聖女か愚者か
お目々をぱちくりとさせる女性の背中へ手を回してフリードは体を起こした。両手両足を縛られ身動きが取れない状況を把握すると、まずは猿轡を外す。
「ぷはっ。ありがとうございます」
「礼はいらない。たまたまだ」
フリードは手足を解放して馬車から下ろした。レオンを見るとヴァンの肩をツンツンと木刀の先でつついて遊んでいる。
「レオン。人が居たぞ」
「んぁ……はっはーん。お前ら人攫いまでやる極悪党だったんか」
悪事のバレた盗賊達は居心地悪そうにしながら未だに起き上がれないヴァンの周りに正座させられている。
「しかも、エルフの可愛らしいお嬢さんじゃねーか。そのミディアムボブの金髪は俺の髪色と同じで美しい、赤みの掛かった茶髪のフリードじゃなくて俺と同じで素敵な人だ。さーて、お前ら。この可愛いお嬢さんをどうしようとしてたのか白状しな!」
盗賊達は全てを曝け出した。この区域でエルフは珍しく更に上玉ときたら高く売れる。金持ちの貴族へ裏ルートから売り付けようとしていた。しかも、エルフを攫ったのは先程の出来事で未来に約束された大金に対し、気が大きくなり目の前に居たフリード達をノリで襲った始末。
「お嬢さんお名前は?」
レオンはきらりと白い歯を輝かせてエルフに名前を尋ねた。
「えっと、アカリです。助けて頂きありがとうございます」
「構わねーよ。さぁこっちに来な、こいつらの処分を考えようぜ」
大手を振ってアカリを迎えるもフリードの背中にひょっこりと隠れてしまった。その様子に疑問を持ったフリードがアカリに尋ねる。
「どうかしたのか? あいつは多分、悪い奴じゃないぞ」
自分で言ってて食糧難の原因を頭の片隅に置いてフリードは断言した。
「いえ、あの。この辺だとああいう感じの人には注意しろってエルフの里で言われてるんです」
ああいう感じの人……その言葉を聞いてフリードはレオンを見つつ両手を軽く上げて呆れた様子を体現した。
「まぁ、いい。んじゃ、とりあえず食料はあったんだよな? こいつらは……縛り上げとくか」
フリードはアカリを縛っていたロープを取り出し盗賊達を縛り上げた。身動きが出来ない状況にしても冒険者は注意しなくてはならない。
「おい、そこのでっかいの」
レオンはヴァンに話しかけるも肩の痛みに悶えていた。レオンは少しやりすぎたと考えている間にアカリがそっと駆け寄る。
ヴァンの傍らにしゃがみ込んだアカリは手をヴァンの肩に当てると緑色の優しい光が彼を包み込む。
先程まで痛みに耐えていたヴァンの様子が変わって次第に表情が明るくなっていく。その間の時間は僅か数秒ほどの出来事だった。
「痛くねぇ。ぐぅぅぅお嬢ちゃんすまねぇ。あんたを攫った相手にこんな……」
どうやらアカリは癒やしのスキルを持っている。それで自らを攫った極悪人へ施しをしていた。その行動理由が分からずフリードはアカリへ話しかける。
「どうしてだ? 攫った相手だろう?」
ふぅと一息ついてアカリが立ち上がりヴァンの側を離れた。
「大事にならなかったので……痛そうで治しました。それに……」
アカリがヴァンに目を配ると泣きながら感謝を述べている。
「ごめんよ。もうだめだぁ。上玉のエルフを売って大金を得ようなんて考えてた俺らが悪かったー」
正座していた手下もヴァンを支えながら治って良かったと騒いでいる。
「反省しているので……」
アカリの言葉にヴァン達は頭を下げていた。しかし、そんな事はお構いなしとレオンが割り込む。
「甘いぞ。悪党は悪党だ。さぁ、おまえら装備も全部置いていけ」
容赦ないレオンに対して命乞いの如くヴァンが叫ぶ。
「兄貴ぃ、勘弁を……どうかお許しください」
お頭に続いて手下達も同じ様に続いた。
「すまねぇ。この通りだ」
「ナイフを投げて悪かった! せめてお頭だけでも許してくれ」
「この剣も差し上げますぞ」
レオンも頭を掻きながらどうしたもんかと悩んでしまった。
「めんどくせぇ。フリード……どうにかしてくれ」
やれやれと言った様子でフリードが話を始めた。まず、フリード達の目的がオフィキナリスへ向かう事だが食料が足りない。その為、途中にある予定のセンターワールドで補給をしようとしていた矢先に起きた事件だ。盗賊の食料を奪うと今度はこいつらが食糧難で何をするか分からない。
また道行く商人を襲う可能性も考えられる。まずフリードは現在地を聞き出すことにした。
盗賊達の話を聞くとセンターワールドの南に位置する『ゲルマン』と呼ばれる街の近くだという事が分かった。補給目的でセンターワールドへ行くと話を聞いたアカリが『是非ゲルマンへ寄ってください。お礼に食料を差し上げます』と提案する。
フリード達も攫われたアカリをここで放置する訳にも行かず、送るつもりだったので好都合だった。
盗賊達に関しては然るべき処罰を求めるレオンと大事にしたくないアカリが何故か対立してしまった。もしもフリード達が盗賊に絡まれなければアカリがどうなっていたのか想像をしたくない。そんな相手を庇う理由は最後までフリードは分からなかった。
攫われた事実を街の人には内緒にして欲しいとアカリがお願いした。本人に不都合があるならそれで良いとレオンも納得している。
盗賊達に関しては開放しても良い事が無い。フリードもそう思っていたので、センターワールドへ突き出す事にした。元冒険者が人を攫って儲けているとなれば罪も重くなる。しかし、アカリは攫われていない事になってしまうので、馬車を奪われかけたが返り討ちにしたという理由で突き出すことにした。
命が残ってるだけで俺達は十分と盗賊達も話がついた。
「レオン、どっちかの馬車を動かしてゲルマンに行こう」
「ちっ、しゃーねーな」
手綱をフリードに握らせ続けた男はめんどくさそうにしていた。あいも変わらずアカリはフリードの後ろに隠れているので、先頭を道案内のアカリとフリードが乗った馬車で進み後続に盗賊を乗せたレオンが続くことになった。
「レオンは一応、うちのパーティリーダーだ。付き合いは浅いが悪いやつじゃないぞ」
「あの人は酒癖も悪く女遊びもしそうな人です」
エルフという異種族はどうやら見る目があるとフリードは感心してしまった。
馬車に乗り込むまでじーっとアカリはレオンを警戒していた。
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