商人のお話
訃報を聞いて数週間が経ち、腹を空かせたフリードが自室でたるんでいた。
フリードは請けていた仕事を一段落させて物思いに耽る。
王都の一つが堕ちる……話を聞くと魔物によって王都オフィキナリスは壊滅された。
魔物が現れない場所という情報を鵜呑みにして戦力を王都オフィキナリスに配置しなかった。王都エデンの様に冒険者が魔物を倒す形を作らなかったから起きた事件だとフリードは一人で考える。
あまり他国に興味の無かったフリードは王都エデン以外がどういう状況なのか分からない。メアリが旅立ったオフィキナリスがどういう国なのかも知らない。
だからこそ、情報収集を始めることにした。
フリードは今まで冒険者として魔物討伐しかしてこなかった。だから手始めに何をどうしたら良いのか分からない。そこで、受付嬢の元を尋ねれば道が見えると信じて冒険者ギルドに立ち寄った。
受付嬢に尋ねるも彼女は王都エデン出身でフリードと同じ様に他国の詳しい情報を知らないと言われた。他国の依頼傾向は少しだけ把握している様子で王都オフィキナリスから魔物討伐の依頼がこの国に届いた事実は無いという。
自国で解決出来る範囲なら滅多に他国へ依頼を出すことはない。王都エデンも戦力強化前は隣国へ依頼を出すこともあったが、冒険者のレベルが上昇するに連れて他国へ協力要請をする事は殆ど無いらしい。
その情報を得たフリードの引き出しは少なく、次の宛が無かった。その様子を見ていた受付嬢が一つ提案する。
「そういえばフリードさん。商人なら他国を回っているはずなので詳しい話が聞けるかもしれません」
「ありがとう。探してくるよ」
お礼を伝えたフリードは、憂い顔をした受付嬢の視線に気づくこともなく冒険者ギルドから出ていった。
ギルドから離れた場所にある市場は依頼を待つ冒険者の騒がしさにも負けず劣らず賑わっていた。各地の商品を熱く語る商人もいれば、王都エデンで作られた物をアピールして商人に買い取って貰おうとする者までいる。
商い中の賑わいをみせる隅で自分の馬車に顔を向けては呆れた表情をしつつ休憩している商人をフリードは見つけた。丁度よいタイミングだとフリードが判断して話しかける。
「訪ねたい事があるんだが今いいか?」
「お客さん申し訳ねぇ、アリシア製のポーションは売り切れになっちまった」
話しかけられた商人は目玉商品の有無をフリードに伝えたが、当の本人は目的が違うので豆鉄砲を食らった面白い顔になっていた。その様子を見て商人は間違ったかと頭を掻いて口を開く。
「おっと、ポーションじゃなかったか。ルーフェンの食器ならまだあるぜ? もしくは宝石に興味あるかな?」
荷台からイビキの様な異音が聞こえる中で商人は目まぐるしく商品を確認していた。
「申し訳ないが物を買いたい訳じゃない、王都オフィキナリスについて、知ってる事を教えて欲しいんだが……」
「あぁー、なるほどな。お客さんは物を買いに来た訳じゃねぇのな。冒険者に見えるんだが、そっちの商品が無くて困っていた所だ。丁寧な装飾が施された皿とかいらんよな」
がははと豪快に笑う商人が広げた風呂敷を見ると、他にも女性が喜びそうな宝石箱や小物入れ等も取り扱っている様子だった。
「んで、オフィキナリスについてだったな。暇だから丁度いいんだけど一つお願いがあるんだ。お客さんは見るからに腕っぷしに自信がありそうだ、それに雰囲気は優しそうな好青年で助かる」
商品を買う『お客』でも無いフリードは褒められて気が緩んだ。無口で真剣な顔をしたら体格も良く怖い印象の商人だが笑顔が絶えずフリードも話しかけやすい。
「俺に出来る事なら何でもいいぞ」
「おう、そうかい。それなら助かる。まずはえーっと、オフィキナリスについてか」
商人は先にお願いを口には出さずフリードの要望に答えた。
「お客さんも噂レベルで聞いた事があるかもしれないが、オフィキナリス周辺は魔物が姿を滅多に現さない。勿論、オフィキナリスの道中はちらほら出るが城壁に近づけば一匹足りとも見たこと無いなぁ。あと商人目線だと作物が良く取れるいい土地だ。国民も気さくな奴らが多くて楽しそうに生活している。魔物の心配をしてる事は無くて冒険者には不人気な場所だな」
商人から聞いた話だと平和な良い国に聞こえる。けれど、フリードには冒険者に不人気な理由が直ぐに思いつかないから訪ねた。
「どうして冒険者には不人気なんだ?」
「お客さんは冒険者として普段はどんな依頼を請けるんだい? このエデンでは魔物討伐の依頼が多いから想像しやすいはずだ。そう、冒険者の殆どは魔物を倒して生活してるんだろう? だからそういう冒険者がオフィキナリスで同じ様に生きようとしたら難しい。そりゃ平和なひとときを気楽に生活するなら絶好の場所さ」
商人の話でフリードは納得した。今のフリードがそのままオフィキナリスに行っても無職になる。だから従来の魔物討伐を基本にしている冒険者には不人気だと知れた。
「そのオフィキナリスには俺のような戦える冒険者は居ないのか?」
フリードは壊滅した国が魔物に対して戦力が気になっていた点を尋ねる。
「いや、そんな事は無いぞ。ん……ちょっとややこしい話になるな」
そう言って商人は暫く頭を抱えて口を開いた。
「冒険者って話だと正直な話……わからん。此処じゃ聞かないかもしれないが、オフィキナリスの第二王女が軍師と言われる敏腕らしくてよ。隣国のジェネラルでは冒険者を募って魔物討伐やダンジョン攻略をしていたはずだ。聴く所によると第二王女が居れば安全に魔物が倒せるとか。だから、オフィキナリスも戦えない訳じゃ無いと思うぞ」
詳しく分からんがなと商人は笑っていた。オフィキナリスの戦力に関して確証は無いが、フリードの思い浮かべていたオフィキナリスよりも戦力が強いと知れた。
では、どうして魔物にやられてしまったのかフリードは腑に落ちない。
「ありがとう。そういう感じの国なんだな」
フリードがお礼を伝えると商人が慌てだした。
「待ってくれ、まだまだ語れる事があるんだぞ? 商人界隈の話とか王様が表に出なくなってる原因の噂とかよ。とはいえ……もう知ってると思うが、オフィキナリスは無くなった。少しだけ様子を見たんだが、アレは魔物とかそういうレベルじゃねぇ。大災害にやられたような悲惨だったよ」
フリードはオフィキナリスについて、どれくらい戦力を持つ国か知りたかった。国の概要だけ聞けたので満足している。商人の話を真剣に聞いていたフリードは一つの約束事を思い出した。
「もう満足だ。たしか、一つお願いがあるようだったな」
商人は話し足りない表情をしながらフリードを案内した。馬車の後ろにフリードが立つのを確認した商人が荷台を開けて披露する。そこには、イビキを垂れ流しながら寝ている男が一人いた。
「ジェネラルって国から居候みたいな感じでエデンまで連れてきちまってな。しかも、この男はエデンに用があるらしいんだが酔い潰れてこの有様だ。是非、引き取ってくれ」
寝返りを打って腹をガシガシと掻きながらヨダレを垂れ流す男は服装もボロボロだったが幸せそうな表情で眠っていた。
「この男を引き取る……」
二度見するフリードに対して商人は笑顔で対応する。
「いやぁ、エデンで良い冒険者に出会えて嬉しいよ。ジェネラルから此処まで用心棒みたいに魔物を倒してくれたが食料も勝手に食べるし困ってたんだ。馬車に酔って気分が悪いと言いながら酒まで飲んで酔い潰れる馬鹿だから大変だけどな」
がははと豪快に笑って商人から男を渡された。フリードが男を背負うと商人は満足そうにしている。
「そういえば、お客さんの名前は? 俺はルーフェン出身の商人でミナトってんだ」
「俺はフリードだ」
「フリードのあんちゃんか。また会った時は何か買ってくれよな」
ミナトは馬車を引いてフリードから早々と離れていった。
背中の酔いつぶれた男をどうするか悩んでフリードは自宅へ連れていく事にした。
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