は俺がここの主ってね」


白髪の男は軽薄な笑みを浮かべながらアルマに声をかけた。

周囲を伺っていたのがわかったのか、目敏いな。


「どんなものかな?」


「これだこれ、勇者の首飾りだ、10万で譲ってやろう、どうする」


勇者の首飾り、そんなもん聞いたこと無いな。

ここで買っても無駄な出費が増えるだけだ、止めるべきか勧めるべきか。


「買うよ、お金で解決できるなら早いもんね」


即決した、マンドラゴラの時といい、アルマは詐欺の可能性は考えないようだ。

宿代が支払える程度の損失であれば止める程でもないだろう。

ゲームでは消耗品の回復薬と耐久度が設定された武器。

どっちを買うか悩む羽目になったが。

所持金が妙に少なかったのは裏でこんなものを買ってるからとかじゃないよな?


「さすが勇者様、 商談成立!」


嬉しそうに男は首飾りを手渡し金を受け取ると。

用は済んだとばかりに奥へと戻って行く。

男の姿が見えなくなるとグラヴィスが行く手を遮った。


「待て、本物なのか怪しい、鑑定屋に持って行って良いか」


「じゃあ、僕達は宿屋を探しておくよ」


グラヴィスがアルマから首飾りを受け取ると鑑定屋に向かって行った。

アルマが宿屋の予約の為に店主と話し込んでいる間。

近くに居た商人から俺達は食材を見させて貰う。

久々の王都だ、少し高いが食材を好きに買える。

すぐに食べれる手ごろな果物を数種類と料理に必要な食材を探す。

宿屋では誰でもオーブンを貸して貰えると聞いて。

つい材料を多く買い揃えてしまった。


買い出しが終るとアルマが戻ってきたようだ。

大きくて綺麗な部屋を借りたようだが……改めて考えると金遣い荒いな。


「アルマ様、オーブンを借りた、料理してきても良い?」


「良いよ、宿屋にいるなら安全かな? 僕はグラヴィスを迎えに行ってくるね」


買い込んだ食材とソルビスを見るとアルマはあっさり了承してくれた。

ソルビスに味見を手伝って貰いつつ料理を作る。

正直、今世では初めてだが思ったよりは作り方を覚えていたようだ。

スープ、パン、サラダ、簡素だが好みの味付けで食べれるのが良い。

茹でた野菜にオイルと塩のドレッシング、スープは適当に煮込んだだけ。

パン用の魚のパテが売られていたから思わず買ったが塩っ辛いな。

少量に見えたが一人だと使い切れるか怪しい量だった。


「お姉ちゃん料理できたの?」


「煮る、焼く、くらいの簡単な奴ならな」


「カンパーニュなんて十分ご馳走だよ」


「ただの丸パンだぞ?」


「このクープが美味しそうなんだよ」


「粉があったから試しに作ってみたんだ。

見た目は同じだけど味はわからないよ」


記憶の中のレシピを頼りに適当に焼いたが。

調理途中の粉は荒く感触は明らかに違った。

切り込みの入った丸いパンをソルビスに一つ渡して俺も手でちぎって食べる。

外側は香ばしく歯応えは十分だが、思ったよりも内部の生地に酸味があった。

塩気も酸味に負けている、単体で食べるより何か挟んだ方が合いそうな味だが。

薄くスライスして切ればパンくずだらけになり勿体ない事になるだろう。

甘味も添加するべきだったかもしれない、いっそジャムだな。

大量に練り込みたい味だ。


正直、思ってたのと違う。


「これすっごい美味しいよ」


「ソルビスもパンくらい焼け……ないのか」


一緒に行動してるが今まで料理してる姿を一度も見たことが無いな。


「いいの、お姉ちゃんが居れば困らないもん」


俺は一向に構わない。

後に困るのはソルビスだと思うがこうも手放しに喜ばれると嬉しい。

パン自体は妹に好評だったようだ、勢いで焼いてしまったが。

生地はずっしりと重い、かなり大きくて一つでお腹がいっぱいなってしまった。

残りはアルマとグラヴィスに押し付ければいいか。


「オーブンがある時しか作れないからな?」


「これが、イベントで貰える、ルナビスの『カンパーニュ』、完璧なゲーム飯」


無我夢中で食べている。

嬉しそうなら良いと思ったがゲームでもルナビスが作ってたのか。

偶然再現してしまったようだ、ソルビスの何か良からぬスイッチを押したらしい。

確かにゲーム内で『カンパーニュ』という回復アイテムを所持していた気がする。

ボス戦前の回復にどこで入手したアイテムだと思った覚えがあった。

結局使わずにゲームクリアしてしまったが。

なにはともあれソルビスの訳の解らない言動は今日も絶好調だ。


パンを食べ終わる頃にはグラヴィスとアルマの二人が帰ってきた。


「アルマ、お疲れ様、これ今、焼いたパン」


「ありがとう、丁度お腹空いてたんだ!

実はさっき、鑑定に出してた勇者の首飾りは偽物だったんだよね」


やはり首飾りは偽物だったらしい。

受け取ったパンを頬張りながらアルマは愚痴っている。

グラヴィスも受け取ったが食べる様子はない。

ただ静かにアルマの話を聞いていた。

平和な時間だった、こんな状態が続けばいいのにと。

少しだけ考えた、少しだけだが。


次の日、俺達は残りの装備を集める為に旅立った。

『勇者の兜』がある大樹の森は精霊の住処になっている。


訪れたものを惑わせるように入り組んだ広大な森は魔力の溢れた。

パワースポットになっており水も魔力を含んでいるが。

この森は小動物も見当たらず鳥の(さえず)りひとつなく。

精霊以外まともに生存する事は難しい。

全ての生き物が植物の餌となり果てる別名は死の森だ。


植物系の魔物が溢れ、生息するモンスターは。

毒や混乱、眩暈を引き起こす粘菌類だ、胞子が飛ぶ。

お化けキノコなんてふざけた名前と可愛らしい外見。

それに反して行動は凶悪な状態異常のオンパレードだ。


毒耐性が元々ある勇者だからかアルマは実感が無さそうだが。

そろそろ戦士じゃ戦力不足が明らかになる頃合いだ。

戦う度に疲弊している。

グラヴィスは必死に体調不良を隠しているがわかりやすい。


事前に解毒剤をソルビスと飲んでおいて正解だった。

俺達以外のイグニスの元仲間、槍持ちの二人と、手斧使い。

この3人は中距離だからか毒のダメージも少なそうだ。


道こそは迷路のようで少し迷いながらも進むことができた。

強い敵はおらず思いのほか簡単に目的の場所に到達する。


「やっと見つけた、これで全部かな」


アルマが装備する最後の装備だ。

森の最深部に『勇者の兜』置かれていた。


「ようやくか」


「アルマ様、まだです、盾があります」


「それは集めなくても良いと僕は思うんだ」


「なく、てもアルマ様は戦えると思う」


これで兜も揃ったがここからが本番だ。

ゲームではこの森は帰り道に問題があるタイプのダンジョン。

宝を入手した後に入った時より強い敵が襲ってくる。


それはここも同じで……。

最初に異変に気が付いたのはアルマだった。


「待って誰か、倒れてる」


裸の女性が倒れていた、それを放っておけない。


「ご無事ですか、レディ……ッ!」


グラヴィスが介抱しようと近づくがすぐに動かなくなった。

植物系、最上級モンスターアルラウネだ。


女性に化けたアルラウネはニコニコと微笑むように顔を作る。

アルラウネには魅了魔法があった。


直視したグラヴィスだけじゃない。

勇者とソルビス以外の全員様子がおかしい、見事に操られていた。


「皆どうしたの? 何か変だ、ルナビス、ソルビス、離れて!」


「これは植物系モンスターアルラウネです!

魅了魔法があります、勇者様、目を合わせないで下さい。

見なければなんとかなるはずです」


アルラウネは女性の姿を模しているが旅人。

男を(さら)っては命を吸い上げ己の養分とする。

肉食植物の一種、外見は人型だが植物、会話は成り立たない。

本能に従って動く草木に擬態した触手、今はゆっくりと動いているが。

当たる存在に容赦しないだろう。


俺達以外の女が居ないから選ばれたのだろう、モンスターの特性だ。

疑われにくい、俺達には有難い存在かも知れない。


槍使いの一人は自らアルラウネの下へと歩いて行く。

もう一人は俺達に向けて槍を向けた。

手斧使いの男は最初に斧を振り下ろすがアルマには当たらない。


魅了にかかったグラヴィスも正気を失っている。

操られたままアルマに斬りかかった、動きは単調だが。

2対1だ、不利になるのが目に見えていた。

それでもアルマは反撃を躊躇っている。


「グラヴィス! 正気に戻って」


アルラウネの攻撃は俺達には当たらない。

だけど操られた人は全員、俺達を排除する為に武器を向けていた。


槍持ちの一人が俺に向けて槍を突きつける、避けられない訳では無いが。

お腹に刺された槍の、あの痛みを思い出して一瞬反応が遅れた。


「お姉ちゃん、危ない」


ソルビスが鈍器を叩きつけた。

スタン効果があるんだったか、動かなくなった隙に後ろに下がる。


俺達の姿を見てから覚悟を決めたのか。

アルマは剣を手放させる為にグラヴィスの手を切り飛ばす。

それでも動きは止まらない、手を落とされようと歩み寄って来る。

地面に(こぼ)れた血液に反応したのか周辺の植物が一斉にグラヴィスに食らいついた。


血が舞った、触手で隠れ姿は見えないが恐らくグラヴィスは……。


アルラウネの特性を知らなかったのが敗因だ。

知らなかったとはいえアルマが切っ掛けを与えてしまった。


「勇者様、しっかりして下さい!」


「やってもやらなくても皆、あの植物に食べられちゃう、やるしかないよ」


アルマを攻撃しようとする手斧使いに向けて俺は弓を放つ。

手足を一応狙ったが血に反応して植物が食らいつくした。

結果は予測できていたがアルマから俺達を止める言葉は聞こえない。

アルマが動揺で動けなくなったからだった。


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