13・お楽しみディナー ①
ランチが長引いたために稲刈りは終わってしまっていたけれど『視察に来て頂けたのだから少しだけでも見学してもらいましょう』ということになったらしく、初めて耳にした《田んぼ》というところの一画だけは、刈り取らずに残しておいてくれたそうだ。
農家の人たちが鎌を使って手際よく稲を刈っていく様子を見学させてもらったが、ほんの一画だけだったのであっという間に終わってしまい、もうしばらく見ていたかっただけに何だか少し物足りない気持ちになる。
しかし、元々はこの広い田んぼいっぱいに植わっていたというのだから、物足りなかったなんて言ったら怒られそうだ。確かに大変な作業だとは思う。ランチが終わるのを待っていられなかったのも無理はないだろう。
今年は二期目とのことだが、一期目はなれない作業に時間がかかり、領民総出で刈り取ったそうだから。
「来年はもう少し規模を大きくする予定ですので、皆さん是非お手伝いにいらしてくださいね」と言われて、エルトナは興味津々に頷いていたが……。
まさかあいつ、剣で刈れば早いはず。とか思っていないだろうな?
「エルトナ、剣で刈るのは無理ですよ。あたり一面めちゃくちゃになりそうですからね。第一、危ないです」
「俺の剣はクルスの思考より安全だぞ?」
「ちょっと! それってどういう意味かなぁ!」
……。やはり思っていたのか。まあ稲刈りはさておき、クルスの思考より危険なものなんてそうそうないと俺は思うけどな?
あとは、刈った稲を束ねて、木の棒を組んで出来た物干しのようなものに架けたら、今日の作業はおわり。これを一週間ほどおいたら、次は脱穀、籾すりといった具合に、米が食べられるようになるまでにはまだまだ時間がかかるらしい。
「もっと味わって食べないと、罰が当たりますね」とザードは呟いていたが、俺は知っている。目をキラッキラに輝かせていたお前は、人の話もろくに聞いていなかったんだろう? おかわりした分もあっという間に食べてしまい、堂々と三個目を貰いに行って《あの執事》に怒られていたじゃないか。
どれだけおにぎりが気に入ったんだ?
明日の午前中に脱穀と籾すりの体験をさせてもらう事になっているが『護衛の仕事がありませんので、お世話になっているお礼に皆も参加させます』と言ってくれたのはまあいいとして──下心が透けて見えているのは、多分俺だけだろう。
人手はいくらあっても足りないらしく、農家の人たちは助かると喜んでいたから。
◇◇◇
視察から戻って軽く汗を流した。汗臭いまま天使に会うなんて、考えただけでゾッとするからな。
それから──『ディナーには堅苦しい服装ではなく、軽装でおいでください』と言われていたので──城下にお忍びで出掛けるような服に着替えた。よし、完璧だ。
みんなも大体そんなものだろうと思っていたのだが……。
「……。クルス、それは寝衣か」とんでもない格好をした者が約一名。
あっ、具合が悪いからディナーは欠席するんだな? そうだろう?
「そんな訳ないでしょう! これはね、たくさん食べられるようにベルトなしでも履けるズボンと、たくさん食べて膨れたお腹を隠せるようにゆったりとした作りになっている上着だよ!」
「物は言いようですが、どう見ても寝衣だと《普通の人》は言うでしょうね」
「だから違うって! これには取り外しのきくマントもついているんだよ? 寝衣にはマントなんてつけないでしょう? 西の国では今一番の流行りなんだってさ。ディナーにも着ていけるって露店のおじさんは言ってたし、男爵からも軽装でいいって、そう言われてるでしょう?」
「軽装というのは、そういうことではないぞ」
誰だ、幼気な子供を騙した悪徳商人は。いくらなんでもこれは酷すぎる。
というか、露店で買った服はプライベートなら着てもいいけど、視察は仕事だぞ?
ディナーに寝衣を着てくるような側近がいる王子など、今度こそ天使も驚いて「帰ってほしい」なんて言われたら……。
「クルス! 着替えるんだ。着替えなければ、お前はここで留守番だ!」
「そんなぁ〜」と涙目になって、エルトナとクルスを交互に見ているが、何かと面倒見のいいエルトナも、この時ばかりはツーンとそっぽを向いている。
諦めてガックリと肩を落としたクルスは、着替えるために部屋に戻っていった。
プラント邸に滞在中『食事の時間は騎士の皆様もご一緒に』と言われている。
サーフィニア嬢が色々と考えてくれているらしい。そう聞けば、断る理由など一つもないが……変な服だけは着てくるなよ!
騎士たちは「思わぬ休暇を与えられた!」とウキウキしているが、遊んでばかりいては身体がなまるということで、明日の早朝からプラント男爵家の護衛騎士隊の訓練に参加させてもらうそうだ。
守られたこの土地に護衛騎士隊? と不思議に思ったが、ここが守られているからこそ、一歩外に出ると逆に危険がつきまとうらしい。
この土地に立ち入れなかった者たちの逆恨み……。と言ったところか。
それでは外に出たら襲われて、いつも危険な目にあっているのかというと──危険な目にあっているのは襲ってきた側というから面白い。
あの白金の髪の男──セバスチャンは信じられないくらいに強いらしい。
そんな男と手合わせができると、皆楽しみにしているそうだ。
聞けば俺も気にはなるが──それよりも、天使といただく『お楽しみディナー』はまだか! と思ったところで、お待ちかねのノックの音が響いた。




