剣聖の奥義
大食いで動けなかった――動きたくなかったレオンが重い腰をあげて青年に剣を向ける。
「うちのフリードをよくも殺しやがったな。魔族だからって俺様はビビらねーぜ」
勝手に死んだ物として話が続いている最中、フリードは二人を眺めていた。反射的に全力全開の一撃を放ち、敵の攻撃を受けたフリードは身体を動かそうとしたが鉛のように重たくて尻もちをついてしまった。
先程まで無敵だと思っていた全能感は無くなり、自分の魔力を感じることさえ出来なかった。
レオンが言った『魔族』が引っかかるけれど、フリードに出来る事は無い。唯一やれる事は……。
「勝手に殺すな」
フリードの声にレオンが口角を上げた。
「魔族さんが手加減かぁ!? それとも、全力でうちのフリードが耐えたのかぁ?」
ニヤつきながら魔族に話しかけるレオンに対して、興味津々な様子で魔族は笑い返した。
「んあー、ま。びっくりしただけよ。うわさに聞く貧弱な種族だと思いこんでたわ」
レオンは魔族の様子を伺うも、姿を現した理由が見つからず。目的も分からない。
そして、片翼の炎を纏う翼がフリードの攻撃でボロボロになっている今が勝機だと理解している。
赤い髪に鋭い目付きの青年を前にレオンは魔力を込めた。
スキル『バトルマスター』
レオンは剣を構えて剣聖フラガを身に纏う。人類最強を謳う剣の使い手になったレオンは地面を蹴って魔族へ突っ込んだ。
突風が真っ直ぐ魔族に向かって剣を振るも爆音が響き視界が悪くなる。
魔族がフリードの前に姿を現した時と同じ様に爆発を起こす事でレオンから距離を取る。
魔族の爆発により真っ黒い煙がフリードとアカリの視界を遮り、周りが見えなくなったところを間髪いれず、レオンが剣を振るい風で煙を吹き飛ばす。
魔族が立っていた場所の地面が黒く焦げて姿を消した。
「はえーな。ちくしょう」
空を見上げるレオンに釣られてフリードも見た。
笑いながら片翼を天に掲げた魔族が燃え盛る――まるで太陽のような輝きを放つ火球を構えていた。
「おいこら、卑怯者! さっさと降りて来いやぁ!」
レオンは相も変わらず、普段の調子で文句を付けていた。
「ばーか。誰が他人の土俵に付き合うかよ」
あざ笑うかのように舌をべーっと出した魔族が火球をレオン目掛けて撃ち放った。
両手で抱える樽程の大きさに見えていたが迫りくるにつれて視界を覆い初めた。フリードが想像していたよりも大きな火球で、エルフの里も街ゲルマンさえ被害が及ぶ。
そんな規模のスキルをフリードは見たことがない。否、魔族が人間と同じようにスキルを持っているのかさえ知らない。
「気張れよ俺様ぁ、信じてるぜ剣聖! 奥義・風の尊」
レオンは天に向って剣を振った。そこから陽炎のように周りが歪み始める、一度、二度、三度とレオンは剣を振った。次元が狂ったかの様にフリードの目にはレオンが歪んで映り、その空間が広がり始める。
周りを覆うように広がるレオンの作り上げた空間にフリード達は入った。荒れ狂う風をイメージしていたフリードの予想とは違い、レオンの作った空間では風一つ立たない無風。
レオンの作り上げた空間は今もなお広がり続けて火球を飲み込むとフリードの前にいたはずのレオンが姿を消した。
一瞬で火球の側に現れると握る剣で斬りつける。
風を纏った刃で火球が両断された。しかし、火球が消える事は無い。一撃の威力が激減したはずだがそのまま二つに別れて街へ降り注ぐ。二つ別々に弾けた火球を同時にレオンが斬った。
少なくともフリードには同時にレオンが二人は視界に映った。
剣聖フラガは剣で敵を斬り捨てる。風の力で刃を鋭くする事もあれば、風を纏い突風の勢いで相手との距離を詰める。風に愛された剣客こそ――剣聖フラガの真髄。
この空間ではレオンにしか追い風が吹かない。
火球が二個、四個と別れて絶え間なくレオンが斬り捨てる。
その火球が五百十二個となった時にレオンの奥義が切れた。自分が有利な空間を作り出す為に必要な魔力量は計り知れず、フリードはレオンの魔力が足りなくなったと察した。
フリードの体感時間として、レオンの空間が存在したのは約……十数秒。
破壊の権化に見えた太陽の火球も五百に分けられてしまえば、フリードの振るった剣圧を纏う風に掻き消された。
「はっ……はは。こんな人間が居るのか」
空高く舞い上がり火球を撃ち放った張本人の魔族が乾いた笑いを浮かべて地上に降りた。
片方の翼はフリードがぼろぼろに砕いた。そして、背を超える大きな炎を纏う片翼は縮んで見る陰も無い。
「俺様は特別さ、なんせ勇者だからなぁ!」
大量の汗を浮かべてレオンも薄ら笑いを浮かべて剣先を地面に突き刺し、全体重を預けているようにフリードは見えた。
「ちっ、大きな魔力に釣られたのが運の尽きか……まさか、立ち寄っただけで窮地に立たされちまう。油断したってのは言い訳か……最初の一撃で魔力の七割消し飛んじまったわ。はっはっは」
悔いの無い表情がこれかとフリードは魔族を見て感じた。
死ぬ事に恐怖を感じる訳でもなく、全てを出し切ったかの様に受け入れている姿が目の前にある。
「おうおう。うちのフリードを舐めちゃ痛い目みるぜ。ところで、立ち寄っただけとか言ってたな。お前が魔物を出したりした張本人で……合ってるよな?」
足腰ガクガクなレオンは虚勢を張っているとフリードは瞬時に理解した。もう、限界が近いに違いない。
「んあー、行方不明のボスを探してこの世界を回ってただけだが?」
そこでフリードは記憶を掘り返す。初めに手を出したのはフリードで魔族はその場に現れただけだ。そう、門から出てきた訳では無く、空を飛んでいた魔族がフリードの隣に着地したのだ。
そして、フリードが何かされた訳では無く。
本当に反射で全身全霊の渾身をお見舞いした始末。
嫌な汗をフリードは肌で感じ始めた。
「吹っ飛ぶのを見たから俺様が駆け付けたんだが……フリード?」
視線が予想通りフリードに集まった。
嘘で取り繕う訳でも無く、素直にフリードは声高らかに告げる。
「あまりにも急に現れたから魔物の仲間だと思ってぶん殴った」
静まり返る戦場……心配そうな表情で見守るアカリだけが温かい。
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