メアリって誰……ねぇ?
フリード達は王都ジェネラルに足を踏み入れる。王都エデンよりも建物が高く、街を行き交う人々も多かった。
馬車をレオンの指示で動かしていると城の前で止まった。
レオンが馬車から降りて衛兵に話しかけるとレオンがパーティメンバーに言った。
「はやく降りてこい」
全く王都に来てさっそく城に向かうとは……衛兵に止められて当然だろう。
「ベリアル行くぞ」
「ぉお!?」
荷台で寝ていたベリアルを起こして馬車から降りた。レオンを見るとお構いなしと言った様子でつかつかと進んでいく。
フリードは衛兵を見ると緊張した様子でレオンを見送っている。
「置いて行っちゃいますよ」
「あぁ」
どんどん進むレオンを見失うのはダメだと判断し、アカリの言葉でフリードは足を前に出す。
道中すれ違うは使用人が多く、驚いた表情でレオンをみんなが見ている。中庭を抜けて城の中心から階段を登り上層へと向かった。
違和感の答えを貰う事は無くフリードは静かにレオンの後を追い、アカリは物珍しそうに城内の装飾に目が奪われていた。キラキラと輝く宝石が散りばめられた壺や。大きな絵画をじーっと見ては躓きそうになる。
ベリアルは調子が上がらないのか大欠伸をしながらフリードの後ろからついてくる。
衛兵にも止められず使用人も驚きはするが、不審には思っていない様子から察する。
一際、目立つ扉の前に立ってレオンが一呼吸置いた。今まで迷わず進んでいたにも関わらず間をあけて両手いっぱいに力を込めて扉を思いっきり開けた。
「くそ儀父は居るか? 俺様が帰ったぞ」
そう、レオンがもしも王族やそれに連なる地位を持つ者なら家に帰るくらいの感覚で城に入るだろう。
『すぅーーー、はぁぁぁぁぁぁぁ』と重く長い溜息が聞こえて頭を抱える王が其処に居た。
「よく帰った。人払いを頼む」
王は隣の使用人にしては豪華なドレスを着た女性に告げると王の間から人を追い出した。フリードの判断になるが貴族も含まれているように思える。つまり、現在は勇者パーティと王に美しい女性がこの場に残った。
「このバカに付き合ってくれて感謝する。私がジェネラルの王――ストルス・グローリーだ。全く急に飛び出したと思ったらお前は……」
呆れた様子でストルス王が頭を抱えた。
「ガルド炭鉱の開発や王族周りの依頼でお前が居なくて苦情が多くて困っていたぞ」
「んなもん、適当な冒険者に依頼を出せば事足りるだろうが。それより、俺様のパーティが完成したぞ」
そう言いながら後ろに立っていた俺達を見ずにレオンは指をさしてアピールする時にフリード達が入った扉とは違う扉がゆっくりと動いた。
そこから十歳くらいの小さな子がこちらを伺う。
「パパ―!」
そう叫んで子供がレオン目掛けてダッシュで駆け寄る。
「おぉ、久しぶりだなガイア。元気してたか?」
レオンが抱き上げるとガイアと呼ばれた子供が笑顔を浮かべる。
楽しそうな二人を見て笑うアカリと正反対でフリードは無表情になる。まさか、レオンが王族とゆかりがあり子供まで居るなんて知らなかった。
「エリザ。こいつがメイドの言ってた奴だ」
「まぁ! メアリちゃんが言ってたフリードさん?」
長い金髪を後ろで束ねた貴婦人はメアリを知っている様子で目を輝かせた。
「さぁさぁ、こっちにいらっしゃい。旦那は無視して行きましょ」
「旦那……」
フリードはつい言葉が漏れた。レオンには子供も妻も居て……どう反応して良いのか分からない。
「ガイアもパパなんてほっといて、こっちでお菓子食べましょ」
「はーい」
お菓子に負けたレオンは一瞬寂しそうな顔をしたがフリード達はエリザに連れられて別室に移動した。
隣の部屋では相変わらず王とレオンが子供じみた野の知り合いが行われていたがフリードは気にしないと心に決めてエリザに案内されて勇者パーティはテーブルについた。
「ルナちゃんが良くメアリちゃんを連れてきてお話は聞いてますよ。すっごく強い冒険者が幼馴染だって自慢してました」
「いや。俺なんてメアリの足元にも及ばない。今の俺はレオンと同じパーティに居るが役に立っているのか分からない」
ルナちゃん……エリザの言うルナという名前にフリードは聞き覚えがあった。確か、オフィキナリスの第二王女で軍師と呼ばれていた人だ。レオンも一緒に依頼を請ける事があり、そこでメアリと出会ったと言っていたはずだ。
あの幼馴染は過大評価が過ぎる。Sランクに言われると嬉しさよりも現実が追いついていないから重圧をフリードは感じる。
「メアリが大袈裟に言ってるだけで、俺は別にそう凄い冒険者では無い。アイツのほうが百倍は凄いさ」
「そんな事ないですよ。フリードさんは凄いです。あのオーク達をだだだだだーって倒してたじゃないですか? ところで、メアリって誰です?」
そういえば、フリードはメアリに関しての話を詳しくアカリにしていない事に気付いた。はて、どう説明しようかと悩んでいるとエリザはふふっと笑った。
「そうそう、メアリちゃんはうちの旦那と喧嘩ばっかりだったわ。多分、折が合わないのね。フリードさんはメアリちゃんとは仲良かったの?」
説明を考えているフリードにエリザが問い掛ける。場所が場所であり孤児院育ち、大人になってからは冒険者として街で過ごしていたフリードにとって城内で話す体験が初で、少し緊張していた。エリザの問を無視出来る訳も無く答える。
「仲が良いかと聞かれたら……そうだな。付き合いも長いし、そこそこと言ったところか。一番新しい思い出は二人で魔物討伐に行ったのを記憶している」
エリザを優先する事でアカリを無視する形になってしまった。ほっぺを膨らませて目で訴えるアカリを横目にフリードはエリザを見る。
「やっぱり。二人は仲良しさんだったのね。うちの旦那とは上手く付き合えそう? 結構……我道を行く人で心配なのよねぇ」
エリザの言う通りレオンは我儘で全員を振り回し行動している。残念な事に今は目的も一致しているので、フリードは特に気にしていなかった。アカリとベリアルも一応納得はしている様子なので問題無いと判断する。
物静かなベリアルにフリードは視線を向けるとちびっ子――ガイアがお菓子を食べている様子をじーっと見つめるベリアルが居た。
物欲しそうな顔に気付いたガイアが食べる? とお菓子を持った手をベリアルに伸ばす。
「お、さんきゅー」
ベリアルはお菓子を受け取り美味しそうに頬張った。
その様子を見てフリードは胸を撫で下ろした。レオンなら人に分ける事をせずに独り占めをしても不思議じゃない。この子は母親似なんだろう。
「言う事とやる事はめちゃくちゃだが、それをやるだけの力がレオンにはある。だからこの中に彼へ不満を持つ者はまだ居ないだろう」
何れ不満は出るかもしれないが、現状は大丈夫だとフリードは思っている。
「いつでも、あの人をダメだと思ったら死地だろうが離れていいですからね。そう簡単に死ぬ人でも無いから大丈夫のはずよ。まぁ、アタシもダメだと思ったら離れようって思ってたんだけど、気付いたら二十年も一緒に過ごしちゃったわ」
フリードとレオンの年齢に大きな差は無い。レオンが少々高いだろうが、二十年か……とフリードは理解する。
「酒癖以外、俺も不安は無い」
フリードの言葉に満足したエリザとメアリの謎を追求したいアカリが空気を読んでぐっと堪えていた。
そんな空間に響くは化け物の鳴き声。決して隣のレオンとストルス王が言い合う声では無く――大勢の魔物が鳴く声が確かに聞こえた。
真っ先に行動に移したのは魔族のベリアルで、ガイアと楽しそうにお菓子を食べるのを止めて窓際で外を眺めていた。
「んぁー、何かと思ったらワイバーンか」
トカゲの姿にコウモリの様な羽を持つ体長十メートルほどの魔物をフリードは思い浮かべた。ベリアルの隣に立ち、外を見ると遥か向こうの空で蠢く虫みたいな影が大量に飛んでいた。
「あれがワイバーンだと? 虫の様に見えるんだが?」
フリードの疑問にベリアルはいつもの調子で答えた。
「まだ距離があるだけで千体くらいのワイバーンが向かってきてんな」
国崩壊の危機が突如、ジェネラルに訪れていた。
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