ヴァン・クー
フリードは手綱を握り馬車を動かしている数日間で分かった。
「ハラへらね?」
レオンは食料を漁り始める。
このレオンという男は頼りにならない。最初こそ手綱を握り御者をしていたが、やり方をフリードに伝えてからは一度も触ることは無かった。常に馬車で快適な生活をしている。
出発した直後に何処からか酒を取り出し酔っ払っている始末だ。今もフリードの裏で何をやってるのか想像も容易い。
「ほら、干し肉持ってきたぞ。おまえも食え」
そう言い馬車から身を乗り出しフリードへ肉を手渡した。もう片方の手には酒瓶を持っている。
「あと、酒も持ってきたぜ。そろそろ飲んどけよ、俺が全部飲んじまう」
フリードは干し肉を受け取ると一口齧った。
「全く、おまえという男は……俺が居なくても一人でどうにかすると言っていたな? 多分、それは無理だ。いや……断言できるかもな。レオンという男一人では旅も出来ない」
「俺だって大人だぜ? 流石に一人で旅くらい余裕だっての」
「そうである事を願うよ」
フリードは自分がしっかりしないと道半ば……それこそ、移動するだけで壊滅すると確信できる。先日も野宿する時に火を任せたらレオンの服が一部焦げてしまった。原因は不注意としか思えず、酒の肴を炙っていたら火に近づき過ぎる始末。
目を離すと何をしでかすか分からないがフリードもそこまで面倒を見るのは気が重くなる。
「そうだフリード。あと数日でジェネラルに着くと思うんだが食料が足り無いかも知れない。やべーよ。どうする?」
「余る程に買い込める金を渡したはずだが?」
「まぁ……なんだ。思ったより食い物が少なかったかもしんねえな」
食料が少ないなら比例してフリードのお金が余るはず……現状はそうじゃない。出発から休んでは馬車を走らせ懐は潤う事も無くひたすら前に進んでいる。
何にお金が掛かっているのか単純明快で酒が無限に出てくる。明らかにおかしい量の酒をレオンは飲んでいた。
「で、一番高い酒はどれだ?」
「お! それがな。このシルヴァって名前が書いてある酒が滅茶苦茶な値段で、一本だけで二十万ペセタ……ってあー、あっれぇー。商人が間違えて食料に紛れ込ませたのか? 全く、けしからん。王都エデンは治安が悪いな!」
フリードの冷たい人を刺す視線を見たレオンが商人のせいにした。フリードが今まで見たことのある高い酒がせいぜい五千ペセタ……払った物は仕方ない。大人にならざるを得ないフリードはレオンに訪ねた。
「調達しないと飯抜きで走り続けることになるな。馬の飯を俺達も齧る事になるぞ」
「草は食いたくねー、俺の趣味じゃない」
「じゃー、何処かで分けて貰わないとな」
それから馬車を走らせて一日経ったが人影も無く、夜を迎えることになってしまった。レオンの話によると牢獄国家センターワールドという国が大陸の中心に存在する話だが一向に姿を見せない。
この大陸――ワールドの中心という名を冠する国は悪い事をした冒険者を捕まえて文字通り牢屋に入れている。犯罪を犯した冒険者を主に取り締まる機関となっていた。
他国が手に負えない冒険者を引き取り更生に向けて指導すると言われている。悪人が集められた国だからこそ、強者が集まり治安は良いとフリードはレオンから聞いている。
ジェネラルとエデンの中間に存在するセンターワールドで食料を入手する話になっていたが一向に国は見えない。
その日は野宿をして日が昇った翌日。
フリードは核心を突く事にした。
「なぁレオン。これは俺のミスとしか言えない」
「なんでも相談には乗るぞ。俺は勇者パーティのリーダーだからな! 寛大な心で全てを受け止める。フリードはどんなミスを犯したんだ?」
食料状況を考えると最後の朝食を終えてレオンは馬の頭を撫でながら手綱をフリードに手渡した。
「俺が食料を買い出ししてれば、道半ばで命尽きる事は無かった。俺の最大のミスはレオン……お前に買い出しを頼んだことだ。大丈夫、お前は何も悪くない。俺が自分で買い出しに行かなかった事が悪いんだ。まさか人の金を使って酒を買い込むとは想像もしてなかったさ。その想像力の欠如が全て悪かったんだ」
フリードは心底深い溜息を吐きながら呟いた。
「はっ、ははっは……まぁ、俺様から言える事は一つだ。気にすんな、誰でもミスは犯すもんだ。それっぽっちのミスなら俺様は特に思わないから元気だしてくれ」
「それと、道にも迷っている気がするんだ。確か……レオン・ジュピターとか言う男に道を尋ねた時はこの道を真っ直ぐ進めばセンターワールドが見えると聞いている。しかも、昨日の時点で到着する話だったが一向に見えない。まぁ、これも俺が王都エデンから出た事が無くて道に弱い事が原因だと言えるだろう。レオンが悪い訳じゃない、道を間違える事もあるよな?」
食料も底をつく現状は旅どころでは無い。お金も無く国も無いから生きるために野ウサギから狩猟しなくては体が持たない。その現状を聞いたレオンは状況の悪さに冷や汗が額を伝う。
「そのレオンってやつもきっと、あれだな。悪気は無かったはずだ。流石にギリギリ足りるだろうと、たかを括り旨い酒を買い込んだんだろう。行き倒れになる可能性なんて、当時はこれっぽっちも考えてなかったはずだ。レオンを悪く思わないでくれ……で、あー。俺様はそろそろ謝った方がいいか?」
流石にバツが悪そうな顔をするレオンにフリードは追撃することは無く。現状を打破する案を考えた。
「まず、道が合ってるのかを確認したい。このまま進んで本当に我々は良いのだろうか?」
「西に真っ直ぐ進めばセンターワールドが見えてくると思ったんだが……ミナトの奴は方角が分かる道具を持っていたな」
アリシアという街で作られた魔道具が存在して、その魔道具を使えば方角が分かるとフリードは説明された。そういうモノ作りが得意な街が存在する事にも驚いたが、魔道具があれば迷子になる心配は無くなるらしい。
その魔道具は番が存在し、片方を目的の場所に置く事でもう片方が常にその番を向いている。自分の国へ置く事でいつでも帰れるという代物だった。それがあれば使い方次第で現在の位置さえ分かる。
しかし、フリード達にはその魔道具が存在しない。
「その知識が出発直後に共有されていれば手が打てたな。さて、馬車の速度を遅めて狩猟できそうな生き物が居ないか確認しつつ先へ進むか……」
まだ欠片を集めれば一食くらい作れそうだが、今後を視野に入れると食料は多くて困らない。
「ま、どうにかなる……お、見ろよ。前から馬車が来るぞ。食料を分けて貰おうぜ」
馬を歩かせようとしていた時に正面から馬車が走ってきているのをフリードも確認した。それにレオンが大手を振って叫び声をあげる。
「おーい。ちょっと止まってくれ」
フリードが購入した馬車は商人が使う物と同じくらい大きく、荷物次第だが五、六人は生活することが出来る。荷台を引く馬も二頭でそれなりにコストは掛かるが快適に移動する事ができる。
丁度、向かいから来る馬車も同じ大きさで食料を分けてもらえる可能性は高い。何より、場所を教えてもらえばどうとでもなる。
相手もレオンに気づいて近くに馬車を止めた。何やら荷台からは話し声が聞こえてくるので複数人は乗っている。
「食料を分けて欲しい」
手綱を握る男にレオンがそう伝えると返答が来た。
「荷物を置いて消えな!!」
相手がそう叫ぶと荷台から五人の男が剣や斧を持って次々とレオンを囲みだす。
「お頭ァ! 鴨がネギ背負ってますぜ!」
ひときわ大きな斧を持つお頭と言われた男がドシンと構える。
「へっへっ。盗賊――ヴァン・クーに目をつけられたが最後だ。運が無かったと思って身包み剥がされな!」
旅の途中、フリード達は盗賊に出会った。
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