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第十六話「船室」


青い空、広い海、イグニスの所有する豪華客船に俺達は乗り込んだ。

今回は俺達しか乗船していない貸し切り状態。

万全の状態で魔王と戦う為に他の装備も揃えたいと言う話になり。

俺達は『勇者の篭手』がある港町までイグニスの船で向かう事になった。

魔王討伐に最重要『勇者の剣』が手に入ってしまってる。

今できる事は攻略に必要のない装備を揃えさせて時間を稼ぐ事だけだ。


案内して貰った2人部屋の客室にソルビスが入ったのを見届けて。

俺は情報を得る為に船内を見て回る事にした。

操舵室ではイグニスの護衛達が交代で操船しているようだ。

護衛の仕事とは思ったより多彩でないと務まらないのかもしれない。


食堂室と簡易的な調理室が備え付けられていた。

他に今は無人だが談話室と医務室もあるようだ。

その隣、明らかに他の部屋よりも少し大きめの部屋の扉が開いている。

薄暗い最低限の照明と荷物が乱雑に並ぶ船内でその一室だけが妙に明るい。

誰か居るのだろうか覗いてみる。


部屋の中では2番目の勇者イグニスと側近の女性が話しているようだ。

今後の為にも物陰に隠れこっそりと会話を聞く。


「手作りの不格好な矢だ、ニクス、これをどう思う」


「狙われたかと、犯人はわかっているのですか?」


仕留め損ねた時の話か。

手作りの矢は物的証拠として回収されているようだ。


「あの混ざりモノが素直に犯人なら話は早いが。

所詮子供、少々浅知恵過ぎるな」


「そうですね、怪しすぎて疑いたくなくなりますが」


「まあ、実際は犯人候補が多すぎて思いつかないがな」


ヤバイヤバイヤバイヤバイ、俺がやってるのがバレた。

俺が狙った事を恐らく確信している。

早く消すべきだ、考えろ、どうするかじゃない、どうやるかだ。


「イグニス様、そろそろ食事の準備をしますね、失礼致します」


危なかった、隠れて居なかったら見つかっていたかもしれない。

イグニスが一人だ、チャンスか?

今襲ったら、確実に疑われる、俺はまだ泳がされているんだ。

こうなったら口封じに毒を盛るしかないがどうするべきか。


与えられた客室に戻りソルビスに相談する事にした。


「お姉ちゃん、お酒はどうかな?」


確かにアルマとイグニスは大の酒好きだ。

この船の談話室にはイグニスのコレクションボトルが並ぶ。


「イグニスの趣味は蒸留酒収集だからもしかしたら飲むかも!」


「ちょっと盛ってくる」


談話室を覗くと誰も居なかった。

イグニスが食事中で不在なら丁度いい。

恐らく普段飲んでいるであろう開封済みの瓶の酒に毒を混ぜる。

適量なんてわからない直感だ、ついでにナイフにも毒を塗っておく。


身を隠せそうな場所を探す。

大きめのソファーの後ろは死角になりそうだ。

飲むかわからないが様子を見る事はできる。

実際に隠れて確認していたら入り口から誰かが扉を開ける音が2回した。

部屋に気配を感じる、恐らく二人だ。

コップを置く音と何かを注ぐ音がする、まさか飲むのか。


「だめだこれは味が違う、処分しておけニクス」


「承知しました」


扉がもう一度閉まる音がした。

この声はイグニス、もう一人はニクスと呼ばれた側近の女性で間違いないだろう。


イグニスは毒酒を飲みはしなかったが。

口に含んだのは確かだこれなら少しは効果があるかもしれない。

側近が退出した今が狙い目だろう、イグニスは一人になると頭を押さえた。

少し弱ってきたか、でも効きが甘い殺せる自信は無いがやるしかない。

後ろから不意打ちの形で首を狙ってナイフを突き刺す。


イグニスがこっちを見た。


「やはりお前か……」


空中に火の玉が出現する、イグニスの魔法だ。

俺の左側で炎が舞った、俺の顔は火に炙られる。

暑い、熱い、視界が真っ赤だ。

早く殺さなくては俺が焼き殺されてしまう。

思わず片目を閉じるが頬が(ただ)れて引き()る感覚が。

すぐに切り替わって鋭く刺すような痛みが目に突き刺ささる。


痛みが欲しい、感覚的な訴えが脳内で警鐘を鳴らした。

思わず火に顔を近づけたい衝動を抑えて。

振り払うように動こうと火の勢いは止まりそうにない。

至近距離に居る、イグニスにこの魔法の火は燃え移りはしないようだ。

火が消えるまで近距離、首狙いで切りつける。

毒が回ったのかふらつくイグニス。


血で赤く染まった服、隙間から覗くその首を。

執拗に刺す、動かなくなるまで。


魔力で(とも)された火は発動者の死と同時に鎮火した。

側近が戻って来るなら不意をつく必要がある。

目は痛むが俺は一度ソファーの後ろに隠れながら覗き見る。

早く、早くと待つ間、がどうしてこんなに楽しいのだろうか。

『アドレナリン増幅』スキルのせいだとわかっていても楽しい。

心臓の音の方が(うるさ)いくらいだが。


問題なく水を持って戻ってきた側近がイグニスが居る場所まで歩く音が聞こえる。

その後ろからソルビスが部屋に入ってきた。


「お水をお持ちしました、イグニス……様……」


イグニスを見て側近が顔色を変えた時。

ソルビスが扉を閉めた、この部屋が防音かはわからないが。

退路は断った。


目の前でナイフを取り出したソルビスから。

側近ニクスは距離をとろうとするが俺が透かさず脇腹にナイフを突き刺す。

ナイフには毒が塗ってあり、それは神経毒の一種だ。

イグニスよりも耐性がなかったのか。

痙攣、呼吸困難を引き起こして動かなくなるのが早い。


二人を倒し一息つくと、ソルビスが俺の顔半分を見て、取り乱した。


「ルナビスは、女の子なのに! 許せないよこんなこと」


イグニスの死体を一度、蹴りつけると。

俺の顔に手を添え丁寧に回復魔法をかけ続けた。

ソルビスが治療してくれたが左目があきそうにない。


「顔だから治したいのに、火傷じゃ治らない。

どうしよう、これ、ひどい、ひどいよ」


スキル『アドレナリン増幅』のせいか痛みが麻痺していてよくわからないが。

焼け爛れた顔は派手な傷跡になったようだ。


ソルビスは俺が持っていたナイフを側近ニクスの手の上に置き。

死体に酒をふりかけると火をつける。

服と肉が焼けていく、全焼する前にその火を消すと談話室の扉を開けて叫んだ。


「助けて、誰か来てください!」


計画的に叫んだソルビスの声に。

何があったとアルマとグラヴィスも俺達の下へと駆けつけた。


「イグニス様がこの女に襲われてたんです!」


ソルビスは焼け焦げた側近のニクスを犯人にしたてあげるつもりらしい。


「ルナビス、その顔は……?」


「ああ、その……。

最初、口論が聞こえて部屋に入ったら。

イグニス様、が襲われて、抵抗する為に炎で反撃してた。

この女の人が避けたら後ろに居た、私に……。

イグニス様、死んじゃった」


今俺は弓を持っていない。

とりあえず口裏を合わせる事にした。


「そうだったんだね……、ルナビスだけでも無事でよかったよ」


「どれ、見せてみろ、イグニスの火は、随分強力だな」


グラヴィスは俺の顎を掴み、傷跡をじっくり観察する。

見つめられているような距離の近さに気恥ずかしくて目が泳ぐ。

その後すぐに解放されたが。


「……アルマ、俺は魔法が使えないが加減できないものなのか?」


「んー? 子供じゃなきゃ平常時ならできるよ。

命の危機とかなら威力調整が狂うかもしれないけど」


死にかけなら無理はないとアルマは考えたようだ。

失うものは多かったがイグニスに殺されるよりはずっといい。


船の持ち主であるイグニスの死によって船内の全員が一か所に集められた。

俺たちの証言と状況証拠だけだったが。


「この女は前々から怪しいと思ってたのよ」


いつも後衛で魔法を使っていた女性が感情的に(わめ)いた。

側近のニクスに対して何か思う所があったのかもしれない。

犯人は俺だが。


「……彼女はこの旅の為に急に雇われた、確かに素性は知れない。

私は少なくとも口論をしてるところは見たことが無いが」


男は半信半疑だが無くもないと思っているようだ。


「悪く言うつもりはありませんが、主様は常に命を狙われていましたから」


護衛達の証言では元々側近は怪しく、イグニスは命を狙われていたか。

妙に側近のニクスが犯人という形で全員が動いている。

恐らく船内という狭い閉鎖空間だ。

心情的には他に犯人が居て欲しくないだけかもしれない。


一通りの話し合いが終り、火で焼かれている事。

手に持っていたナイフから犯人は側近という話になった。

左胸、内ポケットの空のナイフホルダーが決め手になったようだ。


「勇者様、これからの旅に、どうか我々も同行させて頂けませんか?

捻くれた方ではございましたが。

それも勇者として安寧を願っての事。

我々はその意思を継ごうと思います」


「わかったよ、一緒に行こう」


「少し考えたいことがある、俺は部屋に戻っても良いか?」


黙って聞いていたグラヴィスが部屋に戻りたい事をアルマに言った。


「うん、勿論いいよ、二人も今日は部屋で休んでおいで」


アルマは俺達も自由にして良いと判断したようだ。

グラヴィスは部屋に戻って行った。


「勇者様、私達は先に休ませてもらいますね」


「おやすみなさい、勇者様」


助かったからいいけれど側近ニクスが所持していた空のナイフホルダー。

元々持っていたナイフは何処に消えたんだ?


待てよ、そういえば水を持って来ていたな……。

調理室にナイフがあるかもしれない。

部屋に戻る前に俺達は船内備え付けの調理場に向かった。

台所の上には水が入った開封済みのボトルとナイフ。

側近の内ポケットにあったナイフホルダーのナイフはきっとこれだろう。

置いてあったナイフを頂いて俺とソルビスは二人で部屋に戻った。


「イグニスが死んだら給金が発生しないから。

雇われの護衛は居なくなると思ったが普通に同行してくるんだな」


「お姉ちゃん、誰が死んでも離反イベントなんてないよ。

魔王様を倒すまで一緒じゃない? ゲームだもん」


「そういうもんなのか、王様から支度金でも出てたのかな」


確かにきっかけになったユニットが死んでも連鎖して離脱なんて無いな。

ゲーム通りならそりゃそうなるか……。


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