13・お楽しみディナー ②
思い思いの軽装に着替えた騎士たちの姿は新鮮で、個性がよく現れているのも面白い。一番個性的だったクルスもまともな服に着替えてきたので、揃ってダイニングに行くと──見たことのない光景に、思わず『おお!』と歓喜の声が沸き起こった。
ランチの時は長テーブルが三つ並べられていたが、すべて円形の八人掛けテーブルに変わっている。
奥の窓際には、美味しそうな料理が盛り付けられた銀製の大きな皿が数枚と、ボウルに入った野菜や果物、いくつかの寸胴鍋が並べられ、左右の壁際と真ん中のテーブル席の前には、食器やカトラリー類が載ったカートが置いてあった。
『騎士の方は、左右のテーブルに分かれてお座りください』と侍女の案内があったあと、俺たちは執事に案内されて真ん中のテーブル席に着く。
俺の隣はサーフィニア嬢だ! もうそれだけで、嬉しい、楽しい♪
目が合うとニッコリと笑ってくれた。……かわいい!
俺もバッチリ王子様スマイルを決めて、内心ではニヤけていると、男爵が前に出て挨拶を始めた。
ダイニングに来る前に──今日は娘が殿下方に楽しんで頂こうと、一生懸命企画したディナーになっております。ご無礼な点も多々あるとは思いますが、どうか温かい、広い心で楽しんで頂けると幸いです──と、予め男爵からことわりがあったことを思い出す。
もしも、天使の企画にケチをつける者がいたりしたら、俺が直々に成敗してやる!そしたら、俺は天使に感謝され──おっと、挨拶を聞かないと。
「皆様、本日はプラント邸のディナーにお越し下さり、誠にありがとうございます。今日のディナーは、娘のサーフィニアが皆様のために企画いたしました。つきましては、娘より挨拶と説明をさせて頂きたく存じます。ニア、おいで」
「はい!」と、かわいい声で返事をして男爵の横に立つと、ニッコリと笑ってからお辞儀をしたサーフィニア嬢。なんだろう? それだけでかわいいとか、ヤバくないか? 街娘風のワンピースもとっても似合っていて、かわいすぎる! あんな格好で王都を歩いていたら、あっという間に誘拐されるぞ!
「皆様、本日は《サーフィニアのお楽しみディナー♪ お米祭り》にお越し下さり、誠にありがとうございます。本日のディナーは──なんと! 食べ放題となっております! 気に入ったものを好きなだけ、ど〜んと食べてください!」
『ウオォォォォォーー!!』と野太い声が騎士たちの間から沸き起こる。
うるさい、黙れ! くだけすぎだぞお前たち。天使の話を聞け!
鋭い視線を左右に飛ばすと、一瞬で静まった。
「お料理は十分用意してありますので、慌てないでくださいね。お皿が空になっても、すぐに補充しますから。もしも、慌てて他の人を押し退けたり、欲張って取って食べ残したりする人がいたら──そんな人は明日の朝食は抜きですからね? 皆さん、わかりましたか」
「「「「はぁ〜い」」」」
ハッ! 思わず手をあげてしまった。と焦ったけれど、みんな手をあげていたのでホッとし──えっ? 男爵も夫人もですか? しかも、そんな満面の笑みで。
これは、逆にあげなかったら白い目で見られていたかも知れない。などと天使のかわいい顔を見ながら考えていたら、少しだけ眉が下がったのが分かった。
マズい! 意識がそれていたのに気づかれたか!?
慌てて笑いかけると、小さく頷いてくれた。ああもう、かわいい。のは一旦置いておいて集中、集中。
「皆さんは初めて食べるものばかりだと思いますので、どういう料理なのか簡単に説明したカードを置いています。参考にしてくださいね。それから、七時になったら《おにぎりを作ってみよう!》コーナーを設けますので、興味のある方は是非参加してください! そして、八時になったら最後の一皿を持って着席をお願いします。それでは《サーフィニアのお楽しみディナー♪ お米祭り》はじまりでーす!」
『ワアァァァァァー』と大歓声と拍手が起こったあと、訓練よりも素早い動きで騎士たちが料理に群がる。
……。今日は無礼講だと言っておいたが、遠慮がなさ過ぎるだろう!
俺はサーフィニア嬢が戻ってきてから一緒に──と思っていたら、戻ってこない。あれ? と思って見回すと、既に皿を手にして料理の前に立っていたので、急いで隣に並びに行った。
「サーフィニア嬢のお勧めはどれかな?」
「殿下。ふふっ、遅かったですね。私のお勧めは、この《カレーライス》です。私用に甘口で作ってありますので、辛いのがお好きならこの黄色の粉をかけてくださいね。かけ過ぎには注意! ですよ」
「分かった。ありがとう」
天使メモ:辛いのが苦手。インプット完了! じゃあまずはこのお勧めを山盛り──
「最初は小さなお皿で色々試してみるといいですよ」
──ですよね〜。
「あっ、そうだ《おにぎりを作ってみようコーナー》殿下は強制参加ですからね。お昼に約束したでしょう?」
小首を傾げていたずらっぽく笑う天使に見惚れ──ている場合じゃない。
話しかける度にかわいい笑顔を向けてくるから、顔がニヤけっぱなしになりそうで危ない。
「うん。約束は守らないとね」俺も負けずに、ニッコリと王子様スマイルを決めてみたら……。ちょっとだけ頬を染めた天使が、もっっのすごくかわいい!! 顔は気に入ってもらえたようでよかった。生まれつきのものは変えようがないからな。
それからもサーフィニア嬢にくっついて回り、天使のお勧めをいくつか小皿に盛ると、トレーに載せて席に戻った。
エルトナは大皿で三皿ほど取ってきていたが、もう既に二皿は空になっていて、最後の皿も完食間近だ。さすがに騎士見習いはよく食べ──
「ヒャアァァ、か、かっ、辛いぃぃ! みみみ水ぅぅ!」
……。クルスのやつ、注意書きを読まなかったのか? 黄色の粉は、かけ過ぎ注意と書いてあっただろうが。俺には《特別に》天使がかわいく教えてくれたけどな。
「ボルトナー様、大丈夫ですか? お皿を取り替えましょうか」
「ひっ、ひえ! 大丈夫でひゅ! そんひゃことしたら、明日の朝食がぁぁ〜」
「クルス、自業自得だ。サーフィニア嬢が準備してくれていた物を、よく読まないからそういうことになる」
「殿下、それは違います。私がもっと目立つように書いておけばよかったんです。ごめんなさい、ボルトナー様。ちょっと待っていてくださいね」
そう言うと、サーフィニアは料理のテーブルに戻って行った。
……クルスのせいで、俺が悪者みたいになってしまったじゃないか。
嫌われたらどうしてくれる? しかも、サーフィニア嬢の方に手落ちがあったと思わせてしまうとは──許さん!!
「クルス、今まで楽しかったですよ。ありがとう、お元気で」
「骨は拾ってやるからな、成仏してくれよ」
「ちょっと、二人ともなに言ってるの!? 僕、どこにも行かないからね? 骨とか……怖いこと言わないでぇぇ!」
火を吹きそうな俺。それを感じて、さっさとクルスを切り捨てにかかるノリスとエルトナ。辛さと怖さで涙目のクルス。という寒々しいテーブルに、天使が舞い戻ってきた。
「お待たせしました……。ボルトナー様、泣くほど辛かったのですか? ごめんなさい。でも、もう大丈夫ですよ。お皿にカレーを少し足して、ゆで卵の輪切りを載せたら、最後にケチャップをかけてと……はい、出来上がりです! ボルトナー様、食べてみてください」
「サーフィニア嬢、ありがとう! 優しいのはサーフィニア嬢だけだよぉ〜。食べてみるね!」
……。クルス? 俺を差し置いて、何やってんだ? サーフィニア嬢に手間を掛けさせた挙げ句、サーフィニア嬢の特製アレンジカレーライスを食べるのか? 俺より先に?
「ノリス、巻き込まれる前に次の皿に行かないか」
「私も同じことを考えていました。すぐに行きましょう」
ドス黒いオーラが見えたエルトナとノリスは、さっさとテーブルを離れる。
「わぁ〜、ものすごく食べやすくなったよ! 辛さが殆ど気にならないね。ありがとう、サーフィニア嬢!」
「ふふっ、良かった。それから、殿下には私の一番のお気に入りのトッピングを持ってきました。この豚肉を衣で包んで揚げたポークカツレツは、カレーにとってもよく合うんです。よかったら食べてみてくださいね」
単純な黒いオーラは、瞬く間に霧散していく。
「サーフィニア嬢の《一番の》お気に入り?──それは俺ですか?──ゆで卵よりも?」
「勿論です! ポークカツレツのサクッとした食感と、とろ〜りとしたカレーがとってもよく合うんですよ。殿下にも気に入ってもらえたら嬉しいです!」
うん。とっくに気に入っているよ? かわいくて優しい、サーフィニア嬢のこと。
うっかり口をついて出る前に、ポークカツレツを口に放り込む。
「本当だ! すごく美味しい。豚の脂の甘みがジュワ〜っと滲み出てきて、カレーと口の中で溶け合うのがたまらないね。癖になりそうだ!」
そう言うと──天使はこの日一番の輝く笑顔を見せてくれた。




