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38・君に会いに ①

 一晩中、馬を走らせた。


 プラント領に行く事は諦めていたけど、兄上達の計らいで約束を果たすことができる。


 それなら、稲刈りを一人でさせてしまうような事など絶対にしたくなかったし、早くニアに会いたかった。


 朝まで待ちきれずに、夜中に出立すると言ったのに、誰一人嫌な顔をせずについて来てくれたし、ネイサンに至っては『朝の出立は、団長に知られたら大変な事になって、出立がますます遅くなるかも知れないから、早く行きましょう!』と、こっちが急かされたくらいだ。


 ネイサンの言葉に甘えて夜通し走り続けたけど、そろそろ朝ごはんの時間だし、みんなもアデル達も休ませないと。

まだ四分の一も進んでいない事に焦れながらも、小川のほとりで一休みする事にする。


 虫が知らせたのか……夜遅い時間だったのにも関わらず、出掛けにクラウド殿がおにぎりを持たせてくれたので、朝ごはんの心配はない。


「みんな、疲れていないか? 今晩は、早めにホテルに入って──」

「おいおい、ホテルだと? 何を悠長な事言ってんだ。時間がもったいないだろ? 野宿でいいさ」


 たったの五日でセルバーンとプラントを往復しなければならない強行軍だ。せめて今晩くらいは、と思っての事だったが、


「エルトナの言う通りです。それに、疲れてなどいませんよ……あのドリンクは、本当に恐ろしいほどよく効きますから。クラウド殿達は殆ど寝ていないでしょう? お腹も空かないなんて、不思議でなりません」


 ネイサンまで野宿でいいと言う。


「じゃあ、ネイサンのおにぎりは僕が食べてあげる!」

「あっ、こら! お腹は空いてないけど食べられますよ。ドリンクだけじゃ味気ないんですから」


 お腹は空かない、眠らなくても平気……もう、このドリンクさえあれば生きていけるんじゃないか? 副作用は本当にないのか? 不安になってきたぞ。


「俺達は、これさえあれば野宿も必要ないくらいなんだけどな。馬達を休ませないといけないからな」

「あっ、そうだ。アデル達用のドリンクもクラウド殿から貰ったんだった」


 気が急いていて、うっかりしていた。


「おお、それじゃあ、すぐに飲ませようぜ」

「いや、今は駄目なんだ。真夜中に人気のない森の中で飲ませるようにと言われてるんだ。そうでないと大変な事になるって……」


 あれ? 大変な事って……アデルに飲ませても大丈夫なのか?


「アデルと、ネイサンと俺の馬は危険に晒せないから、クルスの馬で様子を見る事にしようぜ」


 俺の不安を察知したのか、エルトナが直ぐに提案してきた。


「そうですね。いざという時には、エルトナと私がいれば殿下をお守りできますから」

「ちょっと、何を言ってるのさ! こんなハードな旅にこそ、お笑い要員は必要なんだよ、分かってるの?」


 …………自分の役割を認識していたとは、驚きだ…………



 ◇◇◇



 セルバーンを立ってから丸一日が経った深夜、四人と四頭は深い森の中にいた。


「ね、ねぇ、大丈夫かなぁ、こんな所で初めての物を飲ませて。も、もしもだよ? 強力な睡眠薬だったりしたら、僕達ここから出られなくなっちゃうよ。そそ、それより、ドラゴンみたいな怪物に変身したりしたら……ややや、やめよう、ね? 危ないよ!」


 クラウド殿が俺達を害するなんて……今更考えられないが、焦っていたのもあって、ただの馬用ドリンクだと思い深く考えなかった。


 何故、真夜中に人気のない森の中なのか……聞いておけばよかった。と後悔してももう遅い。

 どうする? こんな事を考える時間さえ惜しいのに。


 自分の失態に苛立ち始めた俺の横で、ドカッ、ドカッ! と、アデルが地面を蹴った。


 落ち着かせる為に首を撫でようとして──アデルの大きくて綺麗な目がキラキラ輝きながら、俺が持つドリンクを見つめているのに気付く。


「……アデル、これを飲みたいのか?」


 ブルン、ブルンと首を縦に振るアデルに躊躇うも……アデルの煌めく瞳を見てハッ! とした。


 アデルのその瞳の中に、ニアの笑顔が浮かんだような気がしたから。


 迷いは吹き飛んだ。

素早くドリンクのフタを開けて、アデルに咥えさせる。


「アズナイル!」


 エルトナが叫ぶが、もう遅い。

アデルは、それを器用に咥えたまま頭を振り上げ一気に飲み干した。


 頭を下げたアデルから空になった瓶を受け取り、固唾を呑んで見守る。


 鼻頭が、地面にくっつきそうになるくらいにまで更に頭を下げたアデルが、ドカッ! ドカッ! と土をえぐる。


「わわわっ、ヤバイよ、アズナイル!」

「殿下! 下がってください、危険です!」

「大丈夫だ!」


 クルスとネイサンが叫んで、エルトナが俺を庇うように前に出たが、俺には分かる。アデルは喜んでいる。


 もう二、三度、足元をえぐったあと、アデルの体がグッと引き締まった──次の瞬間──アデルの体には、真っ白に光り輝く翼が生えていた。


 両脚を高く振り上げて嘶くアデルに、言葉も出ない俺達とは違い、今まで一緒になって驚いていたはずの他の馬達が、俺達にも飲ませろ! と、ドカドカ騒ぎ出した。


 あっという間に、翼をバサバサと羽ばたかせる四頭の天馬に変身したアデル達。

思いもよらない展開に全くついていけず、口をパクパクさせている四人の男達。


 いつまで経っても、ただただ驚いているだけの男達に、アデルはキラキラと輝いていた瞳を呆れた色に変えると──ドガッ! と一際強く地面に蹴りを入れた。

 

 その音にハッ! と我に返る。


 乗らないなら置いていくわよ! と言いたげに、バッサバッサと翼を上下に大きく羽ばたかせ始めたアデルに慌てて飛び乗る。


 俺が背に乗るやいなやアデルは駆け出し、障害物を飛び越えるように力強く地を蹴ると、今度は瞬く間に空へと駆け上がっていく。


 振り返ると、エルトナ達も慌てて天馬に飛び乗っているのが見えた。


 直に追いつくだろう。


 暫くは、後ろにずり落ちないように前傾姿勢で手綱を握りしめ、周りを見る余裕などなかったが、顔に吹き付ける風がほんの少しだけひんやりと感じられるようになった頃には、まっすぐに背を伸ばして座る事ができた。



 ◇◇◇



 追いついたクルスが興奮して叫んでいる。


「アズナイル、すごいよ、僕達、空を飛んでるよ! 見て、家があんなに小さく見える。すごい、すご──わっ、わわわっ!」

「クルス……少し落ち着け。落ちたら一溜まりもないぞ」


 ドラゴンだなんだと騒いでた割には、一番喜んでいるクルスに笑いが漏れる。


 ドラゴンじゃなくて良かったが、天馬でも十分目立つ。

だから深夜の森の中だったのか。


 クルスが騒ぐのも見越していたのか──そんな訳はないな。


「そうだ! 戻ったらノリスに自慢してやろう。悔しがるだろうなぁ。ふふふ、楽しみ〜」

「……殿下、天馬の事は私達だけの秘密にしておきましょう」

「ええっ、なんで? 自慢しちゃおうよぉ、こんなチャンス滅多にないんだから!」


 クルスの小さな(日頃の)仕返し計画は無視して、首を傾けネイサンに真意を問う。


「ノリス様の耳に入れば、必ず団長の耳にも入ります。それによって何が起こるかなど……恐ろしくて、考えたくもありません。もう既に虎の尾を踏んでいるのに、脚まで踏んだりしたら……」


 ネイサンが青い顔をしてブルリと震える。

ちらりと見えたエルトナの顔色もよくない。


 ……ザード、お前は虎だったのか。部下になめられてはいけないが、理由が小さい、小さ過ぎるぞザード。


「なんだぁ、ザード絡みか〜。だったら僕は関係ないや。ネイサンとエルトナ頑張っ──」

「甘いなクルス。連帯責任という言葉を知らんのか? 殿下もお前も、特訓と称した八つ当たりに延々と付き合わされることになるぞ」


 何っ! 俺も? ネイサンが神妙な顔をして頷いている。


「クルス、これは命令だ。絶っ対に天馬の事を他言してはならない」

「そうだぞ。破ったら罰として、三ヶ月間執務室の掃除を一人でしてもらうからな」


 何だよそれ! どうしてみんな罰っていうとすぐに掃除って言うのさぁ、と空の上でも相変わらずじゃれ合う二人は放っておく。


「それにしても、ネイサンは大人の余裕だな。自分の馬が天馬になろうが、それで空を飛ぼうが顔色一つ変えないもんな」


 ノリスが残ってネイサンが共に来てくれた事は、反って良かったのかも知れない。


「いいえ、これは余裕ではなくて……何というか『プラント』が関わるものは深く考えたら負けというか、無駄というか。いつも想像を軽く超えてきますから。ただ、流されているだけです。護衛騎士失格ですね、申し訳ありません」


 深く考えたら負け──か。セス兄上も同じ事を言っていたな。


「いや、気持ちは分かる……ハハッ、そう言えばレグルス兄上は、クラウド達は人かどうかと怪しんでいたな」

「レグルス殿下もですか? それなら、私も職を失わずに済みそうですね」


 ホッとしたように笑うネイサンに苦笑する。

 迷いの森からして普通じゃないのだから、ネイサンの言うように流されるしかないのだ。


 それに、本当に護衛騎士として失格なら、一年前にあの森を抜ける事などできなかっただろう。


「プラントの奇跡と天馬のお陰で、かなり早く着きそうですね」

「そうだな……せめて、日のあるうちに着けるといいな」




 なんて……はっきり言って、天馬をなめていた。なめ過ぎていた。



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