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第十一話「偽物」


俺達はアルマに引き連れられて。

イグニスがいる高級そうな宿屋に来た。

到着すると話声が聞こえる、どうやら取り込み中のようだ。


「調べた事をさっさと教えろ」


「いいよぉ、イグニスは相変わらずお堅いねぇ」


「ノヴァ!

名前で呼ぶなと言っただろ」


「ああ、イグニス今日は機嫌、わるーい。

短気は損気だよ?」


緑のローブに白い仮面を被った男は恐らく情報屋だろう。

男は友人なのか随分親しそうだノヴァと呼ばれていた。

2番目の勇者も名前はイグニスで間違いないようだ。


話は円滑に進み金を入れた袋を。

ノヴァに渡した。


「おい、この情報は俺が買ったものだが、お前達を試してやる。

本当に勇者なら勇者の剣くらい持ってこれるだろう?」


「持ってこれるに決まってるね、僕は勇者なんだよ?」


アルマは自信満々に答えて宿屋を後にした。


次の日、俺達はアルマと共に。

勇者の剣がある洞窟にやってきた。

俺達にとっては二度目だ。


馬車で通るには険しい獣道、全員徒歩で東の山の洞窟を探す。

外周を歩くと情報屋ノヴァから譲られた地図と同じ位置に確かに洞窟はあった。


全員で奥へ入ると侵入者を察知してか。

吸血蝙蝠が俺達の顔に飛び込んでくるが大したダメージにはならない。


俺が対処する前にアルマの魔法が蝙蝠に当たる。

焼け焦げた臭いが辺りに広がった。


洞窟自体は難しい構造じゃ無いが途中で分かれ道が何度かある。

俺達は正解を知っているが、間違っても特に指摘はしない。

アルマの判断力が削がれるのを期待しながら時間をかけてゆっくりと進む。


最奥の一歩手前、大きく動く魔物の気配があった。


「待って、勇者様、何かいる」


「まさかドラゴン?」


魔王様が勇者の妨害の為に。

通常よりも強い魔物を人の国に招いた。

『勇者の剣』を誰にも奪われないように守る。

この洞窟の主として我が物顔で住み着いたドレイクだ。


翼はドラゴンより一回り小さく飛行に適したタイプではないが。

見た目に反して俊敏に振り回される尻尾と吐き出される炎は非常に強力だ。

会話が成り立つ知性があるのは知ってるから心が痛むが。

戦わないわけにもいかない。


「この洞窟なら飛ぶ訳ないね、ただのトカゲだ、皆、やるよ!」


アルマは剣で首に傷をつけるが浅い、切断には至らなそうだ。


「精霊様、力をお貸しください、お守りください」


ソルビスは詠唱を続ける、精霊とコンタクトをとるために必要な事らしいが。

何を考えていても言葉と意味があってれば発動するらしい。

それでいいのか精霊様。


口を閉じた、炎を溜め込んでいるのか。

俺の矢も体に刺さりはするが大ダメージとは言えない。


ドレイクがアルマに向かって炎を勢いよく吹き付けたがグラヴィスが間に入ると。

勢いよく炎を叩ききった、剣が少し溶けているが。

無傷でやり過ごしたのは予想外だ。


「勇者様、戦士様、伏せて」


グラヴィスは良いが、長期戦でアルマと俺達が死ぬのは困る。

驚いて閉じてくれないかと期待しながら口の中に矢を放つ。

放った矢は矢じりだけは焼き崩れず、ドレイクの舌に突き刺さった。


耳をつんざくようなドレイクの絶叫が響く。

尻尾を振り回し、のたうち回っている。


「意外となんとかなるものだな」


「あーびっくりした、ありがとう」


アルマは魔法を剣に纏わせ殴る様に叩きつけ。

満身創痍になりながらもドレイクを殺すことに成功した。

尻尾が顔にあたったのかアルマは鼻血が垂れている。


「勇者様、今治しますね!」


ソルビスが回復魔法をかけるとアルマは治癒されたようだ。


ついに剣の場所に辿り着いたが。


当然そこに勇者の剣は無く台座の上には貧相な木の棒が1本。

壁には『俺が真の勇者だ』と乱雑に書かれた落書きがひとつ。


アルマは。


「これが勇者の剣……」


呟きながら一応木の棒を手に持ってみるが、誰がどうみても木の棒である。

少し尖ってはいるが、近くの壁にすら突き刺さらない。


希望が絶たれ。

絶望の表情を浮かべていた。


「うーん……勇者の剣には見えないや。

無駄足だったかな、一回街に戻ろう。

もしかしたら違う洞窟かもしれない」


この言葉で全員撤退する事になった、空気も重く士気は凄まじく低い……。


無言で帰り道を歩く中。

俺だけ違う事を考えていた。


だってそうだろ? こんなお粗末な小細工で諦めるなんて。

木の棒を持った勇者を見て、笑ってしまうのを抑えた。


先入観というのは最大の敵だったようだ。

木の棒が置かれており、落書きがあった。

その事実だけでここには無いと思い込んでしまうのだから。


少し想定とズレていたのは。

剣を持って行った奴が書いたと言うより。

最初から木の棒を誰かが置いて噂を流し。

来た人ををおちょくる為に落書きをしたように。

アルマは思ってるかもしれない所だ。


地面を落ち着いてじっくり見れば。

気がついたかも知れないが。

隠されている可能性を考えはしなかったようだ。


どうやら俺達はやり過ぎてしまったらしい。

魔王討伐フラグを徹底的に潰したからな。


現在勇者一行は木の棒を持ち帰ったせいで。

イグニスと信頼関係が結べなかったようだ。

こんなイベントは知らないが 勇者からしてみれば。

魔王討伐の為とは言え無駄足を踏みまくり。

更に仲間も失ったんだ心も荒む事だろう。

戦士と魔法使いのフラグの潰し方が少し強引だったか。

いや絶対、木の棒と化した勇者の剣だなそれ以外考えられない。


今の猫かぶりアルマにこの俺様系勇者は。

話が合わないってレベルじゃない程に不仲だ。


「お前達がしっかり探さなかったからだろ。

お前、持ち帰ったのが木の棒って何してるんだ」


「貰った情報通りの場所に行ったら。

勇者の剣じゃなくてそれがあったんだよ?」


「俺の友を疑うと言うのか!」


「そんな事は言ってないよね?」


「いいや言った!」


今回の剣の話はこの街で一番信用のおける。

情報屋であるノヴァから聞いた話だ。

そして激怒している理由はその情報屋が。

この暑苦しい勇者2号の友人だからだ。


正直二人の言い分は正しく。

実際、剣の情報に誤りは無かったが、嘘にしていったのは俺達だ。

全力で勘違いさせ拗れた言い争いは続く。

妹も珍しく、顔を青くしていた。


この酒場に来たのも実は5時間も前であり。

客も店主も最初は勇者達二人の言い争いを楽しそうにしていたが。

だんだん不穏な発言が多くなり、今は深刻な顔になっている。


言い争いは苛烈さを増していき。

イグニスに向かってアルマが雷魔法を撃とうとしたので。

俺と妹はグラヴィスを呼んで慌てて止める事にした。

今アルマに勇者をやめられるのは困る。


完全な酔っ払い二人も。

俺達が間に入れば魔力を抑えてくれるようだ。

急いで水を飲ませ、アルマを宿の部屋に叩き込む。


俺達も部屋に戻って作戦を練る事にした。

正直ゲームでは『勇者の剣』さえあれば。

魔王を討伐できるため隠したが。


妨害がうまく行き過ぎて。

王国でのアルマの立場が異常に悪くなってしまった。


剣は勇者にしか持てない、それが常識過ぎて。

持っていない勇者は本当に勇者なのかと。

懐疑的な目で見られてしまっている。


『勇者の鎧』もあるがただの防具だ、優先順位は低い。

だが勇者の証明として獲得に動くべきかもしれない。

明日からその方向で軌道修正してみよう。


この日初めて俺は勇者アルマの為に動く事にした。


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