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34・大魔王再来 ②

 大魔王バースは部屋に入ったきり出てこない。どうしたものかと考えていると大きな声が響いた。


「そこにいるのは誰だ! 王宮の、しかも王の寝室に忍び込むとはいい度胸だ! ルシファード王国騎士団団長オーウェルが相手になってやる! 出て来い! 大人しく出てくれば命だけは残してやるぞ!」


(ゲッ! 本当に来た。……まさか聞こえたのか?……って……えっ!? 今、陛下の寝室って言ったか!?)

(言ったな。そもそもここに来るには父上の寝室を通るしか道がない)

(!!……終わった。……俺の人生……短かったな。……クルスを頼んだぞ)

(落ち着け! これは不可抗力だ!)


 エルトナらしくない。ドリンクのせいか? などと呑気に考えている場合じゃなかった。


「何をコソコソ言っておる! 出て来ないのなら命の保証はないからな! いくぞ!!」

「待て! オーウェル! 私だ! アズナイルだ!」

「殿下の名を騙るとは! どうやらしに──」

「オーウェル! あれはアズナイルの声だ! 間違いない!」


 父上の声も聞こえてきて安堵したが──


「陛下、アズナイル殿下はセリオス殿下とボルトナーの邸にいるはずです。帰城の報告は受けておりませんぞ!」

「わしが息子の声を聞き間違えるはずはないが……。そうだ! いい考えがある! アズナイーール! 先日わしが言ったことを覚えているか? お前はわしみたいな○○○になると言ったぞ! お前が本物なら分かるはずだ! 答えてみよ!」


 ──クッ……よりによって、何でそんな恥ずかしい質問なんだ!!

他にあるだろ!


(おい……早く答えろよ。うちの親父は気が短いぞ? 知っているだろう?)


 十分過ぎるくらい知っているが……答えたくない事もあるんだよ!


「どうした? 分からぬのか? 妻と離縁するつもりはない! と言っておったではないか」

「……さ……か……」

「何だ!? 聞こえぬぞ! もっと大きな声を出さんか!」

「陛下! やはり偽物です! 火炎部隊前に出ろ! 今から──」

「愛・妻・家! になると言いましたぁぁぁーーー!!」


((わぁぁー……陛下……いくら何でもその質問は……殿下がかわいそぉー……))


「……ホォォ〜オ……」


 ハッ! として振り返ると同時に、ドォーーンという音より速く吹き飛ばされた。

 気付けばエルトナと二人、驚き過ぎて魂が抜けたような顔をして俺達を見下ろしている父上とオーウェルの足元に転がっていた。


「なっ!? ア、アズナイル殿下に……エ、エルトナ!? 一体どうし──貴様! 何者だ! どうやって中に入った!!」


 魂が抜けたような顔から一転、いち早く体制を立て直したオーウェルが俺達の前に躍り出て剣を構える。


 爆音の割にはダメージが少なかった体を起こし、エルトナもすぐに剣を構えオーウェルの横に並び立つ。──が、薄っすらと青白い炎を纏い、鋭く冷たい目をしたバースに一歩も動けない。


「殿下、知りませんでしたよ? 既にあなたには、将来を約束された方がいたのですね? 婚約者候補がいるだけだとばかり……騙されるところでした」

「な、なんの話だ? アズナイル? お前には、もうそんな相手がいたのか?」

「陛下! 今はそんな話より、こいつを捕らえる方が先決です!」


 父上とオーウェル。他にも大勢いる騎士達には目もくれず、突き刺すような冷たい視線を真っ直ぐに俺だけに向けているバース。


 騙される? 意味が分からないが、どうやら標的は俺のようだ。


「そんな約束をした者はいない!……今は…まだ…」

「妻と離縁するつもりはない、と言われたのでしょう?」

「それは!……私はこの国の王子です。いずれ誰かと婚姻を結ばなくてはなりません。私は一度縁を結んだ相手とは『何があっても離縁するつもりない』のだという意思表明をしただけです」


 バースの目を真っ直ぐに見返し、いつかサーフィニア嬢に告げたい想いを言葉にのせた。一度も逸らされることのない鋭い目は、探るようにじっと俺を見ている。


「何があっても、ですか……。どうやら私の思い違いだったようですね。申し訳ありませんでした」


 頭を下げられてホッとしたが、無視された上に、多分俺以上に意味が分からず混乱やら怒りやらで今にも暴れだしそうなオーウェルを見て、どう説明したものかと悩む。


 あっ! それより肖像画はどうだったのだろう? 悪いがオーウェルは後回しだ!


「バース殿、肖像画はどうでしたか?」

「何っ!? 肖像画だと!? あの部屋に入ったのか!……いやいや、それはないか」

「入りましたよ。ですが、聞いていた通り上半身は分かりませんでした」

「はっ? ハ、ハハッ……まさか、あり得ん! 聞いた通りのことを話しているだけだろう?」


 呆れたように笑う父上に向かって、バースがピンッ! と指で弾いて寄こした物を、父上に届く前にオーウェルが素早くキャッチした。


「貴様! 陛下に向かって物を投げるとは!」


 怒りに任せてオーウェルが投げ返そうとしたそれがキラリと光る。


「待て! オーウェル! それを見せるのだ!」


 父上が慌てた様子でオーウェルの腕を掴んだ。

オーウェルが渋々と父上に渡したキラキラ光るそれは……まさか──


「こ、これは! 肖像画の……スフェーンか!?」

「指先に全力を込めても、たった一粒しか取れませんでした。あれを全部取ろうとしても、こちらが先に参ってしまうだけでしょう。残念ですが肖像画は諦めます。今回は話を聞けただけでもよしとします」


 随分とあっさりしている。

俺達はバースが国王だけしか入れない部屋に入り、スフェーンをたった一粒だけでも取った事実に驚愕しているというのに。


「何がよしとしますだ! 貴様は不法侵入及び傷害未遂の現行犯だ! 今から騎士団本部でじっくり時間をかけて取り調べてやるからな!!」


 オーウェルに至っては、怒りも頂点に達している。


「……アズナイル殿下に案内してもらったのに不法侵入……と言うのなら、あなたの息子もそうなりますよ? 傷害未遂と言ったって──あっ! お嬢様が捜しています! 帰らなくては! あとは二人に聞いてください。では──あぁ、殿下。クリスの手紙は暫く預かるとクルス殿に伝えてください。では」

「おい! 待て──」


 話の途中なのに、言いたいことだけを言ったバースは一瞬で目の前から消えた。


「「「「…………」」」」


「……アズナイルよ。あれは人間か? それとも神──悪魔なのか? お前は悪魔と知り合いなのか?」

「彼とは今日初めて会いました。……人…かどうかは分かりませんが、少なくとも彼から邪気の様なものは感じられませんでした。……オーウェルはどうだ? 何か感じたか?」


 近隣諸国においても、オーウェルほど腕の立つ男はいないと言われているほどの剣豪だ。相手の力量など一瞬で感じ取る事ができる。


「……残念なことに、全く感じませんでした。しかし! だからと言って許せる訳がありません! 奴を捕まえて厳罰に処すべきです!」

「だが、どこの誰かも分からず、一瞬のうちに現れたり消えたりする者をどうやって捕まえるんだ?」

「しかも、私達二人を連れてですよ? 常識的に考えても捕まえるのは無理でしょう? 騎士団団長」


 ……エルトナ、そんな言い方をしたら火に油を注ぐことになるぞ?


「エルトナ! お前は何故ここにいるんだ! ボルトナー伯爵の邸に行ったんじゃなかったのか!」


 ほらな……。


「……父──騎士団団長。言葉が足りなかった事は謝りますが、私の話を聞いておられましたか? 殿下と私はボルトナーの邸でクルスに付き添っていた所、殿下がバースに連れ去られそうになったので阻止しようとしたらいつの間にかここにいたのです」


 うん。まだまだ言葉足らずの気がするのは……俺だけか?


「では奴は、以前にもここまで侵入した事があるということか? いくら転移が得意でも初めての場所には転移できんじゃろ。アズナイル、どうだ? お前に案内してもらったと言っておったが、今日が初めてじゃなかったのか?」


 おっと、まだ疑われていたのか……。

 初めてなのは間違いないが、あの時バースは何と言った? 案内はできないと言ったら、知っていれば十分だと言わなかったか? だとすると──


「これは私の推測ですが、バースは恐らくここに来たことのある私を媒体としたのではないでしょうか。肖像画のある場所を聞かれ、案内はできないと言ったのに……ここにいるという事は…」


 そうとしか考えられない。


「私もそう思います。案内できなくても知っていれば十分だと奴は言って……そのあとすぐ殿下を連れ去ろうとしたのです」

「そんなバカな! そのような事ができる魔術師がこの国にいるなど……わしは聞いたことがないぞ」


 俺だって聞いたことはない。


「はい、陛下。私もです。そんな魔術師が実在するのなら、国家レベルで保護──というか囲い込みますよね。他国に取られては大損失どころの問題じゃありませんから」


 あんな化け物が他国の手に渡ったら……と考えるだけで恐ろしい。

いや、そもそもこの国の者なのか? 本当に大魔王だったら?

俺の中でバース=大魔王の図が出来上がりつつあった頃──。


「そう言えば……奴は『お嬢様が捜している』とか言いませんでしたか?」


 暫く口を閉ざしていたオーウェルが、明後日の方向へ走り出した。


「おぉ! そうじゃ! 帰らないと! と嬉しそう……に?」

「ええ、ええ……いそいそと? 帰っていきました……ね」


 嫌な予感しかしない。エルトナも微妙な顔をしている。


「あの様な者を従えている『お嬢様』とは、一体どんな娘なんじゃろうな」

「陛下! その『お嬢様』が人間のお嬢様だったら、王太子妃にしては如何でしょう!」

「オーウェル! それはいい考えじゃ! そうなればこの国は怖いものなしじゃな!」


 ……捕まえて、厳罰に処す話はどこに行ったのだ。オーウェルよ、父上まで巻き込んで走り過ぎだ。


 お嬢様に大魔王が付いてくるのか、大魔王にお嬢様が付いてくるのか分からないが、どっちにしても俺はごめんだな。どんなに凄い力を持っていたとしても、あんな得体のしれない──もしも……もしも、そのお嬢様がサーフィニア嬢だったら?……それは『有り』だ! 完全に有りだな! 大魔王だろうが、ドラゴンだろうが──


(お前、今サーフィニア嬢のことを考えているだろう?)

(…………)

(ハァー……今はまだお前の気持ちをバラす訳にはいかないんだろう? 気を抜くな)

(……オゥ)


 というか! 俺の思考を読むのはお前ら側近──違った。お前とノリス位だからな!







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