自由時間の使い方
到着した頃と比べると日も傾きジェネラルが表情を変えつつあった。騒いで自由に盛り上がる商店街はしっとりとした雰囲気に包まれる。ジェネラル城に到着したフリードは城内のお手伝いさんに案内された。
結局、ドランが剣を作るのに暫く時間がかかる。よし作るぞと決めて数時間で仕上がる代物でも無く当然の結果ではある。
だからフリード――勇者パーティ御一行はジェネラルへ足止めを食らう事になった。リーダーであるレオンの装備が整っていない状態でオフィキナリスに向かえない。惨状を把握したい気持ちはあれど、仲間を危険に犯すのはお門違いだ。
フリードはレオンよりも大人という自負があるからこそ、快く受け入れた。
暫くの休憩期間。王都エデンからジェネラルまでの道筋は色々とあり二人だったメンバーも気づけば四人となっている。
そんな事を考えているフリードが休んでいる部屋は城内にいくつかある客人を迎える為の場所。
装飾がキラキラと城へ来客する貴族、王族向けの部屋は眩しくて少しだけ居心地が良くない。エデンで生活していたフリードがこういう場所で過ごすなんて想像出来なかった。
なによりレオンが王族だったことに対して驚きが大きい。
「フリードさん」
ちょこっと扉を開けて女性がフリードに声を掛ける。手には丁寧にポットとカップが乗ったトレイを持った美しい女性……王族の様に華やかなドレスは部屋の証明が反射してキラキラと輝いている。
眩しい光に目が眩みつつもフリードは顔を見た。想像できない額であろうティアラが目立つ女性の正体……アカリだった。
「別人かと思って身構えてしまった」
「わ、私も……こんな高そうな服と装飾品を身につけるなんて想像してませんでした」
話を聞くとレオンの妻であるエリザにあれよこれよと嵐のように捲し立てられて気がつくと姿が変わっていたらしい。
「お風呂とかとっても大きかったです。あとこれ……エリザさんがフリードさんにも是非とのことです」
慣れない手付きでカップに紅茶を注いだアカリがフリードに手渡す。
「ありがとう」
緊張した面持ちでアカリはフリードの側に座って様子を伺う。見られながら一口つけるとフリードは口を開いた。
「レオンの剣が暫く掛かるらしいからジェネラルで過ごすだろう。宿は心配ないと思うがそれまでどう過ごすか悩むな」
「うーん。それって新しく剣を作るんですか? 買ったら早いと思うんです」
アカリもフリードと同じことを考えている事に気が緩んだフリードを見てアカリが慌てた。
「わ、笑われてしまいました……」
「すまない。そうだな……ドランという鍛冶師の腕を信用しているみたいだった。あの様子だと彼が作る剣しかレオンは求めていないだろう。剣がどれくらいで作れる物か知識がないから先は見えないな」
約一週間くらいだろうとフリードは予想していた。ドワーフの特性は姿に合わない怪力に職人気質と話を聞いた。モノ作りに没頭し易い性格で打ち込むと脇目も振らず走り続けるらしい。
「じゃー、一週間はのんびりなんですね。その間は何をして過ごしましょう?」
「そうだな」
自由時間の使い方は考える必要がある。このジェネラルの冒険者ギルドへ行き依頼を受けるのも良いだろう。レオンと違い身体一つで依頼が出来るフリードの利点だった。難易度の高い依頼があれば強い魔物と戦うことも出来る。
勇者パーティの中で圧倒的に戦力不足を実感しているフリードにとっては時間の使い方が非常に重要だ。このまま城でゴロゴロと無駄に過ごすのは勿体ない。
「時間があるので私は練習してもいいかもしれませんね」
「練習?」
「はい。まだ力の使い方とか分からないので少しずつ試さないとって考えてました」
混沌のエルフであるアカリは凄まじい力を持っている。それを隣で見たフリードは羨ましくもあった。フリードの持っていない圧倒的火力に加えて大勢を守る力がある。それは力の一端であり底は知れない。
「アカリは強力な力を持っている。俺なんかじゃ足元にも及ばないだろう」
「そんなことないです。フリードさんは頼りになります」
過剰評価だと感じるフリードは表情を明らかに暗くしてしまい、それに気づくアカリは慌てていた。フリード自身も頼りにされていると言葉にして受け取る事が多い。メアリとパーティを組んでいるときも前衛を担当し頼りにしてるって良く言われた。
レオンも同じだ。メアリの言葉を信じ切ってフリードに大きな信頼を向けている。
期待……その重圧はフリードに大きな負担を与えていた。
「俺の力はみんなとは違う。出来る事は肉体の強化でしか無い……目の前で見ていただろう。ベリアルの一撃で魔力が尽きた俺は無力な人間だった。あの場にレオンが居なければ俺達は死んでいただろう」
全ては真実で偽り無く相対的に見ても万人が同じ評価を下す。実際、隣で話を聞いていたアカリは言葉を失った。
妖精王の力を使った直後にアカリが出来たのは近くの人を守るだけ。葉の揺り籠でみんなを包んで炎から助けることしか出来なかった。
混沌のエルフは恐れられている。小さな頃からエルフの里で語り継がれる物語――世界を荒らす存在で冒険者に討伐され世界が平和になるお話……それを知っててなお、エルフの里でアカリは送り出された。歴史を振り返ると死罪になるにも関わらず。
そんな里で生まれたアカリはなるべく力を使わないように生きた。でも、今は違う。
この力があったからミノタウロスを焼き払いダンジョンを攻略できた。そんなアカリは考えが纏まらずフリードに掛ける言葉も思いつかないまま口を開く。
「フリードさん!!!」
突然の大声にフリードは驚いた。そして、アカリの口から告げられる。
「特訓しましょう」
「……特訓?」
アカリ自身も力の制御や使い方を学ぶ必要があり、自分の力に疑念を抱いていたフリードに絞り出したひとこと。
それが特訓。
「ジェネラルなら何処かに広場もあるはずです。さっそく行きますよ」
そう口走り勢いよく立ち上がった。アカリは慣れないドレスに足を引っ掛けてしまい顔面から地面に倒れかけた。
そこを反射的にフリードが抱きかかえて事なきを得る。
「危ないな」
太くゴツく逞しいフリードの腕が、アカリの腹を支え洗濯物みたいに干されたアカリは笑顔で言う。
「ほーら、やっぱり頼りになります」
抱きかかえてそのまま立ち上がるフリードはアカリを立たせる。アカリから顔を反らしてフリードは言った。
「エリザかレオンに場所があるか訪ねよう」
「はーい」
二人は客室を後にした。
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