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第十三話「伝説」


王国レクスは人間至上主義国家の割に。

魔物、人以外の種族は放置されている。

当然被害が出るのは魔物の巣穴に近い農民だ。

武装もしない訳じゃないが基本的には。

王の命令で派遣された勇者が討伐する事で解決する。

結果王への信がますます厚くなる。


この国の根源は魔王を倒せば全て解決するという話に帰結している為。

個々の魔物は放置だ、そのせいで。

勇者や兵が各地の魔物を退治する事になっている。


答えは簡単だ、魔物はその存在だけで人々の恨みを買ってくれ。

農民が領主や王に助けを申請するだけで金が動くから放置に十分旨味があった。

常に自分の安全だけは無条件に保障されている。

王都から動かない王からしてみれば場当たり的な対応で問題は無いのだ。


その負担は全て勇者が担う。

例えば今、宿を訪ねて来た女性のように。


「勇者様、ゴブリンから助けて頂けないでしょうか」


落ち着いた雰囲気の口元に黒子がある美しい女性だ。

アルマとグラヴィスの為に酒を2本持参している。

本人のというよりは恐らく村長の計らいでやってきたのだろう。

懐柔して出来るだけ長期的な滞在を望んでいる事はわかりきっていた。


一瞬だけ考えたが困っている人間は放っておけない性格のアルマと。

女性は無下にできないグラヴィスの返答なんてわかりきっていたが。


扱いはどう考えても便利屋だ。

ゴブリン自体は簡単だ、そもそも一過性で襲われるとわかりきってるから。

大多数は逃げるばかり、勇者が来るタイミングは引っ越し時だな程度。

例えば討伐出来ずとも追い払えば感謝される、これの繰り返し。


「ありがとうございます、勇者様がいなければどうなっていた事か」


そう言いながらも美女はグラヴィスにべったりだ。

アルマには効果が薄いと悟ったらしい。


そこそこ大きな村だ、困りごとは尽きなかった。


「アナタが勇者達なのねっ!」


斧を持った赤毛の勝気な少女。

ソルビスは知っていたらしい途中加入の追加NPCだ。

加入条件は忘れてしまったが登場はダンジョンであって。

こんな村ではない、しかも登場時よりも幼い気がすると言っていた。

10年以上は前の記憶だ、うろ覚えも多い。

この調子では5番目の勇者の登場は何年かかるのか。


「アタシは斧使いのカロル!

その旅ついて行ってあげる、アタシ強いのよ」


「ありがとう、でも僕達は今のままでも大丈夫だよ」


後衛なら欲しがるかもしれないが、アルマもグラヴィスも前衛。

彼女がついてきても今の動きに組み込めるかと言われれば微妙な話。

来るもの拒まずになるアルマも同行のお願いに二つ返事はしないようだ。

もしかしたらマグナの死を引きずっているのかもしれない。

仲間になられても困る、ついて来ないで欲しいな、最悪殺すか。


「私も今のままで良い、かな」


「わかったわ、アタシが女の子だから。

アナタ嫉妬してるのね!」


違う、そういう意味じゃない。


「ならせめてアタシの実力をテストして頂戴、村一番なのよ」


「俺も村一番だった」


グラヴィスお前は張り合うな。


「それでもダメなら諦めるわよ!」


カロルはやる気に溢れている。

グラヴィスも少し気になったのかそわそわし始めた時。

聞いていたアルマが動いた。


「そんなに言うならしよっか、テスト」


アルマが思ったより乗り気だ。


「まずは体力テスト、ここにある木の回り100週!」


目の前の木を指さして言ったが。

方法が思ったより古典的だな?


「はい!」


カロルは覚悟を決めたのか走り始める。


「王が決めた公的なテストにも採用された方法だよ。

君より幼かったルナビスとソルビスもクリアしたんだ。

完走できないと後で君が困るよ!」


うん、知らないな、替え玉試験だったからそれ俺達やってない。


「ね? 二人共」


「そ、そうだね、懐かしいなー」


「そうですよ! やって下さいね!」


これ俺達もバレないように話合わせないといけないじゃないか。

とんでもない所で嘘吐き大会がはじまったな。


「終わったら次はうさぎ跳び、20回!」


「はい!」


また地味に辛い奴だ、どんだけ足腰虐めたいんだ?

興味が無いのかソルビスは俺に寄りかかってきている。

退屈そうだが黙っていれば顔だけは可愛い。


「次! 僕を褒めて!」


「はい! 勇者は超キュート!」


これ必要ないな、私利私欲満たしてるだけだろ。


「うん、可愛いのは当然だけど僕が勇者だからって。

即、肯定しないでね、次は自主性を持ってね」


「わかったわ、でも可愛いと思うわよ」


「ありがとう、今度は魔法、放つから避けて」


「はい!」


アルマは自己肯定感の塊だな。


「すごいね、息切れしてない、僕ならするのに。

残りのテストは明日にしよう。

体調を整えるのも旅では重要だからね」


「わかったわ、明日ね!」


アルマの軽率な発言でこの村に明日も滞在する事が確定した。


翌日、アルマが全員を集める。

集合した場所には既にカロルが立っていた。


「おはよう、体調は良いかな?」


「ええ、おはよう! 問題ないわ!」


「じゃあ、いきなりだけど彼と戦って貰えるかな?」


アルマはグラヴィスと戦わせるつもりなのか。


「俺とか?」


グラヴィスは突然の事に驚いた様子だ。


「野営中は起きたらすぐ戦闘も避けられないからね。

傷跡が残るような怪我はさせないって僕は信じてる」


「そこまで言うなら戦ってやろう」


「アタシ、手加減なんていらないわ」


「体力があるのはわかったけど真剣はだめ。

君が彼と戦って本気を出させるくらいじゃないと僕は反対だよ」


そういうとアルマは木の棒を二人に投げた。

グラヴィスは難なくキャッチすると構えた。

カロルも足元に落ちた木の棒を慌てて拾う。


「勇者様が決めた事なら、私は何も」


「勇者様、治療は任せてくださいね」


俺達はアルマと同じ位置から観戦する事にした。


斧とは違うのか両手で構えるが少し動きがぎこちない。

木の棒は全力で当たればすぐに折れてしまうだろう。

グラヴィスは基本の型に沿って戦うつもりのようだ。


体格差のせいか互角には見えない、カロルの方が劣勢だ。

稽古のつもりなのかもしれないが、打ち合いはまだ続く。


少しずつ打ち込む力と速度があがっていく。

どこまでついていけるか計っているのだろう。


動きに追いつかずにグラヴィスの一撃がカロルの木の棒を打ち据えた。

木の棒から嫌な音がしたがまだ折れてはいない、戦意は削がれていないようだが。

一度攻撃を受けてからは当たる回数が明らかに増えている。

グラヴィスが何度か続けるとカロルの手から木の棒が弾き飛ばされた。

戦いは終わったらしい。


「そこまで、今はだめだよ、わかった?」


「ええ、そうね、アタシ、前衛として戦力が不足してたわ」


「強いとは思うよ、僕が勇者として村を出る前なら良いと思った。

でも、誰かが死ぬかもしれない旅なんだ。

だから君を連れていけない、ごめんね?」


決着はついたようだ。

勇者は最初からそのつもりだったのか慰めつつも断っている。

彼女は俺達に向かって宣言した。


「恋のライバルも仲間になる事も今回は諦めるわ!

アタシが大人になるまでに魔王を倒してなかったら。

もう一回立候補しにくるから、約束よ!」


俺がどっちも果たす気が無い約束を一方的に結んで。

彼女は嵐のように去って行った。


その夜、美女がお酒を持って二人の下へやってきたが。


「そろそろ魔王を倒す準備をしていかないとね、次の村に行こうか」


昼間の一件で思う所があったのだろう。

アルマは随分とあっさりしている。


「そうだな、俺達にはするべきことがあるからな。

すまないご婦人よ、このまま長居はできないんだ、どうかわかってくれ」


グラヴィスは想像以上に女に弱いな。

俺達は次の村に移動する事にした。


さっきの村と違って規模は小さいが。

子供は多い、勇者ごっこが流行っているのか木の棒を掲げている。

俺はその姿に木の棒を持ったアルマを思い出していた。


「本物の勇者様だ、かっこいい!」


今まで王都で疑われていたせいか、子供達に囲まれてアルマは嬉しそうだ。


「もしかして今の勇者様?

この村にも勇者様がいるよ」


「誰が居るのかな?」


「お婆ちゃん!」


他の勇者ではなく先代の勇者様がいるようだ。


「装備の話が聞けるかもしれない、寄ってみようか」


白い髪に三つ編みの老婆、彼女が先代の勇者様だろう。

突然の訪問にも関わらずアルマの鎧を見ると。

頬を緩め温かく俺達を出迎えてくれた。


「その鎧、懐かしいわ、私以外は痺れてしまって誰も持てなかったの。

今は貴方が着ているのね」


「勇者だった人が居ると聞きました、貴女が?」


「ええ、今は勇者も多くて驚いてるわ。

私の時代は一人でしたから、本当に懐かしい」


老婆の指先で電光が舞った。

魔力は健在だ。


「勇者の剣は東の山の洞窟、鎧は教会、篭手は不死者の神殿。

兜は大樹の森、盾は深海の地、靴は毒沼の湿地に。

封印してあったはずです」


「東の山の洞窟?」


「ええ、剣は東の山の洞窟で間違いないわ」


「もう一回行くべきだな」


「僕もそれを考えていたよ」


作中で登場する全ての勇者装備だ。

その場所を老婆は語る。

なんて余計な事を……。


「僕達は鎧を手に入れました、次は剣と篭手を、考えています」


「素敵ね、篭手は港町だから船を確保すると良いわ」


「ありがとうございます、僕は全て揃えて魔王に挑むつもりなんです」


「私は全部を集めなかった、魔王カルディアには挑めなかったのよ。

村の人を守るのに手いっぱいで、きっと今人数が多いのはそのせいね」


老婆は少し悲しそうに語った、自分を責めているのかもしれない。

確かに今回、勇者を選ぶ基準は引き下げられた。

この人のように本来なら雷魔法の適正だけで判断される。

それが勇者の剣が持てるかだけに変化した。

鎧がアルマしか装備できない。

これは本来の勇者はアルマだけの可能性があるな。


「ああ、ごめんなさい、話し込んでしまって、聞きたいことは聞けたかしら?」


「大丈夫です、僕は装備の話が聞きたかったので助かりました」


老婆の家を後にする。

視界の端で何かが動いた。


「この村に魔物?」


アルマは剣を構える。


「待って、殺さないで、お願い!」


少年が猫のような生き物の前に立つ。


「ごめんなさい、勇者様、魔物なのは知ってるの。

でも人を襲った事は無いんです、この子は僕の家族なんだ」


黒い毛並みの猫のような見た目だが額に赤い魔石が付いている。

記憶が間違ってなければ特徴から考えてもカーバンクルだ。

野生を忘れた愛玩動物のような振る舞いが少し気になるが。


「勇者様、敵意がないのならやめて欲しいです」


ソルビスが止めに入った。

俺もさすがに猫にしか見えない小動物を。

死体に変えるのは躊躇いがあった。


「大人しそうだね、やめておくよ」


アルマの判断基準は人に歯向かうかだな。

このカーバンクルは恐らく奇跡的に使役できてる。

少年に手を出さない方が良いだろう。

王都なら毛皮にされる未来がありそうだが。

今のところは問題なさそうだ。

王都から遠く離れて居れば。

魔物と人間が共存する場所もあるのかもしれない。


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