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冒険者が破壊する薄明の世界  作者: Yuhきりしま
~いずれ拳王となる狂戦士のソロ冒険者は酔っ払い勇者に絡まれて旅に出る~
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ドワーフの親心


 特訓はアレから暫く続いた。フリードは自分のスキルを把握する為に『狂戦士』を使う。そもそも他人がどういう風にスキルを使っているのかフリードは知らないが、スキルを使った感覚はたしかにあった。切り替えるように力がみなぎる感覚……成長するに連れて理解していたスキルは戦う相手から力を奪う事に他ならない。


 今まで戦えば戦う程に魔力が漲り身体能力が向上していたのは事実だ。アカリに至ってはゆっくりであるも力の使い方を学んでいた。人間と違いエルフは妖精との対話が必要らしく、たまにブツブツとお話している。


 誰もいない中で独り言を喋っている風に見られるからと、アカリはフリードに見ないでくださいと言っては距離を取った。


 結局のところ力は反復して感覚を掴む事が一番の近道である。自由に使える力を得る為にアカリは訓練場で植物を顕現させている。新人騎士育成に用いられるカカシ目掛けて種を飛ばして当てる練習やら、ハエトリソウに命令を与えていた。


 ハエトリソウは大きなギザギザの歯を持っており地面から根っ子を抜いては器用に動かし移動することも出来た。一匹のハエトリソウをぐるぐると動かし二匹目を出すとぶつかって事故に合うこともしばしば。完全に掌握するまで道は遠いらしい。


 そんな悪戦苦闘のアカリがフリードに言った。


「妖精さんがどうしても困ったら使って欲しい力があると教えてくれました。ふふっ必殺技みたいです」

「切り札はあるに越したことはないな」


 フリードにはそういう能力は無かった。全魔力を込めて放つ一撃が必殺技と言えるかもしれない。スキルが使えなくなり力尽きるのは目に見えているので道連れ同然の力だ。

 

 力の応用で必殺技に昇華する何かがあるかもしれない。その応用の前にフリードは基礎を改めて固めなければならない。


 魔力とは何なのか? スキルと向き合う時間が増えた。


 メアリとパーティを最初に組んだ時期を思い出す。駆け出しの頃はゴブリン相手に必死でとても苦労した。多数のゴブリンを相手に前線を張り倒せば倒す程に力が漲る。初めのうちはゴブリンに何度も攻撃して倒した、数体倒せば身体強化のおかげで数発でゴブリンが動かなくなる。


 魔力が尽きかけた時は一発でゴブリンは死んだ。それからメアリが頭角を現しランクの高い魔物と戦うようになった。


 そこでメアリとメンバー間で実力が開いて行き、魔物が多ければ辛うじてフリードだけがメアリの後を追いかける形に変化していく。そして、メアリについて行けなくなってパーティが解散した。


 解散後のフリードは暫くソロで活動し低ランクの依頼を長い期間やった。メアリのお陰もあり上のランクと戦えるようになったフリードは次第に全力を出す必要が無くなっていく。


 魔力が尽きるのも珍しくなり、同ランクの魔物なら苦労しなくなった。


 この時点で変化が起きている事に気づいても良かった。スキル『狂戦士』を使って沢山の魔物を倒していたはずなのに、数体の魔物を相手にするだけで依頼を終わらせていた。


レオンと出会いエルフの里でオークやミノタウロスと戦った時が久しく大量の魔物にスキルを使った。そして、ベリアルに全力を出して負けた。


 冒険者を始めた時――メアリとパーティを組んでいた時代のフリードだったらAランク相当の難易度となるミノタウロスに勝てる訳がない。駆け出し冒険者の御用達ゴブリンに苦戦していたのだ。


 何故、ミノタウロスを倒せるようになったのか……フリードは一つ仮説を立てる。


 メアリの成長速度が早すぎた。圧倒的に先へ進んだメアリと違って鈍足なフリードがゆっくりと力をつけていた。


 魔物を倒し続けてフリードは強くなりAランクのミノタウロスへ手が届いた。ベリアルに全力を出したフリードは余力を残した状態で勝てるまでに成長している。


 魔力を殆ど使うこと無く魔物を倒していた時期を考慮すると、力の使い方は昔から変わっていない。実力が追いついて魔力を込めなくてもある程度の力を発揮できている。


 アカリとの特訓時も弱っていたとは言え、ベリアルの力を受けても身体は無事だった。フリードが想像するよりも耐久力がある。


 冒険者としての力は着実と伸びている。でも、昔と同じ様なスキルの使い方をしていた。


 そこにヒントがある。


 偶然にもフリードは恵まれている、メアリの言葉を信じて王都エデンに来た勇者――レオン・ジュピター。


 王族でありスキル『バトルマスター』で武器の力を最大限に活かす彼と同じパーティに所属していた。


 だからこそ、本人に尋ねて見れば良い。


 アカリは自らが生み出したハエトリソウにふとももをコツンと甘えるような動きにどうしたらいいのか分からない様子であたふたしていた。そんな時に来て欲しい男が姿を見せる。


「よぉー、てめぇら元気かー」


 レオンが髭をはやしながら城内に居ないパーティメンバーの様子を伺いに来ていた。


「元気です!」


 言葉通りの元気な声をだしたアカリの足元を見たレオンは怪訝そうな顔となる。


「うえぇ、へんな生き物がいるぞフリード」

「アカリの力は他にもあってな。その一部の力らしい」

「趣味わりいな。うじぁうじゃした根っ子の足はキモいし、頭は口じゃねーか。ギザギザの歯とか噛まれたらヤバそう」


 見た目から批判するレオンにアカリはほっぺを膨らました。


「結構頼りになるんですからね」


 アカリとレオンを見比べるように動いたハエトリソウはカサカサと足を動かしてレオンの足元に移動した。そして、大口を開けてガッチンと自慢の顎を見せつける。


「ま、まぁ。敵じゃねーならいいや。知らんかったら斬ってたわ。そういえばドランから連絡が来たんよ。後で行くぞ」

「あぁ」


 訓練所に通って三日程の時間が経っていた。気がつくとレオンの剣を作ると言って四日近く時間が経過している。返事をしたフリードだが、一緒に行く理由は見つからなかった。それよりも、用事がある。


「レオン。魔力を使う感覚ってどんな感じだ?」

「魔力だぁ? そりゃスキルを使おうとしての……元気みたいなもんだろう。やる気か? 魔力が無くなったらだりぃよな」


 魔族も人間も魔力が無くなった時の状態は似ている事を学んだ。


「スキルに魔力を使う感覚……といえばいいか」

「雰囲気だろそんなの。なんて言えばいいんだ? 一回試すか」


 そう言ったレオンは両手に弓と矢を握りしめ弓兵テミスの技量を得る『バトルマスター』で訓練用のカカシ目掛けて矢を射った。


 真っ直ぐと綺麗に矢はカカシの頭部目掛けて突き刺さる。


「弓の練習なんてしたことねぇけどよぉ。魔力を込めればこんなもんよ」


 フリードは弓兵テミスを知らない。昔から語り継がれる物語の住人であり、実在したのかも分からない。もし、存在するなら人生を掛けた訓練で得た技量の可能性もある。


 訓練なしで人生を掛けて習得した技術を使う。


「あぁ、そうだ。あとよぉ」


 二本目の矢をレオンは構えた。


 先程と同じ様にカカシを狙いつつ口を開く。


「ワイバーンは流石に遠すぎたが、いつもより魔力を込めれば……」


 ひゅんと風を斬る音と共にカカシの頭が吹っ飛んだ。


「どうやら魔力を込めればその分だけ弓兵テミスの力が使えるみてーだわ。そういえば、剣聖フラガの奥義はめちゃくちゃ魔力が無くなる覚えがある」


 魔力を込めればスキルは力を発揮する。至極自然な仕組みではある……魔力を元にスキルを使うなら込めた魔力の分だけスキルが使える。強力な力を引き出す為に魔力が必要なのだ。


「何となく分かった気がする」

「おう。んじゃドランのところに行くぞ」


 フリード達の会話を聞いてアカリも声を上げた。


「私もついていっていいですか?」

「つまんねーと思うがいいぞ。ただ剣を拾いに行くだけさ」


 小首を傾げながらアカリがハエトリソウと一緒に支度を始めた。










 ジェネラル城から約一時間離れたところにあるドランの工場に三人は向かう。


「それにしても、どうして俺まで行くんだ?」


 素直な疑問である。剣を受け取るだけならばレオンが行けば済む話だ。


「俺様が知るか。あいつが呼んでたから諦めろ」


 練習を兼ねてアカリは途中までハエトリソウを出していたが何度も草むらで見失いそうになったので仕舞っていた。アカリの指示に従わない自由な動きにフリードは疑問を持つも、ドランの工場が見えてきたので口には出さなかった。


「お、いるじゃねーか」


 工場入口にドランが椅子に座り日向ぼっこしていた。


「よっ。女連れとはチビすけも隅におけんな。きゃははっ」


 フリードの顔を覚えていたドランがアカリを指さしながら笑った。


「この子がドランさん?」

「あぁ、噂によると俺達よりも歳上らしい」

「ドランさん。アカリです」


 丁寧にアカリはお辞儀をするとドランは満足そうにしていた。


「小僧と違ってねーちゃんは礼儀があるな。おい小僧もみならえ」

「早く剣をよこせや。金も用意したからな!」


 袋を差し出すレオンはとても帰りたそうにしていた。


「流石に眠いから手短にな。ミゼリ!」


 ドランの呼び声に応えるミゼリが船を漕ぎながらよぼよぼと姿を現した。


「どらーん……呼んだぁ?」

「小僧が金を持ってきた。奥にしまうぞ。戸締まりもついでにやるか!」

「くそがき。そのまま逃げる気か?」


 話を聞くとドランは殆ど寝てない。金属を冷やす間は仮眠をとっていたらしいが、四日間で十時間も寝ていなかった。それに付き合うミゼリも同じ時間を起きているみたいで目の下が真っ黒になっている。


「剣ね……どらーん……どこに置いたー?」


 大欠伸をしながら今にも眠りそうなミゼリはお金を受け取ると工場に入っていった。


「流石にミゼリも限界かったく。最近の若いもんは……」


 見た目が十歳の子供が口にするセリフとは思えなかった。椅子からひょいっと立ち上がり大きく背伸びをしたドランも工場に入っていく。暫く待っていると地面に剣先を引きずりながらドランが姿を見せた。


「まさかその剣……」

「でかいからしかたないな!」


 ドゥロライトと呼ばれるAランクの鉱石を加工した剣の扱いは雑だった。


「鞘はどこだ」

「前のと一緒だ。大きさも完璧」


 レオンはぼろぼろになった剣を手に取り出し抜いた。そして、奪い取るかのように新しい剣を貰って鞘に収める。


「お、まじじゃねーか。あんがとな帰るぞフリード」

「まてまてまてー」


 雑に扱う剣とは逆の手に持っていた篭手をドランはフリードに手渡した。


「チビすけ。着けてみろ」


 言われるままにフリードは手を通した。椅子の隣にあった台で雑にドランが微調整を加える……そして、説明を始めた。


「あの時の金属を篭手にした。チビすけにくれてやるぜ。実は搾り取ってやろうかと思ってたけど、礼儀をわきまえたねーちゃんに免じてタダだ」


 荷物運びのお礼だろうと察してフリードはありがたく受け取る。銀色に輝く右手は握りやすかった。


 手首から腕までを覆う金属はあの時のダンジョン報酬で得た素材。ドランの説明によると魔力を込めれば右手首から指先まで力の方向を反転させる能力があるらしい。肉体で戦うタイプのフリードにとって初めての武器らしい装備だった。


「ありがたく使わせてもらう」

「ただ、難点があってなぁ……魔力消費が激しいんだ。調整とかにワイバーンの魔核から抽出した魔力がすっからかんになっちまったわーあはは」


 フリードが受け取る間もレオンはさっさと行くぞとセリフを残して城に向かっていた。


「フリードさん私たち……置いてかれてますね」


 後ろ姿が米粒になる頃にフリード達も支度を終えた。


「チビすけとねーちゃんさ」


 あくびをしながらドランは言った。


「あの小僧を宜しくな! 今度は簡単に壊れない剣ができたとおもう。あの剣より強いのを作るにはミスリルって石が必要なんだけど、めっちゃレアなんよ」

「レオンなら心配要らないだろう」


 そう言って二人はレオンの後を追った。ドランの見送る目は子供っぽさが無くまるで親のように見えたミゼリが口を挟む。


「どらーん。めちゃくちゃ心配なんだねー」

「このドラン様から見ればあいつらは赤子も同然だからな。ふっ」


 今日は閉店だと言ってドワーフ工場はお休みを頂いた。

【読者へ作者からのお願い】


この小説を読んで


「面白い!、続きが楽しみ!」


と一瞬でも思われたら、↓の★★★★★を押して応援してくださると大変、やる気に繋がります。


よろしくお願いします!

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