第三王女のメイド様
レオンが探している人物がフリードだと言われても、当の本人は心当たりが全く無かった。初めて見た相手なのだ、初対面で介抱し食料と日銭を渡しただけの相手でしか無い。王都エデンから遠い国ジェネラルへ名前が轟く訳もない冒険者だと自負しているのでレオンがとても怪しく見えた。
「俺を騙しても別に得は無いぞ」
「まて、別に騙してどうこうする気は無い。遠いジェネラルからお前を探しに来たんだ。出来れば強い冒険者をたくさん紹介して欲しいくらいだ」
フリードは更に混乱した。レオンは別にフリードだけに要件があるわけでは無いらしく別の冒険者も集めたい様子。
「残念ながらあまり知り合いが多い方では無くてな、他の冒険者に関しては受付嬢に声を掛けてくれ。あと探してたと言ったな? 何か用があるのか?」
フリードにもしも、深い交友関係があればソロで活動していない。レオンは荷物に手を伸ばして漁りパンを手にして齧った。
「はっはーん。フリードは友達が少ないんだな。友達はいいぞ、一緒に明け方まで酒を飲んだ暁には楽しい記憶しか残ってないもんだ。そして、俺様の要件は一つ。俺とパーティを組んでくれ」
フリードの前でパン屑を散らしながら喋るこの男はパーティメンバーを探している。酒が好きな友人の心当たりが無いからこそ、他国からわざわざ王都エデンまで来て探す意味がフリードには分からなかった。見ず知らずの急に現れた呑んだくれに誘われて首を縦に振る訳が無い。
「断る。ジェネラルのレオンという情報だけで俺はお前とパーティは組まない。理由が全く無いからな、今まで通りソロでやっていくよ。それに……近いうちにエデンを出ようと思っていたところだ」
想像していなかった返答だったのかレオンが大口を開けて固まってしまった。断られる事を考えていなかった様子にフリードは少々口元が緩む。レオンに伝えた通り、フリードは王都エデンを出てオフィキナリスへ旅立とうと考えていたから嘘は一つも含まれてはいない。
「ごほっ。あぁ、わりい少し口からパンが溢れたが気にすんな。ふぅ……話が違うぞ。フリードは寂しがり屋で誘えば直ぐに承諾するって話は嘘だったのかよ。くっ、あの小娘に俺は騙されたか。ちょっと、待ってくれ。時間をくれ」
ホラ吹きの言葉を鵜呑みに自信満々だったレオンが上手い誘い文句を考えている。頭を抱えてパンを齧りながらフリードの前に立っている。フリードはレオンが言った『小娘』という言葉が引っかかっていた。
オフィキナリスに行ったメアリとジェネラルから来たレオンの繋がりをフリードは考える。各国の位置情報は殆ど覚えていないが、あやふやな記憶で両国は近い距離にあったような……気がしていた。それなら二人に繋がりがあってもおかしくはない。王都エデンを出てメアリに残された武器は冒険者として培った経験だけのはずだ。レオンも冒険者なら一緒に依頼を請ける可能性が存在する。
「メアリという冒険者を知っているか?」
「おう知ってるぞ。あの生意気なメイドの名前は覚えている、俺にフリードの事を教えたのは誰でもなくメアリだ。あいつと一緒に依頼を請けた時に王都エデンの話になってな。それで、強い冒険者を訊いたらフリードの名前が出たって訳よ。少々ぶっきらぼうだが誘えば頷くって言ってたんだが……」
レオンとメアリが同じ依頼をやっていた事にフリードは驚いた。そして、何より王都オフィキナリスを良く知っている人物が目の前にいる。フリードにとって商人の言葉よりも重要な情報源となるであろう。
「まぁ座りな、少し話をしよう。レオンとメアリの繋がりを教えてくれないか?」
「あぁ、いいぜ。お安い御用だ」
レオンは自分に興味を持ってくれたフリードに嬉々として話してくれた。その内容からメアリの過ごした日々を想像するには容易い。
まず、メアリはオフィキナリスに到着すると冒険者ギルドに立ち寄った。日銭を稼ぐ依頼内容の確認と住む場所を確保する為に従来の冒険者が初めに取るであろう行動だ。しかし、噂通り魔物討伐依頼が存在しない。そこでメアリは第二王女が冒険者として活躍している事を知り、持ち前のスキルで直談判を行った。
第二王女――ルナはスキルが魔物討伐に向いている為、隣国であるジェネラルから依頼を請けてお金を稼いでいた。ルナが生活するオフィキナリス城へ侵入しルナの部屋へ辿り着いたとレオンは語っていた。
「んで、あの小娘……メアリがルナの部屋に入ったら王女様はどうしたと思う?」
「影法師は音もなく移動することが出来る。驚いて尻もちでもついたか?」
メアリのスキルを隣で見ていたフリードは王女を驚かす為に意地悪な笑みを浮かべた姿が脳裏をよぎる。
「それが扉を開けて部屋に入るとルナはこう言ったんだ『いらっしゃーい、紅茶はお好き?』ってさ。一人しか居ない部屋で二人分のお茶菓子を並べたルナを見てメアリは凄い顔をしていたらしいぜ」
自信満々に侵入したメアリは度肝を抜かれたらしい。フリードはその現場に居合わす事が出来ればどれほど楽しいかと頬が緩んだ。
レオンの話によると第二王女のルナが持つスキルは『鷹の目』と言われ、周りを俯瞰して見る事が出来る。冒険者ギルドに高ランクの旅人が立ち寄った情報を小耳に挟んだルナは城内からメアリの様子を眺めていた。それで、メアリの行動はすべて筒抜けとなり慌てて持て成す用意を始めたとのことだ。それからメアリはルナの元でAランク冒険者として依頼をやる事となる。
オフィキナリスは冒険者が魔物を討伐する依頼が殆ど存在しない。だからこそ、オフィキナリス中の力自慢をルナはまとめ上げ、ジェネラルで高ランクの依頼を請けていた。その活動には外の国からお金を自国へ入れる役割もあった。ジェネラルとしても他国の王女様が前線に出るとなったら協力を惜しむ訳にはいかず、抜擢されたのがレオンという男だ。
「ルナのやつは基本的に戦えねえ。魔物が何処に居るかを把握して適切なスキルをどんぴしゃなタイミングでぶち当てるだけで有象無象の魔物はたまったもんじゃない。メアリのスキルは応用が効いてあいつ一人で十分なくらい強力だったが、そこで俺様レオンの大活躍よ。あんな小娘に負けるレオン様じゃねぇ。あいつより多く魔物を倒した時の悔しそうな顔は最高だったぜ」
レオンもいい性格をしておりメアリとは仲良く過ごしている様子でフリードは安心した。
「それから暫くして前線に出てこなくなったな。第三王女――レオナって奴の専属メイドとして身の回りの世話をやってたんだとよ。この後はまぁ、なんだ……知ってるとは思うがあんな形で一つの国が滅んじまった」
もう、オフィキナリスは崩壊して無くなっている。フリードの表情をレオンは読み取り想いを告げた。
「さぁ、そこで現れたのがこの俺様だ。俺と一緒にオフィキナリスをぶっ潰した野郎共をぶっ潰しに行こうぜ」
レオンはニヤっと白い歯を見せつけながら親指を立て、声高らかにフリードをパーティに誘った。
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