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23・ただの田植えと…魚釣り大会

名前の間違いを修正しました(2025年6月18日)

サーフィニア嬢 → ミーニア嬢

 サーフィニア嬢は大きめのウインナーを十二本と、自分の分の朝食もペロリと平らげて満足そうにしている。

食欲も完璧に戻ったようで……本当によかったと何度思ったか分からない。


 今日はサーフィニア嬢とたくさんの思い出が作れたらいいな。

と思っていると、カランカランとベルが鳴った。


「みなさーん、朝食は美味しかったですか? 食欲のなかった人も、ランチまでには調子を整えておいてくださいね」


 サーフィニア嬢はいたずらっぽくニコッと笑う。


「今日はみなさんの最後の思い出の一つとして、まずは《魚釣り大会》を開催します! 二つめは、もう忘れているかも知れませんが、初日にお米料理の投票をしたんですよね? その結果、人気のあったお料理の一位から三位までを、ディナーで食べ放題にしたいと思いま〜す!」

「「「ウオォォォーー!!」」」


 ウインナーを取られて、ちょっとだけしょんぼりしていた騎士たちも『食べ放題』の言葉に完全復活を果たしたようだ。


「みなさん、落ち着いてください。喜ぶのはまだ早いですよ? 魚釣り大会で優勝した人には賞品があるんです。それはなんと……プラント領自慢のお米、三十キロですよー!」


 再びの雄叫び! かと思いきや──皆、微妙な顔をしている。

どうした? 嬉しくないのか? 

不思議に思っていると、サーフィニア嬢が今度はものすご〜くいい顔で笑った。


「アズナイル殿下に遠慮するのは《なし》ですからね? 大人の人で殿下よりも少なかった人は──いいですか? ここ大事ですから、よぉ〜く聞いておいてくださいね? 少なかった人は……食べ放題はできませーん!」

「「「匕ェェェェーー!!」」」


 今度は悲鳴だった。


 なるほど。俺がいるから勝つわけにはいかないと思っていたわけか──

って……怖っ!! 

悲鳴のあとはすぐに立ち直ったのか、こっちを見る目がメラメラと燃えている。


「騎士の皆さんはこのあと、河原で魚を焼く準備のお手伝いもお願いしますね?」

「「「はぁ〜〜い!」」」


 だから君たち……ギャップがすごいんだけどっ!



 俺は、どうするかな。サーフィニア嬢は何をするんだろう?

そう思っていると、サーフィニア嬢がこちらにやって来た。


「サー」「ウォッホン!」


 あっ……スヴァイル殿、すみません。


「ミーニア嬢」

「ふふふ、ミーニアですよ。あの……アズナイル殿下と一緒にしたいことがあるんですけど、少しお時間をいただけますか」


 俺と、一緒に、したいこと?

ハッ! まっ、まっ、まさ「田植えですよ」


 妄想をぶった切るセバスチャンの、男とは思えないほどに美しい、美しい笑顔に──背筋が凍るのは何故だろう?

ほんのちょっと《河原でデート》のお誘いかな、と思っただけなのに。

あっ! でも《二人で田植え》も立派な「ただの田植えです」


 ……ソウデスネ。というか、俺の心の声、漏れてます?



「俺たちは準備に行くぞ」


 ちょっとだけ凹んだ俺に同情するような視線を一瞬だけ投げて、田植えに割り込む気満々だった二人をエルトナが連れて行ってくれた。

さすが年長者。気が利く。

セバスチャンも連れて行ってくれると、なおよかったけど。



 ◇◇◇



 裏庭まで並んで歩いていくと、サーフィニア嬢は大きなバスタブの横に置かれている小さなバスタブの前で足を止めた。


「一番最初はね、この大きなバスタブで田植えをしたの。セバスチャンとお兄様と三人で。ふふふ、だけどね? 終わったあとマリアベルにものすごく怒られたんだよね。ワンピースを泥だらけにしたから」


「ものすごぉく怖かったよね〜」と楽しそうに笑っているサーフィニア嬢を見て俺も楽しくなったけど、セバスチャンと二人きりじゃなくてよかったと思っていることは内緒だ。


「あの時、二度とマリアベルを怒らせてはいけないと思いましたね」


 そうか、そうか。マリアベル殿に──怒られた? セバスチャンが!?

もしかして、真の大魔王様はマリアベル──


「殿下、どうかなさいましたか?」


 どっ!? い、いえ、どうもなさっておりません!


「コホッ。いえ、別に──いや、田植えってどうやってやるのかなぁと」

「ああ、そうですね。お召し替えになられますか?」

「いいえ、このままで構いません」


 時間がもったいないので!


「マリアベル、今日はちょっとだけだし、中には入らないから大丈夫だよ」


 と言っているわりには、ダークブラウンのミモレ丈ワンピースにエプロンをつけ、手袋をはめ長靴も履いている。いつの間にか頭には頭巾まで。

でも庭師のお兄さんもいるみたいだし、って、えっ、セッ、セバスチャン!?


 ちょっと待ってくれ。二人共、完全防備がすご過ぎる。

マリアベル殿が本当に『ものすごぉく怖かった』ということは、十分過ぎるほどに伝わってきたけれど……まさか俺は、怒られたりしないよな?



 やはり着替えた方がいいだろうか? と迷っているうちに、サーフィニア嬢の田植え指導が始まった。


「苗をね? こうして三本の指で持って土の中に──このくらいまで、差し込むだけなの。簡単でしょう?」

「うん、そうだね。やってみるよ。こうして持って土の中に──うわっ! なんだ!? この、クゥゥ……」


 なんともいえない感触の土が、ねっとりと手に纏わりついてくる。


「気持ちいいでしょう? その、にゅるにょろ〜って感じ!」


 えっ、えぇ……いいのか? これ。『にゅるにょろ』? う〜ん……。


「えーっと、もう一本もらえる?」

「もちろんです!」


 可愛い笑顔つきで嬉しそうに差し出されると、何が何でも『にゅるにょろ』の感覚をつかみ取って、サーフィニア嬢と同じ気持ちを味わいたくなる。


「こうして……クゥゥ──ん? 待って、分かる『にゅるにょろ〜』なっ? うん、なるほど。にゅるにょろにょ〜んだ!」

「でしょう! これね、足の方がもっと気持ちいいんだよ。指の間からね? にゅるにゅる〜ってなって、にょろ〜って。ねっ、セバスチャン!」

「そう、ですね。それにハマってしまって、田植えそっちのけになって。それでマリアベルに……」

「あっ……」


 ハハハ……。ニッコリ笑っていますが、マリアベル殿。目は笑っていませんよ?


 サーフィニア嬢があまりにも楽しそうに話すので足も突っ込んでみたかったのだが、マリアベル殿が目を光らせていたので叶わず……小さなバスタブの田植えは、あっという間に終わってしまった。


「本当はね? 今は田植えの時期じゃないの。でもセバスチャンが何とかしてくれるから大丈夫だよ。だから……来年の夏に、またここに来てくれる? 夏なら私も大丈夫だから。今度は一緒に、ここの稲刈りをしたいの」


 不安そうな表情で瞳を揺らすサーフィニア嬢を、思わず抱きしめたくなる。

俺はもう本当に──。


「約束する。来年の夏に必ず来るよ。だからそれまで、この苗のお世話を頼んでもいいかな?」


 そう言うと、サーフィニア嬢はパァァっと花が咲くように嬉しそうに笑って。

あまりにも嬉しそうに笑うから、こっちまで嬉しくなって笑おうとしたら──

あっ! 髪の色が白金に!?

ほんの一瞬だったけど見間違いじゃない。そう思って確かめるようにセバスチャンに視線を送ったけれど、珍しくこっちを見ていなかった。



 着替えて河原に行こうと手を引かれ邸に戻る。

元気になったサーフィニア嬢と一緒にいられることが嬉しくて、サーフィニア嬢ばかり見ていたから気づかなかった。


 後ろからついて来ているセバスチャンが、難しい顔をしていたことに。



 ◇◇◇



 河原につくと、大きめの石を丸く並べた魚を焼くための囲いがいくつかできていて、囲いの中には灰が敷き詰められ中央には薪が置かれていた。


「あー、やっと来た〜! 今ね、落ち葉や小枝を集めているところだよぉ!」


 言葉通りに、小枝を抱えたクルスがこちらへ駆け寄って来る。


「ボルトナー様、ありがとうございます」

「やだなぁ、ミーニアちゃん。クルスでいいよぉ『ボルトナー様』だなんて、かたいかたい! ミーニアちゃんと僕の仲じゃ」「クルス・ボルトナー様。魚釣り大会の時間が迫っておりますので、口よりも手を動かして頂けると助かります」



 セバスチャンのフルネーム呼び&氷点下の微笑は、なかなかの破壊力だ。

だが、精神的ダメージだけで済んでよかったな、クルス。

俺はもう少しでお前の首を絞めるところだったぞ? なんなら今からでも、


「大変申し訳ありませんが、殿下も設営のお手伝いをお願いします。さあ、ミーニア様。我々は向こうで、おにぎりを作りましょうね」

「はーい。それじゃあ、殿下、クルス様。また後でね!」


 ……。クルス、側近の仕事をさぼったな? 流れ弾に当たってしまったぞ?

しかも、サーフィニア嬢からお前だけ名前呼びされるとか──俺のダメージの方が大きいじゃないか!



 ◇◇◇



 カランカラン。すっかりおなじみとなったベルが鳴る。

「みなさーん! 集まって下さーい!」サーフィニア嬢の元気な声も響く。


 すっかり元気になってよかったが《気に入らない》俺を通してセバスチャンが癒したにしても、早すぎる気がする。

もしかして、サーフィニア嬢も《アレ》を飲んだのだろうか? 

あとで聞いてみよう。




「みなさん、大会のルールは覚えていますね? 殿下に負けたくないからといって、ズルは駄目ですよ? そんなことをしたって、すぐにセバスチャンにバレてしまいますからね」

「その通りです。こんな風に、先に獲った分と合わせようとしても無駄ですよ」


 セバスチャンがどこから持ってきたのか、魚が数匹入っているバケツをザッバァーーっと川にひっくり返した。

リリースされた魚たちはスィ〜っと泳いでいってしまう。と──


「あっ! ああぁーー!!」


 ──すぐ側で、聞き覚えのありすぎる叫び声が上がった。


「まさか、と思うが……お前じゃないよな?」

「だっ、だってぇ……食べ放題ができなくなっちゃったら嫌だもん。際限なくお代わりしたいんだよぉ!」

「ハァ……。聞いていなかったのですか? ミーニア嬢は『大人の人で』と言っていたでしょう?」

「えっ、そーなの? なんだぁ、よかった! じゃあ、お魚さん、また後でね〜」


 いやいやいや『よかった!』じゃないだろ? 恥ずかし過ぎるぞ!

やはりこいつには留守番をさせておくべきだった。

と後悔してももう遅いが。


「え、えーっと……。みなさんの準備はいいですか? この川には沢山の種類の魚がいますので、頑張って釣り上げてくださいね。制限時間は二時間です。それでは《第六回魚釣り大会》開幕で〜す!」


『開幕』の声を聞くやいなや「ウオォォォーー!!」と雄叫びを上げながら、釣り竿を掲げて川に突進していく王宮騎士たち。


 やる気満々なのはいいがな、そんな大声を出していたら魚が逃げるぞ?

と思っていたら、サーフィニア嬢も追いかけるように大きな声を出した。


「ちなみに! 私の好きな魚は《レインボーフィッシュ》ですよー!」


 おっ! メモメモ──〈天使の好きな魚は、レインボーフィッシュ〉っと。




 少し歩いて流れの緩やかな場所までやって来た。俺が釣るのはレインボーフィッシュ一択とさっき決めたので、他の魚はキャッチしてもすぐにリリースしていく。



 無心で釣っていると、あっという間に二時間が経過したようで、大会終了を知らせるベルの音と「終了ですよー!」というサーフィニア嬢のかわいい声が、風にのって聞こえてきた。


 バケツの中を覗くと、十匹くらいは釣れているように見える。

サーフィニア嬢、喜んでくれるかな? あのかわいい笑顔を見せてくれるかな?

そう思ったらもう、かわいい笑顔を浮かべて大喜びしている姿しか想像できなくなって。


 もと来た道を急いで引き返した。






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