同志との邂逅
今日もなんでもない一日を過ごしていた直樹だったが、視界の端に見たことのないものをとらえた。
人外の姿になっているときは、動体視力も上がっているため、それをとらえることができた。
普段見ているものとは違うものに、ある予感を覚えた直樹は、その影を負った。
路地裏の先にいたのは、猫が数匹と、猫の頭を持つ人外の姿だった。
にゃーにゃーと鳴き声が聞こえる様子から、どうやら猫と話しているようだった。
これは不思議だが面白い光景だなと直樹は思った。
人外頭の姿の人にいつかは出会えるだろうと思っていたが、まさかこんな面白い光景でとは思ってもみなかった。
人外の姿は、頭の形によって能力が違うようで、彼(後ろ姿からの推定だが)は猫の頭を持ったことで、猫と会話できるようになっているようだった。
直樹は思わず、その光景を写真に収めた。
カシャとなった瞬間、猫の彼は驚き振り返った。
「誰っ!?」
その動きに驚いたのか、猫たちは走って逃げて行ってしまった。
「ご、ごめん。驚かせる気はなかったんだ。ただ、面白い光景だったから撮りたくなって…。」
直樹は正直に話したが、相手の彼は固まったまま動かなくなっていた。
どうやら、直樹の姿に驚き、言葉が出ないようだった。
「あ、あのぉ、たぶん僕と同じで何かをすごく好きなんだよね?だから、その、猫の頭を君は持ってるんだと思うんだけど…。」
続けて直樹の放った言葉に、彼はようやく状況を理解したのか、叫んだ。
「が、額縁がしゃべってる!?いや、それよりも、俺の姿が見えてるの!?」
彼は直樹の言葉はどうやら頭に入ってこなかったらしく、直樹の姿と自分が見えるという状況に驚いているようだった。
「そうだよ。たぶん、僕も君と同じ、いつの間にかこの額縁の頭の姿になれるようになったんだ。君もそうだろ?」
「う、うん。そっか、同じような人がいることなんて考えてもみなかったや。俺は猫が大好きで、猫と話してみたいと思っていたら、いつの間にかこの姿になれるようになったんだ。」
「僕もそうだよ。日常の風景や、何気ないものが大好きでそれを写真に収めたり、ものを集めたりしていたら、この頭になったんだ。」
直樹と少年は互いのことを話し、どうしてこの姿を持ったのか理由を探った。
「やっぱり、君も気づいたらなってたんだね。」
「そうなんだ。君もそういう認識なら、どうやってこの姿になったのかの解明はできなさそうだな…。あ、名乗ってなかったね、僕の名前は佐藤直樹。よろしく。」
「あ、ごめん、聞きたいことばっかり聞いちゃって。俺は猫田祐。こちらこそよろしく。」
二人は名乗りあい、握手をした。
人外同士が握手をするという不思議な光景がそこにはできていた。
「ねえ、よかったらでいいんだけど、記念に写真を撮ってもいい?」
「い、いいけど、どうやって?俺たちスマホも持ってないし、撮れるものがないだろ?」
「多分だけど、僕の能力で写真撮影ができるから、撮ってみようよ。」
「そういうことならいいぜ!撮ろう撮ろう!」
直樹は祐に近づくと、目の前に両手で四角を作った。
その四角の中に直樹と祐の姿が映し出される。
まるで、その手の中がスマホの自撮りをしているときの画面のようだった。
「すごいな!まるで手がスマホのカメラみたいだ!」
「へへっ、すごいだろ。それじゃあ撮るよ。はい、チーズ!」
カシャリ
「はい、撮れた。」
直樹の手の中には、二人の人外頭の姿が映った画像が残っていた。
「すごいな、これ。俺たちって写真とかにも写らないのに、これだと映るんだ…。」
「すごいでしょ、この写真後で送ってあげるよ。」
「マジで!?あ、じゃあ連絡先交換しようぜ。」
「いいよ。」
そう言うと、二人は元の姿に戻り、スマホで連絡先の交換を行い、先ほど撮った写真を後で送ることとなった。
「ねえ、祐って呼んでもいいかな?」
「もちろん。俺も直樹って呼ばせてもらうよ。」
「祐。また明日もあってくれる?」
「いいぜ!じゃあ、ここから近くに公園があるの知ってるか?」
「うん、菜の花公園でしょ?」
「そこで明日から待合せな!あそこはいい猫のたまり場になってんだ。猫と話して待ってるよ。直樹はこことは反対側にある高校だろ、その制服からして。」
「そうだね、ちょっと遠いかな。」
「よくここに来たよな。」
「身体能力的には、問題のない範囲だから、結構ここら辺も学校終わりは歩いてるよ。」
「マジか。俺も結構ここら辺あの姿で歩いてたのに気づかないもんだなぁ。」
「まあ、今日あったのも偶然だからね。」
「それもそっか。あんな人外の姿持ってるやつのほうが珍しいか。」
「じゃあ、僕はそろそろ家に帰るよ。」
「おう、また明日な!」
「うん、また明日。」
直樹は人外の姿になると、屋根を伝って家の方へ飛んで行った。
「すっげー、あんなこともできるのか。俺、猫としゃべることしかしてなかったから知らなかったなぁ。明日から教えてもらうか。」
そう呟き、直樹の姿を見送っていた祐も自宅へ帰っていった。