第十四話「事故」
アルマが鎧を手に入れて次は剣だと意気込んだ後。
一度、王国レクスの王都に戻り王に報告と食料の調達をすることになった。
ついでに散財する事に決めたらしい。
滞在中の宿屋の食堂にはご馳走が並んでいた。
「今日はしっかり休んで明日は王様に会いに行くよ!」
「鎧の報告ですね!」
「うん、だから今日は奮発してご馳走を注文したんだ、皆で食べよう」
祝い事に並ぶ一般的な料理らしいがこれだけは馴染めそうにない。
大蛇の丸焼き、横にはご丁寧に剥がされた皮が飾られている。
魔除けとして綺麗な目の模様が特に貴重らしいが……。
ミノタウロスの串焼き、単体では美味しそうだが、横に飾られた頭部。
高い栄養価なのは間違いなさそうだがマンドラゴラの姿煮。
最後にこれは、なんだろう、わからない魚が出て来た。
毒々しい水色にピンクの線が入っている、身は薄いピンク色だ。
香辛料が贅沢に使われているのかそのまま食べるらしい。
しかも、生き造りなのか動いている、刺身なら恋しかったが。
この世界で生食する勇気が俺にはなかった。
どれも希少で高価らしいが食べたい見た目をしていない。
困ったのは魔物を食べる文化が人間側に普通にある。
知ってはいたが、二足歩行のモンスターも食べる範囲だ。
今まで食べてた干し肉は何の肉だったんだ、急に不安になってきた。
悩んでいると並んだ食事を俺以外の全員が食べはじめている。
植物ならマシかと思い一番手前にあったマンドラゴラを食べたが。
まずい、苦い、なんだこれは、食べられない。
「ルナビス、大丈夫? 無理しなくて良いからね」
「なにこえ、苦い、なんでこんなのあるの」
「うーん、力がつくとか、これを食べれば。
夜の勇者とか言われたから注文したんだよね」
絶対何か意味が違うだろそれ。
「アルマ、これは子供用じゃない、大人用だ」
「食べる薬は美味しくないです」
グラヴィスとソルビスも一口食べて気が付いたようだ。
「本当だ苦いね、残しても良いよ、僕が全部食べきるから」
「貴重な品だ、美味しくはないが、食べてやろう、美味しくはないが」
もう一口マンドラゴラを食べてグラヴィスが2回言った。
やっぱり美味しくないんじゃないか。
「お姉ちゃん、お肉は美味しいよ?」
「そっちにする」
味は牛肉だ、思ったよりも柔らかくて美味しい。
少しだけ辛い味付けが食欲をそそる。
飾られた頭部は見なかったことにしよう。
俺の食の進みが悪い事を考えてアルマが。
果物とクッキーを追加で注文してくれた。
今まで立ち寄った村での食事は香辛料が高価なせいか。
干し肉以外は食べても薄味が多かった。
その反動か前より甘いのが好きになった気がする。
濃厚な甘みの詰まった果実、サクサクしたクッキーの虜だ。
結局ソルビスと二人で全部食べてお腹いっぱいになった。
部屋に戻り手荷物の確認をする。
俺達の今の所持品は弓と矢、ナイフ、それから毒薬。
食料に混ぜるかナイフに付着させれば強力な攻撃になるが。
無差別に全員を狙うのはあからさま過ぎる。
ナイフも犯人捜しに発展するのがわかりきっていた。
原作の知識を使うなら。
主人公である勇者アルマだけは殺す訳にはいかない。
一番年若い5番目のコンコルディアは王が託す形でアルマと合流する。
ゲームの主人公様である勇者アルマの側に居れば。
単独行動大好きな他の勇者様達が、自然と全員集まる予定になっている。
「お姉ちゃん、今日がチャンスだと思う」
「何の?」
「2番目の勇者イグニスを殺す」
未来にも関与せず。
人外軽視のお貴族様に近い思想を持った金持ち商家の息子は要らないだろう。
イグニスだけは先に殺しておきたい。
雇われた8人の護衛が厄介だ、2番目の勇者様には消えて貰おう。
「詳しく教えてくれ」
「いいよ、それはね」
明日は鎧を手に入れた勇者が王に報告する予定だ。
本来なら同じ時間なんて奇跡はないが。
アルマが王に謁見するタイミングで。
ゲームなら一方その頃と主人公チェンジが入り。
前夜、王都に向かうイグニスが道中襲われるイベントが発生する。
つまり今夜は高確率で勇者イグニスが襲われた場所を。
通過する可能性が高いとソルビスは考えたようだ。
宿の窓から外へと出歩く、外に居る馬を一頭拝借して。
部屋にソルビスだけ残し。
万が一誰かに尋ねられたら俺は寝ていると証言して貰う事にした。
深夜から待ち、予想通り、俺はイグニスが乗っていそうな。
家紋が彫られた、物資を積んだ馬車の車輪を狙って弓を射る。
正直証拠が残るからやりたくないが。
速度のついた下り坂、横道に急な崖があるのはここしかない。
片輪が外れれば事故になるだろう。
勇者に見せた事は無かったが俺の目はかなり良い、遠距離も得意だ。
犯行がバレる訳にはいかない、矢だけは購入した物でなく自作したものになるが。
威力は十分だ。
馬車の重みに耐えきれず馬がバランスを崩す、落馬させることに成功したが。
馬から振り落とされたイグニスは、大怪我を負ったようだがまだ生きている。
少し計算が甘かったようだ。
仕方なく俺は馬に乗り急いで宿に戻る事にする。
なんとか夜明け前に帰還できた。
寝坊になるが今から寝てしまおう。
勇者装備が手に入り俺達が。
一番魔王を倒す勇者に近いと判断された。
王様と周囲の人間の掌返しが気持ち悪かったが。
『勇者の剣』を再度手に入れる為に動くことを伝えると。
仕留め損ねたイグニスが合流する事になった。
回復魔法があるせいで怪我も無さそうだ。
護衛の一人が見当たらないが、それ以外に被害はないように見える。
相変わらず俺達ハーフエルフに対する嫌悪の視線を感じる。
ただの人外敵視だと良いが俺を疑っているのか?
昨夜の出来事を俺達に話すつもりは無さそうだ。
少しだが戦力は減った、あの事故は無意味じゃないだろう。
今回は手作りの矢を使ったから。
矢自体から俺に疑いがかかる事は無いと思うが。
矛盾が無いように発言は気を付けるべきかもしれない。
何度も繰り返せば人為的だとバレる。
護衛が1人離脱しただけだが今回は仕方ないか。
間接的な行動は結果が不安定だ、今度は直接やろう。