勇者の訓練(ア・カリオス・シルヴァ)
エリザに出会いフリード達は日が暮れ松明の明かりで照らされていた訓練場に移動した。
ジェネラル城の入り口から正反対に広場があり、城を守る騎士達が訓練する場所となっている。
城を守る騎士は一定の強さが求められている。冒険者の様にスキルを主力とした戦力という考え方を持ちつつも、武器を用いた訓練により一定の強さを保っている。スキルに依存しない技術があれば一定レベルの魔物が城を襲っても対処することが可能になっている。統率の取れた動きは戦力を大幅に高める要素として機能し、長期間の戦闘を視野に入れていた。
魔力が無くなったら大幅に戦力を落とす冒険者との違いである。フリードのようにスキルを使わなくても鍛え上げた肉体で魔物と戦える。流石に武器は使用するも、冒険者と騎士の違いとしては基礎戦闘力の差が明確になっていた。
高ランクの冒険者になれば、素の戦闘力も高くなり冒険者を引退し騎士として城へ務める者も現れる。
何より、危険性が段違いに違う。それにも関わらず生きる面を視野にいれるなら騎士を目指すのも一つの大きな選択だった。
魔物を倒し依頼をやらなければ行きていけない冒険者と違い、王都ジェネラルから賃金が安定して支払われるため冒険者あがりの騎士は強力な力を持っている。王都オフィキナリスが健全な時はルナ・オフィキナリス率いる騎士が大規模ダンジョンを攻略する程である。
実際、駆り出されていたレオンは冒険者であり騎士の立ち位置を持つ。
「やっぱり動きやすい服が一番ですねぇ~」
きらびやかなドレスを脱いだアカリは動きやすい服をエリザから受け取り着替え終えていた。
「流石にあの服装で特訓は無理だな。まずはアカリの訓練を主にやろう……何か力を使ってみてくれ」
準備運動を終えたアカリがすぅーっと息を吸って自分を落ち着かせるように深く吐いた。同時にゆっくりと目を瞑り……開くと漆黒の視線は冷たく雰囲気が変わる。
「まずは……これです」
地面から人を隠せる程に大きな緑色の葉が生えてフリードを包み込んだ。ベリアルが来た時に使った防御に重きを置いた力だ。その力はフリードを全方向から守る。
「これは強力な防御だと思うが、相手の姿が見れない。遮蔽のように一面だけ守ることは出来るか?」
「やって……みます」
蕾が花開くように何枚も重なる葉が開くと、まるで生き物みたいに動いてフリードとアカリの間に立ちふさがる。
「出来ました」
「上出来だ。相手の攻撃に対して瞬時に展開出来れば十分だろう。あと見たことあるのは広範囲に焼き尽くす力だが……アレ以外は何が出来る?」
「えっとー、聞いてみます!」
アカリはぶつぶつと呟き始める。エルフの特徴である妖精と話をしていると思うがフリードに妖精の声は聞こえない。亜人ごとに特殊な能力があるのは驚くばかりである。
「行きます。テッポウ!」
呟くアカリの言葉に応じるように地面から背の高い茎が生えると大きく膨れ上がった蕾が姿を現した。へびのように頭部を動かし狙いを定める。
「種が飛ばせるみたいです」
「試してみてくれ」
ぽんっと酒を開けた時のコルクに近い音がフリードの耳に入ると地面がえぐれた。拳大の弾丸が高速で射出され構えていたフリードは呆気にとられる。
予想外に早い攻撃に驚きを隠せない。遠距離かつ、高速の攻撃は避けるのも困難だ。
「あ、あぶない」
フリードの足元近くへ当たった弾丸にアカリが焦る。
「大丈夫だ。それにしても……凄いな」
現状は上手く制御出来ていない力ではあるも、完全に掌握したらワイバーンも全部撃ち落とせる力があるとフリードが判断した。射程距離も知る必要があるも、弾丸を飛ばす力は安全圏内で魔物を倒せる武器となる。
「練習しないと駄目ですね」
「あぁ、まずは自分の力を把握しないと始まらない。他には無いか?」
妖精の力をフリードは目の当たりにした。パズルツリーと呟いた後に現れた物は地面を掘削するドリルの様に鋭い葉が回転して訓練場を耕す。
次にハエトリソウと呟く。ゴブリンサイズの植物が姿を現してフリードに噛みつこうとした。
慌ててやめなさいと命令するアカリの顔面が蒼白になりハエトリソウは消えた。最後にモルデュールと言ったアカリの手に螺旋状の弦が現れ槍の様に見えた。
蓋を開けると妖精の力――近距離と遠距離も対応できれば広範囲さえカバーしている。自動で敵を襲う手下も強力でたったのひとり居れば軍隊と言える力だった。
「まずはこの力を使いこなさないとですね」
「あぁ。好きな時に使いたい力を使えるようにしないとな。遠距離は命中率を上げて部下の命令も大事だ。味方を撃つ事無く、味方を襲わない軍勢は非常に強力だ。アカリの力が実践で使えるようになれば大きな戦力となる」
ぐっとガッツポーズをとったアカリは自分の力が役に立つ事に対して安心した様子だった。
もしも……アカリが悪いエルフだとしたら世界が大変になる事は想像出来てしまった。圧倒的な範囲で焼き尽くし堅牢な壁さえも貫く……自分が動かなくても大量の部下を出せば不利さえも覆せる。
離れて攻撃しようにも弾丸が飛び交い混沌のエルフを倒すのは至極困難となる。人類と敵対するエルフがこの力を持っていたからこそ物語として今もなお、語り継がれている。
「次はフリードさんの特訓ですね」
「あぁ、でも俺はアカリと違い、出来ることはこれしかない」
スキル『狂戦士』は魔物から力を吸収する。そして、自分の力として蓄え大量の魔物と戦うことが出来る。敵を倒し続ければその分だけ強くなり魔力が尽きれば元に戻る非常に扱いが難しいスキルだ。
「あれ?」
何か気付いたアカリが不思議そうな表情を浮かべた。
「どうかしたか?」
「ひとつ……気になったんです。私は妖精さんが教えてくれるんですけど、フリードさんはどうやってそのスキルを知ったんですか?」
今まで疑問に思わなかった。スキルという物は子供から大人に成長する過程で当然の様に得る力であり、人間にとっては『何故か分かる』物である。喋る能力や走る能力に疑問を持つことが無かった。それと同じ様にスキルが不思議な物だと認識していない。
「私たちエルフと違って人間は色んなスキルを持ってますよね?」
「そうだな。俺からは生まれ持って知ってるとしか言えない。メアリのように影を自在に扱う冒険者も居れば、俺みたいに自分を強くするスキルを持ってるヤツもいる」
うーんと唸りながら考えるアカリは思いついた事を口に出す。
「フリードさんと同じ様なスキルを持ってる人にコツを教えてもらうとか……意外とレオンさんが詳しかったり?」
「メアリとパーティを組んでる時に居たメンバーで似たスキルを見たことがある。そいつは魔力を使った分だけ肉体が強くなっていた。魔力が無くなれば戦えない点は同じようだな」
特訓の為にまずは身体を動かし訓練場へ向かったが、やり方が分からない。始め方さえ不明で途方にくれてしまった。
そんな二人の元に一人の人物が姿を見せる。勇者パーティに加入したベリアルは怠そうな顔で声をかけた。
「あーん。変な魔力だと思ったらおまえらか。暇なのか?」
「フリードさんの特訓中です」
ふんっと鼻息荒いアカリの言葉を聞いてベリアルが吹き出した。
「はっはーん。特訓だぁ? いらねーだろ」
嘲笑うベリアルをフリードは理解できない。
「どういう意味だ?」
真剣な面持ちに笑っていたベリアルは頭を抱えだした。表情と状況から本気だと読み取りベリアルは言った。
「続きでもしよーか?」
ベリアルの背中から翼が生えた。訓練場が眩しくなったと思った瞬間――フリードは地面を転がっていた。
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