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冒険者が破壊する薄明の世界  作者: Yuhきりしま
~いずれ拳王となる狂戦士のソロ冒険者は酔っ払い勇者に絡まれて旅に出る~
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モンスターパレード


 大食いチャレンジは三十人前を用意した。六人で食べるにしても難しいギリギリのラインを攻めた料理長ジーヌは負けたくなかった。


 余裕だと思った相手に負ける屈辱を味わうのは久々で現実を受け入れたくない。


 ジーヌはゆっくりと息を吸い……吐いた。会場の盛り上がりを見たジーヌは完食してしまうだろうと肌で感じて……指示を出した。


「セボンジカのブオノを持って来い」


 寒い地域で取れたセボンジカと呼ばれる希少なシカから約一キロしか取れないブオノと呼ばれる部位を六百グラム用意させた。今度、エルフの里で行われる生誕祭に使おうと思っていた肉にジーヌは手を出す。


 百グラムで五万ペセタを超えるブオノは王族、貴族の集まりくらいでしか食べる機会は無い。


 完食の挑戦ジーヌが最後にとった行動は悪あがきでしかない。空腹が最高のスパイスなら満腹時に人間は食べる事が出来ない。限界ギリギリまで挑戦しているであろうチャレンジャーにジーヌが挑戦する。


 これは完全にジーヌの自己満足でしか無く、料理人として満腹の客さえも食べたいと思う最高の肉を提供する事だった。


 ジーヌは自前の包丁でブオノを切り分け、丁寧に火を入れていく。とろける脂身と柔らかさが売りのブオノは焼き加減が命で、素人が手を出すと後悔してしまう。


 ジーヌが真剣な眼差しで調理を始めた時に会場では終わりを迎えた。




 



「もう俺は無理だ、これ以上は入らん」


 弱音を吐いたレオンの隣でヴァンも呼吸を乱しながら最後の一切れに手を出した。


 半分以上をヴァンが食べて観戦客も最後の一口を今かと熱い眼差しで待っていた。


 ヴァンはゆっくりと口に運び咀嚼を始めた。六人で挑んだ戦いがやっと終わる想いで仲間を見ながら最後の一口を放り込む。


 その瞬間、人間とエルフの総勢百名近い観戦客が歓声を上げた。


「やりやがった!」

「ジーヌのやつ。早く出てこい」

「ばけもんだ……すげぇ」


 各々が感想を言いながら化け物じみたヴァンの食べっぷりに感心していた。


「酒と飯で腹が膨れて苦しい……暫く動きたくないなヴァン」

「兄貴……同じく魔力も尽きて限界だぁぁぁ」


 椅子に全体重を預けて休んでいるとコツン……コツンと足音がなり拍手大喝采の中で観客は手が止まった。


「完食おめでとう。料理とお腹の様子はどうかな? ご満足頂けただろうか?」


 料理長のジーヌがレオン達に問いかける。ジーヌの表情は完全なる無で、何を考えているのかレオンにも読み取れなかった。


「おう、美味かったぞ。まぁ、大半はこいつが食いやがったが満腹でもう食えそうに無い」


 大食いチャレンジの試合には完全に負けたジーヌが口を開いた。


「ご満足頂けた様子で私も嬉しいです。もちろんお代はタダで大丈夫です。こちら……私からのサプライズもとい挑戦です」


 後ろに立っていた店員からお皿を受け取るとブオノをレオン達の前に披露した。


「こちらは残してもらっても構いません」


 既に限界を超えた六人の前に出されたブオノを見てレオンが文句を言った。


「おいおい、今更メインディッシュを出されてもよぉ。腹に入んねーよ」


 そう言いながらブオノを観察する。火加減を注意しながら丁寧に入れている為、うっすらとピンク色の肉は脂身も安物とは違っていた。


 王都ジェネラルの社交界で見た事のある肉に酷似しており、こんな場所で出されるなんてありえない。


「おい料理長、これはセボンジカか?」

「おや、よくご存知で……」

「それで、何処の部位だよ。まさか、ブオノとか言わねえよな?」

「おやおやおや。よくぞご存知で」


 笑顔の料理長ジーヌに対し焦った表情のレオンが盗賊に話しかけた。


「おいてめぇら。腹はいっぱいだろうが、これは食っとけ」

「兄貴ぃ……流石にもう無理だ」


 弱音を吐くヴァンにレオンは無理やり口に突っ込んだ。


「ッ!?」


 肉を無理やり口に放り込まれてヴァンは焦るもブオノは口の中で蕩けてほんのり甘さが広がりソースが味を締める。少しヴァンが口を動かすと非情に柔らかい肉の繊維は切断された。


 ぺろりと食べてしまい、ヴァンは手下に叫ぶ。


「いらないなら貰っていいか?」


 限界だったお頭の目が輝いて全員が異変を感じた。この肉だけは腹がはち切れても食べなくてはならないと……盗賊達が無理やり口に運ぶのを見届けてレオンもブオノを食べた。


 ジェネラルでも食べられはするが、火加減が難しく特別な場でしかブオノは出て来ない。しかも、この店のブオノはレオンが食べたことのある味と遜色ない。冒険者ギルドも無い小さな街のイベントで出されるレベルを超えており、料理長が凄腕だとレオンは口で感じた。


「おい、あんた。良い腕だな」

「その一言で助かりました。またのお越しをお待ちしております。次にチャレンジ頂けた時は私の勝ちですがね」


 大食いチャレンジとしては負けたが一人の料理人としてジーヌは勝手に挑んで勝った。偶然、相手が『物』を知っていた事もあり、ジーヌに悔いは無い。


 この日、レオン達に意地を張ったジーヌはブオノだけで三十万以上の損を出していた。


 完全に完食したレオンは立ち上がるのも辛く、誰よりも先にギブアップしたザリーに指示をだす。


「フリードもそろそろ帰ってくる頃だろう、馬車をここまで持ってきてくれザリー。流石に動けるくらい休めただろう?」

「苦しいけど、頑張ってみるよ。お頭も此処で待っててくれ」

「付き合いますぞ」


 カロンとザリーが席を立ち、ふらふらとした足取りで馬車へ向かった。ゆっくりと着実にゲルマンの出口へ向かい馬車の元へ到着すると繋いだ木からロープを外すのに苦戦する。


「酔ってて視界がフラフラしますぞ」


 カロンは目の前がぐわんぐわんとする中で自分達の馬車を外した。


「お先に行きますぞ」


 ザリーにそう伝えてカロンが馬車を操作した。視界が揺らぎ手綱もままならず、馬も混乱して明後日の方向に歩みを進める。


「道が違いますぞ」


 カロンは馬に声を掛けるが、聞く耳を持たずカロンの運転捌きに従って走り出した。


 馬車の揺れと泥酔が影響し、偶然にもエルフの里へ近づく。エルフ無しでは辿り着かない迷いの森は長老の力で実現していた。魔力の多いエルフかつ、里を外部から隠す実力者が代々長老を努めている。


 その里へ向かう馬車は彷徨い、いずれ入り口へ戻るはずだが……森の木々が一斉に消え始めた。周りを惑わす力を吸い取る様にカロンの運転する馬車の中にある宝箱へ魔力が集まる。


 そして、ゲルマンとエルフの里がある半ばで異変が起きる。


 突如、馬車は崩壊しカロンは馬の背中に放り出された。何が起きたのか理解できず馬は自由に走り出す。


 宝箱の中にあったのは魔族核で、エルフの魔力を急激に吸収し姿を変えた。大きな門に姿を変えて中から魔物が溢れ出る。ダンジョンの種類はモンスターパレード。


 一番厄介なダンジョンでボスを倒すまで魔物が溢れ出る。そして、魔物を掻い潜り門に近づかなければボスが姿を現さない。


 自由になった魔物達が暴れ始めた。

【読者へ作者からのお願い】


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