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第十話「進言」


今回の旅の目的は、『勇者の剣』だ。


この剣はゲームでは勇者の魔王討伐が。

成功する時に使われる剣だ。


これは絶対に失敗させたい。

剣の場所はわかっている、まだ勇者アルマは知らないが。

村長が話していた、東の山の洞窟が正解だ。

安置されている剣は、重すぎて勇者にしか持てないと伝わっているが。


特定の人物にしか。

取り外せない品を俺は知っている。

俺達の腕についたこの認識阻害の腕輪だ。


同じ仕組みなのではないかと考えた。

先生は血に反応すると言ってはいたが。

この腕輪は恐らく魔力に反応している。


勇者の血は用意できないが。

髪の毛にも微量だが魔力は宿る。


もし勇者の剣も魔力だけで判断しているのだとすれば。

アルマの髪の毛を手袋に仕込んで触れば。

剣自体は動かせるんじゃないかと思った。

一日数十と抜ける髪の毛なら移動時でも。

野営の時でも探せば手に入る。


俺達は剣のすり替え作戦を考えたが。

ゲームでは『勇者の剣』と言う文字しか無く。

装備時のアイコンは他の剣と一緒だった為。

肝心の外見を知らなかった。

更に剣は鍛冶屋で購入が基本だ。

子供の姿をしたハーフエルフが身の丈に合わない。

大人用の剣を買いに行けば当然目立つ。


考えた結果ナイフで適当に削った。

木の棒を剣があった場所に置き。

ついでに木の実を潰して作った染料で。

壁に大きな文字で『俺が真の勇者だ』と。

適当な落書きをする事にした。


最後に偽の足跡を作る為に大人サイズの靴型と。

泥を作る為に土の入った袋を持ち込んだ。


大人用の靴も買いに行くなら不自然だが。

この世界の流行はブーツだ、それっぽく見える。

靴跡が作れていればそれで良い。

ぱっと見は丸く削った木板だ。

正直できは今一だが 飲み水と土で作った。

泥でそれっぽくなるだろう。


剣は本来強制入手イベントだ。

アルマ達の隙を狙って入れ替えるのは難易度は高いが。

ここを完全に阻止できれば、勇者が勝つ未来は潰すことができる。


チャンスは思いの他早くやって来た。

勇者達が街で情報屋の紹介を受けている間に。

俺はアルマにソルビスと二人で。

王都の武器屋で武器を買い替えたいと言った。


実際に身長が伸びている、俺達は今、武器のサイズがあっていない。

正直、今のままでも支障は無いが。

武器は命に関わる事だ、買い換えたいと言えばすぐに許可が下りた。

試し打ちもしたいから山に行ってから、帰る事を伝えると心配されたが。

ソルビスと一緒なら……と渋々承諾された。


アルマには朝早くに出かける事を告げ。

王都にある武器屋で弓と矢は素早く目についた物を購入する。

目的の東の山の洞窟は近いとは言え移動だけでも。

ここから馬車で片道3時間くらいはかかる。

ゆっくりしてはいられない。


「息災か、ルナビス、ソルビスよ」


振り返ると魔王カルディア様が居た。

どうやらお忍びで変装して来たようだが。

警護対象が移動するとかどんな悪夢だ。

出来れば魔王城から出ないで欲しかった。

俺が知らないうちに魔王様の方が暗殺されてましたは笑えない。


「あ、あのカルディア様本日はどういったご用件で」


「そう畏まらなくても良い、もっと気楽に、フレンドリーで構わない。

王国で何が起きているのか私に聞かせてくれないか?」


「特に魔族が何かしたとかは聞いてないです。

王国が一方的に魔族を敵視しているのだと思われます」


「はい! はい! そもそも王国の魔族軽視が問題になっているのです。

魔王様が人間と結婚して和平条約を結ぶのはどうでしょうか?

こちらが人相と心証を書き連ねたお見合いリストです!」


俺の心配を余所にソルビスは元気良く答えている。

魔王様の前なんだから少しは畏まってくれ。

カルディア様に差し出したお見合いリストは。

どう見ても王国の大臣から渡された勇者リストだった。

合流できるように絵姿が添えられている資料だ。

結婚エンドの為とは言え直接アピールにも程がある。


「どれ見てみよう、ほうこれはなかなか……美形揃いで良いではないか」


嘘だろ、カルディア様、食いついちゃった。


「一人目、農村出身アルマ、好きな食べ物は甘い物。

可愛いらしい顔に見合った好みだな、何々?

ただし性格に難あり、自己愛が強すぎる一面も有る。

幼少期は人が苦痛に苦しむ姿が一番の娯楽であった為。

毒草の収集と栽培を好むようになり。

それが回復魔法を使うきっかけになった……と。

災い転じてという奴か……ふむ、論外だな」


当然事前調査は細かく嘘偽り無く書いてある。

王国の勇者選定リストの完成度は完璧だが。

お見合い相手としては最低過ぎる。


「二人目、商家出身イグニス。

好きなものは香辛料を使ったソテー。

中々クールでインテリな感じではないか。

炎魔法の才能は王国で一番秀でているが。

思い込みが激しく融通が利かない。

感情が高ぶると魔力暴走を起こす欠点がある。

幼少期には自分の家を全焼させた為注意が必要。

趣味は良いお酒を集める事、燃料収集が趣味か」


暴走についての注意事項しか書かれていない。

人相以外使えないリストだ。

カルディア様は次の内容を読み始めた。


「三人目、聖王国教会のフォンス。

この出で立ちは好みとは程遠いな。

味覚が無い為、例え雑草でも。

好き嫌いなく食べる、好き嫌い以前の問題だと思うがな。

単独行動が絶えず協調性は皆無。

放浪癖があり教会では3日に1度は姿を消す事がある。

とても気まぐれでギャンブルを好む性格。

趣味は毒沼に浸ること、それは趣味でいいのか?」


表情を見るに芳しくない、微妙かも知れない。


「四人目、代々続く騎士の家柄オルド。

好きな食べ物は氷。

氷か……氷術師が居なければ手に入らぬから。

ご馳走ではあるが変わった好みだな?

儀礼通りの動きが出来る為騎士としては優秀。

物腰が上品で穏やかな性格。

毎日鍛錬と瞑想をこなし、欠点は特になしか。

顔も綺麗だし性格もさっきよりはまともだな。

中身は面白みのない地味な感じがするのう」


一通り読み終え目を覆い一言発した。


「読み物としては面白かったが全員好みではなかったな」


ですよね、俺も無理だと思いました。


「中々個性派揃いを選んだのですがダメでしたか……」


「そんなに落ち込むでない、色々考えてくれたのだろう?

私はその気持ちだけで嬉しいものだ」


「じゃあ次の勇者も紹介しますね!」


「ああ、頼む……ん? 勇者だと?」


「当然です平和を願うなら結婚には勇者が一番ですよ!」


「そ、そうかあの顔以外酷いのが勇者達か……」


魔王様の勇者のイメージが完全に顔だけ男になっているが。

事実だから何も言えない、5人目はまともだと信じよう。


魔王カルディア様と別れてからは急いで。

東の山へ向かい、剣の洞窟に入る。

分かれ道や行き止まりもあるが。

覚えてる最短ルートで駆け抜け。

その周辺をナワバリにしている知恵のある魔物と魔族には。

今回は魔王様の名前を出して退いて貰う。

俺達二人は剣が保管されている台座までたどり着けた。


足跡を残さない為に足に木の板を括りつける。

これで俺達の靴跡は残らないだろう。


剣を用意した手袋で掴む。

特に抵抗も無く簡単に取れてしまった。

魔力に反応する説はあっていそうだ。

空になった台座には代わりに木の棒を置いておこう。

頑張るんだぞ、俺が作った勇者の剣。

きっとゴブリンも倒せないと思うけどな。

壁には妹と一緒に。

『俺が真の勇者だ』と書き崩した文字で落書きをして準備完了。

床が土だった為 靴跡は木の板で付くが泥は不要になった。 


誤算だったのは肝心の剣を隠す場所が無かった事だ。

動かぬ証拠になっても困るので持ち帰る事もできず。

仕方なく台座の後ろ側に置いて。

土をかけて埋めておいた。

偽装は不完全だがやらないよりはマシだろう。


手先が冷くなるが手袋は弓を使いにくい気がする。

落ち着かなくて手袋を外すとソルビスは俺の手を掴んだ。


「いつも温かいな」


「お姉ちゃんの体温が低いんだよ」


向かい合う形で両手を握る。


「もう十分じゃないか」


「まだ、だめ、お姉ちゃんの手が冷たいのが悪いの」


「ソルビス、待った、なんか距離近くないか」


「双子の姉妹なんだよこれくらい普通だって」


「そういうもん……なのか?」


「そうそう、減るもんじゃ無いし」


「色々すり減る気がするんだが、精神的なものが」


「気のせい気のせい」


絶対嘘だろ。

そういうソルビスの目は獲物を狩る目に似ている気がした。

若干呼吸も荒い、放置するのは身の危険を感じる。


「いや、近い!」


「このくらい女の子同士なら普通の距離だよ!

写真とかで肩を寄せ合ってるでしょ?」


「ああ……SNSとかでよく見るやつか、同じ写真のはずなのに。

見比べると本当は画像加工で時空が歪むアレだろ?」


「アッ……女の子の闇を語らないでお姉ちゃん」


何かトラウマがあったのか微妙に言動が変だ。

……ソルビスが変なのはいつもの事だったか。

あまり長時間ここに留まる訳にもいかない。


「ソルビス、時間も無い、もう行こう」


「そうだね、移動しよっか」


ついでに山にいるウサギを2羽狩る。

下手に血抜きをして狼を呼び寄せたくないので。

皮袋に入れ妹と二人で早々に立ち去る事にした。

一番近場の村へ行き、待機させていた馬車に乗り込んだ。

せっかく狩ったアルマ達へのお土産だ。

鮮度が落ちない内に帰ろう、コレが美味しいと良いが。


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