謎のダンジョン報酬
魔物を討伐することで冒険者は報酬を得ている。脅威が去る事により対価を貰うと考えれば納得も出来た。そして、毛皮が必要なら納品する依頼も稀にある。
フリードの経験上、魔物から得れる石――魔核を納品したことは今まで無かった。
そもそも石を手に入れても食べれるわけでは無い。ドランのように収集癖がありそうな人物ならコレクションとして集める可能性は否定できないが、依頼する必要は無いだろうとフリードは考えている。
魔物が現れた地区の安全を得るためにギルドへ依頼を出す。
依頼主はお金なり物なりで出費をしていた。そして、毛皮や角を求める場合は追加の依頼費がかさむ。
フリードにはゴミにしか見えない魔核に価値があるとは思えなかった。だからこそ、大量の魔核を手にするドランに疑問を抱く。
「その石は何に使うんだ?」
「よく聞いてくれたチビすけ」
フリードの疑問に対してドランは調子良く答えてくれた。
荷物持ちとして気に入ってもらえたらしく、ドラン曰くアリシアから来たミゼリという少女が魔核を用いて道具に能力を付与する力を持っているとの事だ。ドラン自身も鍛冶師として能力を持っているらしく、最近は作った道具に効果を付与して遊ぶ趣味が出来たと笑いながらフリードに教える。
ドランはドワーフとしての特徴も教えてくれた。王都エデンでは亜人を見掛けずエルフのアカリにも驚きが会ったフリードは同じ様にドワ―フの特徴にも驚く。
子供の風貌だがドランはフリードよりも遥か歳上だった。『チビすけ』と言われても不思議じゃない年齢差と見た目の若さは騙されていると思える程に現実離れしている。
そして、ドワーフの見た目が若い特徴の他に『力持ち』ということを目の当たりにした。
フリードでもキツイ荷台を試しにドランに引いて貰うと同じ様に動かすことが出来た。本人は疲れるからチビすけが居て助かったわーと笑顔で口に出す。
ドワーフは良く笑う。ほぼ無理やり手伝わしているドランには悪気がないらしくフリードも気にならなかった。
「うし、見えてきたぜ」
大きな工場のように見える建物に到着した。煙突からは煙が出ており、ドランと同じ様に小さな子供があせあせと忙しそうにしている。そして、見覚えのある男が一人。
「よぉー、ドランおせーな。つかフリードもなんでだ?」
勇者パーティであるレオンがそこに居た。
「うるせーぞ小僧。ドラン様の作ってやった剣をぼろぼろにしやがって!」
なるほど……そういえばドランという名前には見に覚えがあった。レオンはドランに会いに城を出ていった。そして、鍛冶師ならば剣の調達が目的か。
「ドランてめぇがもっと強い武器を作ればなぁ! 俺様もわざわざおまえのとこに来ね―んだよ」
相変わらずの態度にフリードは落胆する。ドワーフという特徴を知らなければ小さな子供に態度の悪い大人……悪者は一目瞭然だった。
「小僧よりもこのチビすけは良いやつだ。荷物を運んでくれたからな」
「おうおうドラン。ウチのパーティメンバーを勝手に使うたーどういう了見だ?」
おまえはこいつの手下だったのかと酷い顔をするドランにフリードは弁明する。
「偶然だ。レオンが何処で何をしていたか俺は知らなかった」
誤解をといてフリードはドランの味方に立つことにした。
「それよりレオン。おまえは武器の調達を頼む方だろう。もう少し態度を改めてはどうだ」
「よく聞けフリード。俺様とドランは残念な事に付き合いが長い、今までどれだけ俺様が苦労したと思う? やれ純度の高い鉱石を持って来いだの、オークションに珍しい石があるから競り落としてこいだの。こいつはサイズが小さいけど巨悪だ。なんど俺様が隠れて金を使ってきたと思う。俺様が貧乏なのはこのクソガキが原因と言っても過言じゃねぇやい!」
よく考えるとドランというドワーフはその場にいたフリードに対しても手伝いをさせた実績がある。剣を作ろうとしてもらうレオンが小間使いの様に様々な要望を叶えている様子は想像しやすい。
「忙しいのに小僧が武器を作れとうるさいからだ。しかも大切に使えない馬鹿者と来たら話になんねーよばーか!」
「んあ。このドチビが調子にノリやがって、てめぇの腕が悪いにちげえねぇ」
がやがやと言い合いの声を聞いて建物から一人の少女が姿を現した。長い髪に褐色の肌が特徴的な十代の垂れ目な少女は頬を煤で黒くしながらドランを見つけて話しかける。
「ドラン持ってきた―?」
「ミゼリ! コレを見ろ。小僧が言った通り山ほどあるぞ!」
ワイバーンから得た魔核に目を輝かすミゼリと言われた少女はレオンの元に駆けより何かを受け取った。
箱を開けて中身を取り出し――見覚えのある箱にフリードは驚きつつレオンに問い掛ける。
「あれは……エルフの里でダンジョン攻略時の報酬じゃないかレオン」
「そうそう。アカリに開けて貰ったんだがよぉ。中身が意味分からん。武器なら使ってみるんだけどアレだ」
ミゼリの手元を見ると銀色に輝く金属の板が姿を見せた。フリードの持つ知識としてはダンジョン報酬で素材が出た話を聞いたこと無い。普通はそれこそ武器や防具に道具が多い。冒険者がそのまま使うか適正がなければギルドに売ることで報酬が貰える。
例えば、剣士が剣を手に入れれば活用できるだろうが、斧や鞭を手に入れても腐るだけである。手持ちで保管するだけならギルドに売って必要とする者の手に渡ってもらう方が良い。
何より、最近はダンジョンの出現率が上昇してダンジョン報酬にも様々な物が出てきている。武器以外に身体能力に影響を与える物や、農業がしやすくなる道具も存在する。魔物と戦うだけの冒険者では無く、作物を育てる生産者にとってもダンジョン報酬には注目度が上がっていた。
その報酬をミゼリが手に取り、じーっと裏や表を凝視すると眉間に皺を寄せながら難しそうな顔をして呟いた。
「これ……どうしよう」
「もっと魔核を使っていいぞ!」
ワイバーンの魔核をミゼリにせっせと渡すドランを見守る。
「おいドラン。その金属で剣とか作れば強いのが出来たりしないんか? どうにかしてよぉ……」
城からドランの工場に足を運んでは手伝うことも無くあくびをしながら待っていたレオンが退屈そうにしている。
フリードがドランの手伝いをする事になったのも全てレオンがサボっている事実にフリードは気付いた。その間もミゼリとドランはごにょごにょと呟いてドランがとことこ歩きハンマーを手に持ってきた。
そして、レオンにハンマーを手渡して告げる。
「小僧、全力でこいつを振り下ろしてみろ。全力だぞ! ぶっ壊すくらいの気持ちでいけ」
「叩けば何なのか分かるってのか?」
ギルドに売ればいくらの値段が付くのかさえ分からない報酬に対してレオンは両手でハンマーを思いっきり振り上げる。そして、笑顔のまま全力で振り下ろした。
全体重を乗せた渾身の一撃は報酬の金属を含め、地面まで抉るような威力があるとフリードは思えた。ハンマーと報酬の金属同士がぶつかり合う音は不思議と鳴り響くことは無く。
フリードの耳に入った声はレオンの悲鳴だった。
「うおおおおうぉあっ」
振り下ろしたレオンが大きく空高く飛び上がった。何よりハンマーが弾かれるように上空へ飛び上がり、強く握るレオンがそのまま引っ張られて後頭部から地面に激突した。
「あーっはっはっはっ小僧、大丈夫か」
絶対に心配していないドランが涙を浮かべ腹を抱えていた。
「はぁ? んだこれ。おいフリードお前にしか頼めねぇ」
全てを察したフリードは深く深い溜息を吐き、嫌な顔でレオンに尋ねた。
「ちなみに、何を頼もうって言うんだ?」
「全力全開の本気も本気であの金属をこのハンマーで木端微塵にしやがれ」
「おい、アレは一応ダンジョン報酬だぞ」
エルフの里で大量の魔物を討伐して得る事が出来た大切な報酬……それを全力で壊せとパーティのリーダーが指示していた。
「構わねぇ。むしろ逆だフリード、あんなに苦労した報酬が簡単に壊れるゴミならいらねぇ。お前の全力でぶっ壊しちまえ。そして、次いでにドランも吹っ飛ばせ」
頭に血がのぼるレオンは完全に笑い転げているドランに敵意を見せていた。
「貸してみろ。本当に壊していいんだな。ドラン……俺は今から全力でこの金属を叩く、壊れても恨むなよ」
「あーひゃひゃ。チビすけがチャレンジか。小僧よりは見応えありそうだなっ」
イライラ度マックスのレオンが全力で応援した。
「いけやフリード。てめぇの全力を叩き込めや!」
ワイバーンの時はベリアルが一人でやってのけた。だからこそ、フリードは万全の体調と言える。そのフリードがスキル『狂戦士』を使った。フリードの持つ魔力を元に身体能力の向上……魔物と戦い続けることにより本領発揮するスキルだが現状は周りに魔物がいない。
レオンの言葉は全力全開の本気でハンマーを振り下ろせという内容だ。あの時――ベリアルが初めて出現した時を思い出しながらフリードは魔力を絞り出し全身の筋肉を使ってハンマーを振り下ろした。
狂戦士を使ったフリードの身体能力は向上される……それは視力や聴覚といった五感も含まれていた。
だからこそ、ハンマーが金属に当たる瞬間が良く見える。コレでもかと勢いを乗せたハンマーが金属に当たる瞬間……何故かハンマーの頭が触れること無くフリードが勢いよく浮いた。レオンの三倍は高く真上に吹き飛んだフリードはレオンと違い着地に成功した。
「小僧よりチビすけの方がすげぇぇぇ。小僧ってよえええええええあははははは」
「あぁん? うぜぇぞドラン。それより何だよこの金属はよぉ……俺様のパワー不足を疑ったがどう考えても違う」
小僧の矮小な脳みそで理解できるかなぁーとドランが煽り説明を始めた……語り手は褐色の呪い師――ミゼリ。
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