33・王家の秘密 ②
兄上が淹れてくれたハーブティーの香りにホッと一息つく。
知らず知らずの内に、全身に力を入れていたらしい。ハチミツがちょっとだけ垂らしてあって、その微かな甘さにも癒やされた。
「さて……続けても大丈夫か?」
父上の心配そうな声に大丈夫だと頷くと、父上も分かったと言うように一つ頷き、続きを話し始めた。
「レオンハルト様も、ジェームズ様もいなくなったこの国に残されたのは、ミレニア様と僅か二歳のジェラルド様だけになってしまったが、一時期行方不明になっていた宰相のゼインが戻り、片目を失われたミレニア様の代わりにジェラルド様の後見を務める事になった。ジェラルド様が成人して国王として立つその日まで、二人で力を合わせ、失われた信頼を取り戻し、国を立て直していくはずが── アズナイル、息を止めるな」
言われてハッとする。また、力が入っていたようだ。
お茶を一口飲んで、フゥーっと息を吐く。大丈夫だと言おうとすると── レグルス兄上の左の掌が軽く握っていた右手を包んだ。
「こうしておけば、余計な力も入れにくいだろう?」
「……ありがとうございます」
何度も父上の話を中断させてしまう自分が情けない。涙は見せたくなくて唇をグッと噛む。
「私達は恵まれているな。こんなに苦しい話も三人で聞ける。賢王と言われたジェラルド様は一人で……そう言えば……エミリア様は?」
「エミリア様は、ジェラルド様が一歳になる頃に亡くなられている。産後体調を崩してしまい、持ち直せないまま逝ってしまったと」
「……なんと言うか……本当にこの国は呪われている……のでしょうか? その時代はあまりにも…」
「不自然に人がいなくなり過ぎていますね。……王族ばかりを狙ったように」
兄上達の言う通り、呪われているとしか思えない位に王族が……亡くなったり……行方不明になっている。
「あぁ、実際ジェームズ様の近くに怪しい人物がいたらしいが……相当なキレ者だったらしく、証拠も痕跡も何も残っていないのだ」
「宰相のゼインも、王の右腕どころか、凌ぐほどの頭脳を持っていたのでしょう? その彼が見過ごすとは思えませんが……その者と通じていた可能性は?」
確かに……国が大変な時に行方不明になっていたりして── 怪しいと言えば怪しい気がする。
「その可能性は、私は低い── いや、無いと思っている。何故なら、ゼインと入れ替わるように……ミレニア様が、ある日忽然と消えてしまったあとも、ジェラルド様を賢王と呼ばれるまでに育て上げているからだ」
「「「!!? えっ!? ミレニア様も消えてしまったのですか!?」」」
「それは! やはりゼインが何か──」
「王家の森は恐れられ、誰も入らなくなったけれど……ただ一人例外がいると言っただろう? それがゼインだ。ゼインはジェラルド様が王となった一年後、王にこう言ったそうだ。──『いつの日か必ず、私の子供が光の子を連れてこの国に戻って来る。それまでしっかりとこの国を守っていてほしい』── と。そう言い残して王家の森に消えたあと……ゼインの姿を見た者は誰もいない」
「……ゼインの子供……光の子?…」
ふと、初めてサーフィニア嬢を見た時の事を思い出した。
あの木の上から落ちてくる一瞬、全身が白く光って見えたのは……見間違いだったのだろうか……この腕に抱きとめた時は『黒』だった。
「それが事実だとして……ゼインの子と光の子が現れた事はあるのですか?」
「セス…… 一度もないから今も呪われたままなのだろう?」
「しかし、それでは三百年も──」
兄上達は放って置く事にしたらしい父上が、俺に目を向ける。
「アズナイル。わしが、ボルトナー伯爵の息子の元に現れた男の髪の色を尋ねただろう?」
「はい……それは…」
「レオンハルト様とミレニア様の肖像画を探している妙な男……わしは、その男がゼインの子供なのではないかと思ったのだが……違ったようだ。ゼインは輝く白金の髪を持っていたとある。その息子もそうであったと。古い歴史書に、たった一行だがそう書かれていた」
「父上……それが三百年も前の話で、未だに姿を現さないという事は……ゼインがただ、この国の未来に希望を持たせたかっただけ……なのではないでしょうか…」
レグルス兄上の言うことにも一理ある。が、俺はやはりサーフィニア嬢の事が引っかかっていた。ただ── サーフィニア嬢は、かわい過ぎる天使の様な女の子で── 息子……ではない。
父上に話してみるべきか迷ったが……。
「父上は……もし、その二人が現れたらどうなさるおつもりですか?」
その前に、先ずはこれを聞いておかなければ。
「……どうするかは……。お前達には、この国の王子として生まれた者が、何故十八歳になるまで正式な婚約者を決めてはいけないことになっているのか……。教えていなかったな」
俺達は揃って頷いた。近隣諸国では── と言うか、王侯貴族は普通幼少の頃から婚約者が決まっていることが多い。しかし俺達は…… 十六歳になったレグルス兄上にさえ正式な婚約者はいない。
「光の子は……女の子と考えられている。それは、この国で光を司る神が女神様だからだ。光の御子ならば最高の敬意をもって迎えなければならない。つまりは、ルシファード王国の次代を担う者の妻として── 王妃として迎えるということだ」
なにぃーーー!!? そうか! サーフィニア嬢が、ゼインの子供ではなく『光の子』だった場合……俺は……どうすればいいんだ!?
「だから、十八歳になるまで正式な婚約者を決めないのも、王太子を選ばないのも、全ては『光の子』がいつ現れてもいいように備えているからなのだ」
「それでは父上、例えば私はあと二年で十八になりますが、それまでに光の子が現れなければ、私は他のご令嬢と結婚をしてもいいと言う事ですか?」
「そういう事だ」
「では、セスもアズも十八になり、三人とも既に正式に婚約、或いは結婚したあとに光の子が現れた場合はどうなるのですか? 王太子は?」
俺は……サーフィニア嬢が光の子でも、そうではなくても、もうサーフィニア嬢以外と結婚する気はないし、兄上達にも他の誰にも渡す気はないぞ! まだ言うわけにはいかないが……。
「王太子については、アズナイルが十八になった時点でも現れていない場合は、長子であるレグルスが王太子になる。お前達全員が結婚したあとに現れた場合は……新たに女神様の為の神殿を建て、そこで何不自由なく暮らして頂くつもりだ。勿論、国王と同等の権力を与えてな」
「では……もしも……もしもですよ? 女神様が既婚者となったアズを気に入って、妻になりたいと言われたらどうなさるのです?」
「!? どうしてお── 私なんですか!!」
珍しく、レグルス兄上がグイグイいってるなー と思っていたら、話がとんでもない方向に流れて来た!
「もしも……の話だよ、アズ…」
「もしも! でもやめてください! 縁起でもない! 私は誰が何と言おうと! 絶対に妻とは離縁しません!!」
「「「…………」」」
「……まぁ、女神様がそのような事を言うとは思えんし……わしもそこまでは想定していない。……それよりも、アズナイルは結婚どころか、まだ正式な婚約者も決まっていないのに……ハハッ そこまで言い切るとは! わしみたいな愛妻家になりそうじゃの!」
あっ……しまった……。もうサーフィニア嬢と結婚したつもりになってて……つい熱くなってしまった……。
父上と兄上達に生暖かい目で見られている。
……話を逸らさなくては! えーーっと……あっ! そうだ! って……俺はクルスか……。
「そう言えば、ボルトナー伯爵から『悲劇の王妃の間』と言うものがあると聞きました。そこには国王となった者しか入れないと……。それは本当ですか?」
「あぁ、本当だ。わしも父から部屋の存在を教えられたが、王位を継承するまでは入る事ができなかった」
「国王しか入る事ができないのなら……お祖父様は、父上に王位を継承されたあとは……もう、入る事はできなかったのですか?」
「入るどころか、扉に近づく事さえもできんのだよ……。あの時の……父のホッとした様な、それでいて淋しそうな顔は……今でも忘れられん」
話の後、父上の寝室にある地下通路に続く階段を下りた先にある『悲劇の王妃の間』を教えてもらったが……父上が扉を開けても── 見えない壁の様なものに阻まれて── 俺達は、中が見える位置まで近づく事はできなかった。
『悲劇の王妃の間』は、片目を失ったミレニア様が一時期軟禁されていた部屋で、消えてしまった離宮に通じていた地下通路も、今はすっかり埋まってしまっているという。
── それはまるで ──
何者かが意図的に全てを隠してしまったのではないか?
そう思えてならなかった。
この回をもちまして── 終了 ── は、しませんよ!!
今年の投稿は、最後になります。
年明けの投稿は、六日からを予定しております。
評価をくださった方、ブクマを付けてくださった方、一頁でも読んでくださった方、ありがとうございます。
I hope that next year too many flowers will bloom for you ❀
from イト




