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そして彼は眠りについた

 魔王との戦いから1週間が経過した。

 今回戦いで荒れたここパゼレやその前にも魔王に攻められた都市は少しづつだが復旧が進められていた。


 俺や戦いに参加した冒険者達も積極的に復旧に勤しんでいる。

 その最中、俺はとある事を決心していた。


「あっ!龍吾郎さん!!」


 壁の補修の為のレンガを運んでいる際、聞き覚えのある声に呼び止められた。


「あぁ、クーリッシュか。よっ都市の英雄」


 その声の方を振り返るとクーリッシュがいた。彼はこの戦いで魔人を複数撃破して大きく貢献した為、都市の英雄だなんて呼び名がついた。

 俺はからかうようにその名で彼のことを呼ぶ。


「恥ずかしいからやめてくれ、それに本当の英雄はお前なんだろ?

なんで魔王討伐の件、公表しなかったんだ?」


 不思議そうにクーリッシュは尋ねてきた。

 そうだ魔王討伐を俺がしたという事実は公表してもらっていない。

 知っているのは冒険者ギルドのギルド長、ハインとここにいるクーリッシュとその仲間のマーヒィ、ファリアそしてアミだけだ。

 

 それは俺自身の要望だった。

 正直に言って魔王に勝った……なんて自分では思えないしそれにだ。


「俺が魔王倒したって言ったらなんか面倒事押し付けられそうでさ……」

 

 俺がもし魔王を倒した男になるのなら、色んな厄介事を任されそうな気がした。

 魔王を倒した男ならなんでも任せられる、そう他の奴等に思われるのが嫌だったのだ。


「まぁあんた本人が決めた事だ、俺がとやかく言う資格はないな。

…………

それにしても魔王軍との戦いからあっというまに時間が過ぎたな……」


 クーリッシュは俺の決めたことに対してそれ以上は言わずに都市を眺めて物思いに耽る。


「どうした?何か悩みか?」


 何か心配事がある、彼を見てそう感じた俺は彼の隣に立ち相談に乗ることにした。


「……マーヒィとファリアの事です

彼女達は俺に好意を持ってくれています……けれど、俺にとって2人は大切な仲間。

どちらかを取る事なんて俺には出来なくて……」


 クーリッシュはすぐに打ち明けてくれた。

 あの2人の事か……確かに彼女達を見ていてそういう感情があるという事は知っていた。

 その事を俺に相談してくれるという事はそれだけ俺の事を信頼してくれているということ。

 俺はそんな彼にどう答えればいいかその場で少し考え込みそして口を開いた。


「クーリッシュはどうしたいんだ?」


「えっ……?」


「お前にとってあの2人のどっちが大切でどっちを幸せにしたいんだ?」


 俺がまず聞かなければいけない事、それはクーリッシュの気持ちだ。

 彼がどうしたいのか何を思っているのか、それをまずは聞いた。


「そ、そんなの決められない……俺にとってあの2人は両方大切で両方幸せにしたい」


 彼は俺の問いに対して強欲な答えを出した。

 だがそれでいいんだろう、彼のような他人を思いやれる男は少しばかりそんなわがままをしても許される。


 なんて言ったって彼は英雄なのだから。


「なら2人とも幸せにしてみせろ」


「えっ?なんて?」


 俺はこの世界の結婚について詳しくは無い。

 夕m……説明がいてくれたらそんな事はすぐにわかっただろう。

 けれど説明はもういない、だからこれは俺の言葉で彼に送る。


「どちらかを選んで後悔するって言うんだったら2人とも選べ!

そして絶対に手放すな!」


 俺は彼を真正面に見据えて言い放つ。

 俺には掴み取れなかった幸せがあった、だから俺はこの先を生きる若者達が幸せになるように助言するだけだ。


「ま、まぁそういう事だ……こうは言ったが決めるのはお前自身だ。

悔いのないようにな、じゃっ!」


 俺は自分の発言に少しばかり羞恥心を覚えた為この場を去ろうとする。

 あ、おっとこれを彼に言うのを忘れてた……


「あ、あと俺!冒険者引退するからな!!」


「あ、あぁはい……ってえぇ!!??」


 俺が去り際に放った言葉を一瞬理解できずに返事をしたクーリッシュの驚きの声がその場から離れる俺の背中から聞こえた。

 そう俺はこの機会に冒険者をやめる……そう決断したのだ。


この事はハインに伝えており了承済みである。


 理由としては2つ、まずは金銭的に相当な余裕が出来たからである。

 魔王を倒した、その報酬としてハインから直接俺に多額の金貨が振り込まれた。

 魔王討伐の名誉を断った手前一度は受け取らないと言ったのだがハインの意思は固く結果として俺は何世代も先の人間が楽できるほどの大金をもらった。

 そして2つ目の理由だが、単純な話戦闘する事が嫌になったからだ。

 俺がいなくともクーリッシュや強い奴は大勢いる、だから俺は安心して自分のするべき事をやらせてもらおうかと思ったのだ。

 

 そして俺はそのままの足で無事だった我が家へと帰る。

 家に帰ると俺は家の目の前にある3つの石に手を合わせる。


 この3つの石、これは一応墓石代わりといったものだ。

 それぞれ夕美、アミの母親であるアーミレッタ、そして魔王のものだった。

 パゼレの墓地に建てようかとも思ったがこの3人はそれぞれ別世界の人、魔人、魔王と周りの人からしてみれば迷惑がかかる事と大切な人のお墓は自分達の手で作って弔ってあげたかったからだ。


 3人にお参りが終わった俺は家へと入る。


「お帰りなさい!お父さん!!」


 玄関でアミが元気な声で出迎えてくれる。

 その声に安堵しながら俺は家の中へと進んでいく。


 元の世界でいうところのリビングに着き椅子に座る。

 アミはそんな俺の対面に座り何やら体をもじもじと動かしている。


「どうしたアミ?トイレか?」


「ち、違うの!!あっ……いや、えっと……」


 アミは強い口調で否定した後、再び歯切れが悪くなった。

 いったいどうしたのだろう?ここで俺が聞く事も出来るが、ここはアミ自身が言ったほうがいいと思いあえて口を出さなかった。


「私……ね、学校に行きたいの!!」


 アミから出た言葉は意外なものだった。

 学校確かにこの世界にも存在するとは聞いていた、けれどアミには関係ないと思いあんまり話題にはしていなかったが、その事をアミ自身から言われるだなんて想像していなかったのだ。


 俺はそのアミの発言に対して


「……いきなりどうしてだ?」


 ひとまずはその発言に至った経緯についての疑問を投げかけた。

 確かにアミの意思を尊重したい、だけれども俺は親として彼女の意思を聞かなければいけない、そう考えてのことだった。


「私は……勉強して、みんなが幸せになれるような世界を作りたい!」


 アミから出た答えはあまりにも幼稚で夢見がちな理想だった。

 それでも……そんな理想を語る彼女の目は真っ直ぐに輝いて見えた。


「お父さんといろんなところに行ってわかったの。

例え苦しい暮らしでも頑張ってる子がいたり幸せな暮らしだけども、そのせいで危険な目にあったりする子達がいて……みんな頑張ってる。だから私はこれからの子供達がもっと幸せでもっと安全に過ごせる世界にしたいの。

でもそういうのを変えるには勉強して偉くならないといけない……

私なんかがどんなに頑張っても何もうまくいかないかも知れない……だけど!このまま何もしないのは嫌なの!!」


 アミの主張が強く語られる。

 これは彼女はこれまで過ごしたり見てきたりして彼女なりに思った事なのだろう。

 彼女の生い立ちを考えるには充分な程だ、それでもそんな簡単に世界は変えられるものではない……

 けれどアミの真っ直ぐで純粋な顔を見て誰が止められようか……


「……わかった、やってみなさい。」


「ほんと!?ありがとう、お父さん!!」




 そして俺はアミに学校へ行かせる事にした。

 近くの学校はこの都市じゃ無くて別の都市にあるという……

 これがどういうことかと言うと……アミとは離れて暮らす事になる。

 アミが行こうとしている学校はエスカレータ式の学校で長期休暇がありその時には帰っては来れるらしいが、アミが卒業する18歳まではちゃんと一緒には過ごせないのだ。


 だから俺も学校がある都市に移り住もうとしたが……


「お願い、お父さん……このままお父さんに甘えっきるのはダメだと思うの」


 そう言われて辞めになった、いつのまにか大人な考え方をするようになったと関心すると共にアミと離れるという事実により悲しくなった。

 

 それから一年程が経過し、学校へ入るための手続きが完了してアミは全寮制の学校へ自分の夢に向かう為に行ったのだ。




 ──それから時は流れる。

   

 長期休暇中には帰ってくるアミを出迎えたりまた学校に帰っていくアミを涙ながらに見送ったり。

 その数年後アミが学校を卒業するにあたりその都市へ出向いたりもして卒業式には思わず号泣してしまったな……


 その後アミは俺がいる都市には帰らず別の都市で仕事をする為、俺の元から巣立っていき一人暮らしを始めた。


 その間にクーリッシュとファリア、マーヒィの結婚が決まった。

 数年の交際を得て重婚という形でのゴールインだそうだ。

 俺は元冒険者として友人として彼らを盛大に祝った。


 それから時は流れに流れてアミが働いていた都市で議員的なものになった。

 俺にはこの世界での政治はよくわからないがアミは各地を巡り色んな人達の為に活動を行っていった。


 そんなこんなありながら……


 アミが男を連れて挨拶をしに帰って来た。

 アミが連れて帰って来た男の名前は……リアンだった。


 親として簡単に結婚の許可を許すわけにはいかない……俺はリアンと数時間程話し合った。

 アミの事やリアン自身の事、本当に彼にアミをたくせるのかどうかを見極める。


 そうした後に俺は2人の結婚を認め2人は結婚する事になった。


 しばらくして2人の結婚式が行われ多くの人が2人を祝福するために式に参加してくれた。


 俺もこの日のためにスーツを新調してアミと共にバージンロードを歩く。

 隣で歩く花嫁姿のアミを見てなんとか我慢しようとするも涙が滝のように溢れ出てしまう。


 それはそれとして立派に王女として振る舞っているリリーはアミの結婚を聞いて大暴れしたと聞いたがまぁなんとか参加出来たようだ。

 リリーはずっと泣き叫んでいた、その涙は友が結婚した事に対しての喜びの涙かはたまた……


 そんなこともありながら結婚式は終わりアミはリアンと2人暮らしする事になって定期的に俺のところに2人で顔を出すようになってから数年……俺の家に来るのが2人から3人に変わった。

 アミとリアンの間に生まれた女の子、名前はユウミと言う。

 これはアミが俺の寝言で聞いていた名前だそうだ……

 俺はその事をアミから教えられて少し気まずくなりながらも自分に出来た初孫として可愛がった。


 そして数年─数年─数十年─時は止まらずに動き続ける。


「お父さーん、来たよ!!」


 家の玄関が開き聞き覚えのある声がする。

 声は……そんなに大きくは出せない。

 なら直接出迎えに……満足に足が動かせない。

 結局アミが俺のところまでくるのを待ってるしかない。


「ごめんね、リアンもユウミ用事があって来れなくて」


 俺が寝ている寝室に着いてアミは申し訳なさそうに話す。

 アミはもう40近く……その姿は初めてあった時に比べて完全に大人になっており健康のまま過ごせているみたいだ。


「今日はね、ゼリーを持ってきたの。食べやすくするからちょっと待っててね」


 アミは持ってきた袋からゼリーの容器を取り出して中身を皿に移し替えて細かく歯がなくても飲み込めるように崩してくれて俺はそれをゆっくりと飲み込んだ。


 ゼリーを食べたからなのか……なんだか身体がふわふわして眠たくなってきたな、あぁそうかこれは……


「……なぁ?アミ……」


「どうしたのお父さん?」


 弱弱しくアミに語りかけ、アミは優しく笑顔で返事をしてくれた。


 あぁ……段々と視界が無くなってきた。


「俺は……ちゃんと、父親だったかな?

俺が父親でよかったか?」


 ずっと思っていた事……俺はこの子の父親になれたのか、何不自由なくこの子を育てられたのかそれが俺にとってずっと知りたかった。


「本当はね、最初はお父さんの事が怖かった……なんでこの人は会ったばっかりの私の為にここまでしてくれるんだろうって……ずっと不思議だった。

でもお父さんと過ごしているうちにわかったの、お父さんは凄く優しい人だって。

……お父さんがいたから私は今も生きていて色んなことを見て知ったりして、友達も多く出来て、そしてリアンと出会えた。

だから私は……お父さんがお父さんで本当に良かったよ」


 アミは曇りなき笑顔で俺に答えた。

 その笑顔は俺が今まで生きてきた人生の中で1、2を争う程に綺麗なものだった。

 その笑顔が俺の最後の記憶になるなら……これほど幸せなものはないなと俺はホッとしてゆっくりと瞳を閉じる。


「あぁ……そうか、それなら……よかった」


 そう言い残して龍吾郎は息を引き取った。


 その後、アミの話では彼は幸せそうな顔をしていたという。

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